地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
96 / 116
第四章 皇女様の帰還

第6話―4 演説

しおりを挟む
 そうやってルニ子爵がグーシュを見つめている間にも、広場には地球連邦軍の部隊が次々と入ってきた。

 前衛の軍楽隊。
 小銃を持った歩兵部隊。
 グーシュが乗った指揮車を先頭にした装甲車部隊。
 身長三メートルの強化機兵部隊。

 宿営地での行進より数はかなり少ないが、それでもかなりの部隊だ。
 そうして広場に入場した部隊は、子爵公邸の両脇に軍楽隊が、そして歩兵部隊が子爵公邸の前面に薄く、守るように展開した。
 
 残りの車両や強化機兵部隊は、広場を囲む様に展開する。
 まるで子爵公邸を守りつつ、広場を包囲するような配置だ。

 何事かと、緊張感を持って状況を眺める子爵達に、広場中央で控えていた指揮車がゆっくりと近づいてきた。
 
 そして、前面に整列していた歩兵が、指揮車からルニ子爵達の間に道を作るように二列で整列すると、指揮車のハッチからグーシュが颯爽と飛び降りた。

「捧げ―つつ!」

 指揮官と思しき歩兵が声を上げると同時に、グーシュに敬意を払うように鉄弓を掲げる歩兵たち。

 グーシュはその間を、ルーリアト式の敬礼をしながらゆっくりと歩き、子爵達に近づいていった。

 そして、グーシュに気を取られて子爵達は気が付かなかったが、指揮車の後ろでは背中のパーツが引っ掛かった一木を、ミルシャまで含めた総出で降ろそうと悪戦苦闘していた。

「おお、その太鼓腹! 久しいなルニ子爵。会いたかったぞ」

「は、はは! 子爵領一同、グーシュリャリャポスティ殿下をお迎えできる栄誉に、ただただ歓喜するのみです」

 まるでごく普通の訪問時の様に対応するグーシュに、子爵達は困惑を隠せない。
 それでも、皇族への礼儀を忘れないのはさすがと言うべきか。

「ははは、何回も言っているが、そんなにかしこまるな。わらわにとってこの子爵領は自分の家のような場所だ。ならばお前たちは家族も同然。その家族に仰々しくされたら、寂しいではないか」

 子爵達の困惑をよそに、グーシュの態度は変わらない。
 そうして、聞きたかったことをどのように聞くべきか悩んでいる間にも、グーシュはテキパキと話を進めてしまう。

「おお、そうだ。子爵に話しておくことがあった。それでな……ん? 一木殿! ミルシャ! 何をしているのだ!」

 グーシュが指揮車の方を見て叫ぶと、ほんの少し指揮車が揺れた。
 と思った瞬間、バキ! という大きな音が響き渡る。
 ルニ子爵やグーシュが何事かと思っていると、車両の後部からゆっくりと一木をはじめとする地球連邦軍の幹部一同が姿を現した。一木の背中に本来あったはずのパーツが無いことには、子爵領の誰も気が付かなかった。

 彼らを先導するのはミルシャだ。
 その態度はまるで、グーシュを相手にする時と同じであり、子爵達は先ほどの疑念が真実味を増したのを感じとった。

(ミルシャのあの態度! やはり、殿下は地球と手を結んだのか!?)

 子爵のそんな考えをよそに、近づいてきた一木は明るく話しかけた。

「やあ、子爵。今回は急な事で申し訳なかった。だが、事態は急を要する。どうしても急ぐ必要があったのだ」

 一木の物言いに、子爵達は疑念と困惑をより一層深くする。
 先ほどから、グーシュも一木も具体的な事を、何も言わないのだ。

 なぜ、ここまで曖昧な物言いに終始するのか。
 子爵達が必死に頭を巡らせていると、広場の入り口の方から子爵領の衛兵が駆け込んできた。

「し、子爵! 大変です、領民たちがこの広場に次々と集まって来ています!」

 突然の報告に子爵は驚愕した。

「な、何事だ! まさか、先ほどの行進で不安に駆られ……」

 子爵がこの時考えたのは、不安に駆られた領民による暴動だった。
 勿論、グーシュを見てすぐに暴動を起こすようなことは、普通の子爵領ならばあり得ない。

 だが、現在はグーシュと皇太子の構想が勃発している可能性が高いのだ。
 領民を焚きつけるような連中が入っていてもおかしくは無いのだ。

 しかし、そんな子爵の危惧は、グーシュによってすぐに否定された。

「ああ、心配するな子爵。これからわらわが演説をするから、それを聞きに来たのだ」

「え、演説……?」

 子爵はあっけにとられた。
 無理もない。突然どころではなく、たった今まで何も聞いていないのだ。

「そうだ。お前たちも不安に思っておるだろう。わらわがここにいる理由。交渉の行方。橋の崩落。異国の服を着て、地球連邦軍と共に街にやってきた理由……それらについて、子爵や領民たちに説明するための演説だ」

 グーシュの物言いに、ここに至って子爵達は理解した。
 グーシュと地球連邦軍の思惑に思い至ったのだ。

 答えは単純だ。
 演説によって、領民を煽り、子爵達をグーシュ派として巻き込むつもりなのだ。

 確かに、それをされれば子爵達に選択肢は無くなる。
 領民がグーシュに付くことを求めれば、子爵達が中立を叫んでも抗うことは困難だからだ。
 
 しかし、一方で子爵達は安堵してもいた。
 なぜならば、領民たちがグーシュに付く可能性はほとんど無いからだ。

 確かに、このルニの街の領民をはじめ、庶民のグーシュに対する好感度は高い。
 しかしそれは、あくまでもグーシュが皇族として、庶民の生活を守る事を主張し、行動しているからだ。

 だが、今回グーシュが演説で領民に求める事は、いかにあくどいことをやっていようとも、この国の正当なる皇位継承者の一人である、皇太子への反逆だ。

 つまりは、ここでグーシュが自分への支持を訴えかけることは、民に帝国への反逆を要求することに他ならない。

 それでは、民には生活の保障という実入りも、帝国臣民としての正当性も保証されない事になる。
 どうあがいても民を説得する事など不可能なのだ。

(殿下……そして一木殿……詳細は分からぬが、一気にことを決めようと焦ったな……残念だがこのルニの街は初代帝に仕えた側近の子孫が住まう土地……殿下には悪いが、帝国に逆らうことは出来ん)

 子爵が内心で謝罪と安堵が入り混じった思考を巡らせる中、グーシュは一木達と何やら話し込んでいた。

「では一木、あとは先ほどの文章通りにな」

「分かった。……うまくやれよ」

「任せろ、わらわを誰だと思っている」

 やり取りを終えると、グーシュはルニ子爵に近づき、小声で話しかけた。

「すまんが、準備があるのでな。邸内の部屋で少し休ませてくれるか? そうだな、広場に領民が揃ったと一木から連絡が入ったら戻ってくる」

「はっ、了解……いえ、わかりましたグーシュ殿下」

 先ほど言われた通り、言葉を少し柔らかく言いなおした子爵は、騎士の一人にグーシュを案内させた。
 すると、グーシュは去り際にさらに小声で話しかけてきた。

「太鼓腹……お前には随分と世話になったな」

「は、はあ……殿下には我が家の方がお世話になりましたからな。南方商人を誘致してくださったご恩は忘れておりません」

「わらわの方もだ。ここの領地程落ちつける良い場所はなかった……だからこそ、わらわは子爵……お前に三つ数える間の猶予を与える」

「それはどういうことですか?」

 子爵は意味が分からず、思わず聞き返した。
 だが、グーシュの答えはあいまいなものだった。

「演説を聞いていれば分かる。一木はいい男だが、出来ればここを第一としたいのだ」

 そう言うとグーシュは騎士に案内されて、ミルシャと共に公邸に入っていった。

「すまんがそこの騎士殿、剣をくれないか? 皆の前に立つのに手ぶらでは格好がつかん」

「は、はい! ポスティ殿下に剣を持っていただけるなど、光栄であります!」

 去り際に、騎士との会話が聞こえたが、それもたわいのない物だった。
 呆然とする子爵達の横に、一木達地球連邦軍の面々が並ぶ。

 話しかけようとした子爵だったが、見る間に集まってきた群衆の熱気に圧倒され、何も言うことが出来なかった。

(皆興奮しておる……だが、反逆への賛同を求められれば……その時は何とか殿下をお守りせねば……)

 そんな子爵の考えをよそに、広場は瞬く間に群衆で埋め尽くされた。
 人口千五百のルニの街の大半が集っているようだった。

 そして、群衆の集合を見た一木が部下に指示をする。
 度々子爵達も目にしていた、遠くとやり取りしている機械を使っているのだろうと、子爵達は予想した。

 だが、群衆が集い、一木が連絡を入れたその後も。
 群衆が、何の動きもない子爵達に不満を漏らし始めても。
 グーシュは、姿を現さなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...