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馬鹿じゃないのか◆
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【後輩(冴島)視点】
はあ……、どうしてこんなことになってんだ。
この人、頭が悪いわけでも仕事ができないわけでは決してないはずで、むしろ頼りになる人だったはずなのに。
なのにあんな胡散臭いマッサージ屋のコマンドにホイホイ引っかかるなんて、言っちゃ悪いが馬鹿じゃないのか。あんなの、Subじゃなかったらなんなんだ。
確かに彼がSubだったからこそDomの言葉に流されてしまったのだろうと理屈はわかる。だけどそれならそれとして、果たしてこの人は今まで一体どうやって……よく無事に生きてこれたなと思うと信じられないにもほどがある。
この社会には男女という生物学的な性別に加えて第二性によるダイナミクスという概念が存在する――という事実はここ数十年でようやく一般的にも認知されてきた。
言葉によるコマンドやグレアと呼ばれる眼力のような威圧感によって他人を支配する資質を持つDom性、そしてDomが放つコマンドやグレアに対して非常に敏感な体質を持つのがSub性だ。
だがその特性を持って生まれる者はそれぞれ総人口の数パーセントであると推測されており、世間での認知としては都市伝説のように思われているような節がある。
そんな事情もあって、これらはいわゆる加虐あるいは被虐趣味のような性癖と混同されやすく誤解も多い。
支配する側とされる側の性、とだけ聞けばいわゆる支配階層と呼ばれる社会的な成功者とその奴隷、なんて偏見もまだまだ根強く本当にいい迷惑だ。
確かに特性をうまく活かして成り上がる者ももちろん存在するが、それと人間としての能力とはそれほど関係ない。
それらはあくまで結果論でしかなく、それにそもそも実際にはいずれも生理的な欲求であるとされている。
そしてそれが満たされない状態が続けば、心身の不調にも繋がる非常に厄介な性質であることはあまり知られてはいない。
既にお察しの通り、俺はまさにその当事者として――比較的強いDom性を持って生きてきた。
世間一般のイメージとしてはDom性が強いほど優れているように思われがちだが、それ以外の能力が特別高いわけでもないただの人間だ。
確かに上に立つことに向いているタイプの人間がDomという性質をうまく利用すれば社会的に成功する可能性は高いだろうし、その横の繋がりなどによって結果的にそういう家系から多くのDomが輩出されるというのも不思議な話ではないだろう。
だがそれはあくまでひと握りの成功者が際立っているだけで、俺たちのような一般家庭に生まれ育ったただ生理的な支配欲求が強いだけ。
それは軽いコマンドの応酬程度で完全に満たされることはほぼないし、無理に満たそうとしたとして、相手のSubの許容範囲を超えた時点で攻撃と変わらない重圧だ。
Dom性が強いほどうっかり気を抜くと自分の意思に反してグレアを放ってしまう可能性も高いわけで、はっきり否定ないあたりが本当に厄介すぎる。
かといってそれを抑え込もうとすればその分心身不調に直結するから、Subとのプレイで解消されない以上は結果的に抑制剤が手放せない。
俺自身、十代で発現してから年々強くなっていくDom性を抱えて十数年生きてきて、なにも思わなかったわけじゃない。
どうしていいかわからないままDom性を持て余していた学生の頃は、視力が悪かったことによる目つきの悪さのせいで、悪意はなくとも無意識にグレアを撒き散らしていたらしい。
すぐにDomだと気づかれて、Subだといって近づいて来る生徒も一定数存在した。
俺だって思春期真っただ中なのはお互い様で。モテたくなかったわけじゃない。
コンタクトにしてみた時期もあったのだが、そしたら俺の感情に合わせてグレアがだだ漏れとかで、見世物具合が悪化したのはちょっとした黒歴史でもある。俺は納得いかないが。
それでもSubだという女子と付き合えば、初めはうまく恋人をやれていたはずだと今でも思う。
だがそれ以上に仲を深める段階で、お互い満たされていないことは明らかだった。
俺から無理やり従えさせようなんてしたこともないし、Domのコマンドはある意味献身だ。
だけど大切な彼女に対する俺の全力の奉仕は彼女にとっては強すぎるものだった。
彼女が限界まで俺を受け入れてくれようとしてくれるだけで愛情としては満たされているはずなのに、俺の生理的欲求は全く満たされていなかった。
もちろんそんなことを直接伝えたわけではないが、お互いが大切だからこそ言わなくても伝わってしまうものらしい。
結局その後すぐにうまくいかなくなって別れたあとは、女子でも男子でも、あるいは自称Subだとしても来るもの拒まずに付き合った。
だけどそれで理解したことは、どれだけ相手を大事に思っていても、Domとしての俺が満たされることはなかったということだけだった。
それでも思春期の俺はそんなことを言語化できるはずもなす、親にも言えず密かに通った病院でも「パートナーをつくるといい」なんて雑に言われるだけで。
それができないから悩んでるんだって食い下がってどうにか薬を処方してもらうことしかできなかった。
いろいろあって今は総合病院で、自分もDomだという先生に世話になってからはもう数年になる。
Domという当事者として親身になってくれるのはものすごく心強いし、抑制剤とともに静かに会社員として暮らすことが俺には合っていることも否定しないでいてくれるからここのところは穏やかに生きてきた。だからこそ──
はあ……、今の職場は確かに最近は業務も残業も多いけど、適度にドライな人間関係が居心地はよかったはずなのに。
山口先輩はまあ……確かに距離が近い人ではあったが、あの人はあれで空気は読んでいたから安心できた、はずなのに。
あんなことになって、これからどう接するのが正解だろうかと頭を悩ませる。
というか、そんなことより先輩は……大丈夫だろうか、いろいろと。
はあ……、どうしてこんなことになってんだ。
この人、頭が悪いわけでも仕事ができないわけでは決してないはずで、むしろ頼りになる人だったはずなのに。
なのにあんな胡散臭いマッサージ屋のコマンドにホイホイ引っかかるなんて、言っちゃ悪いが馬鹿じゃないのか。あんなの、Subじゃなかったらなんなんだ。
確かに彼がSubだったからこそDomの言葉に流されてしまったのだろうと理屈はわかる。だけどそれならそれとして、果たしてこの人は今まで一体どうやって……よく無事に生きてこれたなと思うと信じられないにもほどがある。
この社会には男女という生物学的な性別に加えて第二性によるダイナミクスという概念が存在する――という事実はここ数十年でようやく一般的にも認知されてきた。
言葉によるコマンドやグレアと呼ばれる眼力のような威圧感によって他人を支配する資質を持つDom性、そしてDomが放つコマンドやグレアに対して非常に敏感な体質を持つのがSub性だ。
だがその特性を持って生まれる者はそれぞれ総人口の数パーセントであると推測されており、世間での認知としては都市伝説のように思われているような節がある。
そんな事情もあって、これらはいわゆる加虐あるいは被虐趣味のような性癖と混同されやすく誤解も多い。
支配する側とされる側の性、とだけ聞けばいわゆる支配階層と呼ばれる社会的な成功者とその奴隷、なんて偏見もまだまだ根強く本当にいい迷惑だ。
確かに特性をうまく活かして成り上がる者ももちろん存在するが、それと人間としての能力とはそれほど関係ない。
それらはあくまで結果論でしかなく、それにそもそも実際にはいずれも生理的な欲求であるとされている。
そしてそれが満たされない状態が続けば、心身の不調にも繋がる非常に厄介な性質であることはあまり知られてはいない。
既にお察しの通り、俺はまさにその当事者として――比較的強いDom性を持って生きてきた。
世間一般のイメージとしてはDom性が強いほど優れているように思われがちだが、それ以外の能力が特別高いわけでもないただの人間だ。
確かに上に立つことに向いているタイプの人間がDomという性質をうまく利用すれば社会的に成功する可能性は高いだろうし、その横の繋がりなどによって結果的にそういう家系から多くのDomが輩出されるというのも不思議な話ではないだろう。
だがそれはあくまでひと握りの成功者が際立っているだけで、俺たちのような一般家庭に生まれ育ったただ生理的な支配欲求が強いだけ。
それは軽いコマンドの応酬程度で完全に満たされることはほぼないし、無理に満たそうとしたとして、相手のSubの許容範囲を超えた時点で攻撃と変わらない重圧だ。
Dom性が強いほどうっかり気を抜くと自分の意思に反してグレアを放ってしまう可能性も高いわけで、はっきり否定ないあたりが本当に厄介すぎる。
かといってそれを抑え込もうとすればその分心身不調に直結するから、Subとのプレイで解消されない以上は結果的に抑制剤が手放せない。
俺自身、十代で発現してから年々強くなっていくDom性を抱えて十数年生きてきて、なにも思わなかったわけじゃない。
どうしていいかわからないままDom性を持て余していた学生の頃は、視力が悪かったことによる目つきの悪さのせいで、悪意はなくとも無意識にグレアを撒き散らしていたらしい。
すぐにDomだと気づかれて、Subだといって近づいて来る生徒も一定数存在した。
俺だって思春期真っただ中なのはお互い様で。モテたくなかったわけじゃない。
コンタクトにしてみた時期もあったのだが、そしたら俺の感情に合わせてグレアがだだ漏れとかで、見世物具合が悪化したのはちょっとした黒歴史でもある。俺は納得いかないが。
それでもSubだという女子と付き合えば、初めはうまく恋人をやれていたはずだと今でも思う。
だがそれ以上に仲を深める段階で、お互い満たされていないことは明らかだった。
俺から無理やり従えさせようなんてしたこともないし、Domのコマンドはある意味献身だ。
だけど大切な彼女に対する俺の全力の奉仕は彼女にとっては強すぎるものだった。
彼女が限界まで俺を受け入れてくれようとしてくれるだけで愛情としては満たされているはずなのに、俺の生理的欲求は全く満たされていなかった。
もちろんそんなことを直接伝えたわけではないが、お互いが大切だからこそ言わなくても伝わってしまうものらしい。
結局その後すぐにうまくいかなくなって別れたあとは、女子でも男子でも、あるいは自称Subだとしても来るもの拒まずに付き合った。
だけどそれで理解したことは、どれだけ相手を大事に思っていても、Domとしての俺が満たされることはなかったということだけだった。
それでも思春期の俺はそんなことを言語化できるはずもなす、親にも言えず密かに通った病院でも「パートナーをつくるといい」なんて雑に言われるだけで。
それができないから悩んでるんだって食い下がってどうにか薬を処方してもらうことしかできなかった。
いろいろあって今は総合病院で、自分もDomだという先生に世話になってからはもう数年になる。
Domという当事者として親身になってくれるのはものすごく心強いし、抑制剤とともに静かに会社員として暮らすことが俺には合っていることも否定しないでいてくれるからここのところは穏やかに生きてきた。だからこそ──
はあ……、今の職場は確かに最近は業務も残業も多いけど、適度にドライな人間関係が居心地はよかったはずなのに。
山口先輩はまあ……確かに距離が近い人ではあったが、あの人はあれで空気は読んでいたから安心できた、はずなのに。
あんなことになって、これからどう接するのが正解だろうかと頭を悩ませる。
というか、そんなことより先輩は……大丈夫だろうか、いろいろと。
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