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再びアンドリューの訪問
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(あれからリカルドはひどく慇懃無礼な態度を取るようになったのよね。そして一年後、王宮の精鋭部隊へと異動していった。それからは順調に出世し、騎士団長になって四十五歳で亡くなった)
あんなに美しい顔をしていたのだからきっと女性にはモテていただろう。あの時のキスは……リカルドにとっては何でもないことだったに違いない。私を神殿という鳥籠から出してくれようとしただけなのだ。
(それでも。異動するまでの一年間の態度は酷かったわ。朝の散歩の時など、『籠の中で生きるだけの聖女さま』とか言って馬鹿にして。私だって好きでそうしてたわけじゃないのに)
思い出していたらまた腹が立ってきた。もう夜だし太ってしまうけど、何か甘いものでも食べようかな。メラニーに頼んでみようと立ち上がった時、ちょうど彼女が部屋に入って来た。
「アイリス様! アンドリュー殿下がまた突然いらっしゃいました!」
「ええ?! また?」
「もう遅い時間ですのにね。他の方なら後日おいで下さいと断れますけど王子殿下ですから……」
「わかったわ。サッと着替えられるドレスを出してちょうだい」
手早く身支度をしてアンドリューが待つ客間へ急いだ。アンドリューはゆったりとソファに身を沈め、お茶を飲んでいる。
「お待たせいたしました、アンドリュー殿下。突然のご訪問驚きましたわ」
「ああ、堅苦しい挨拶は不要だ。済まないがメラニー、また席を外してくれるか」
「……はい、承知致しました」
メラニーが退室するのをアンドリューは目で追っていた。そのアンドリューの顔を私はじっと見つめる。
(そう言えばリカルドとアンドリューは見た目が全然違うわね。黒髪と金髪、青い目と翠の目。リカルドはキツい顔立ちだったけどアンドリューは優しい雰囲気。中身がアレだから、時々怖い顔になるけど)
「悪いな。夜遅くに」
「いいわよ別に。慣れっこだわ」
アンドリューは薄い唇を片方だけ上げてニヤリと微笑む。せっかく優しい顔立ちをしているのに、そんな悪そうな表情をしたら台無しだ。
「あれから古文書や伝記、民間伝承などいろいろ調べていたんだがな。どうやら王宮にとって聖女は目の上の瘤らしい」
「……国の宝、じゃないのね?」
「ああ。時折現れる奇跡の力を持つ少女――もしお前が王族だったら、そんな存在、目障りじゃないか?」
確かに、王族が尊重されるのは、代々世襲で引き継いでいる地位によるものだ。愚王だろうが何だろうが、生まれてきただけで王なのだ。
しかし、支配される側の平民たちにとってはどうだろう。魔獣を倒す奇跡の力。傷を治す癒しの力。それを持った聖女を担ぎ上げて、新たな国を作ろうとするのではないか。王族はそれを恐れた。
そのため、ロラン王国の王族は聖女の力を利用しつつ影響力を削ぐことに腐心した。聖女が現れたら王宮に招き、神殿に幽閉して監視下に置く。平民との接点は極力無くす。死んだら、英雄視されぬよう王宮裏の墓地へ埋葬し平民が墓参出来ないようにするなど、徹底した。
「じゃあもしかして神殿の護衛騎士って、聖女を外敵から守るんじゃなくて……」
「聖女が脱走しないよう見張る役目というのが正しい」
「じゃああなたも、私を見張っていたのね」
「当時はそう思っていなかったが、そういうことになるな。そして王宮の対応で気になることがある。お前が結界を張れるようになって先輩聖女が二人、任を解かれたことがあったろう?」
「ええ。二人とも、故郷に帰るんだと喜んでいたわ。私の力があの二人の役にも立てて良かったと思っていたの」
「あの二人は故郷に帰っていない」
私は眉をひそめた。
「どういうこと?」
「聖女の記録を調べたのだ。そして、あの二人は殺されていたことがわかった」
「なんですって……!」
(あれからリカルドはひどく慇懃無礼な態度を取るようになったのよね。そして一年後、王宮の精鋭部隊へと異動していった。それからは順調に出世し、騎士団長になって四十五歳で亡くなった)
あんなに美しい顔をしていたのだからきっと女性にはモテていただろう。あの時のキスは……リカルドにとっては何でもないことだったに違いない。私を神殿という鳥籠から出してくれようとしただけなのだ。
(それでも。異動するまでの一年間の態度は酷かったわ。朝の散歩の時など、『籠の中で生きるだけの聖女さま』とか言って馬鹿にして。私だって好きでそうしてたわけじゃないのに)
思い出していたらまた腹が立ってきた。もう夜だし太ってしまうけど、何か甘いものでも食べようかな。メラニーに頼んでみようと立ち上がった時、ちょうど彼女が部屋に入って来た。
「アイリス様! アンドリュー殿下がまた突然いらっしゃいました!」
「ええ?! また?」
「もう遅い時間ですのにね。他の方なら後日おいで下さいと断れますけど王子殿下ですから……」
「わかったわ。サッと着替えられるドレスを出してちょうだい」
手早く身支度をしてアンドリューが待つ客間へ急いだ。アンドリューはゆったりとソファに身を沈め、お茶を飲んでいる。
「お待たせいたしました、アンドリュー殿下。突然のご訪問驚きましたわ」
「ああ、堅苦しい挨拶は不要だ。済まないがメラニー、また席を外してくれるか」
「……はい、承知致しました」
メラニーが退室するのをアンドリューは目で追っていた。そのアンドリューの顔を私はじっと見つめる。
(そう言えばリカルドとアンドリューは見た目が全然違うわね。黒髪と金髪、青い目と翠の目。リカルドはキツい顔立ちだったけどアンドリューは優しい雰囲気。中身がアレだから、時々怖い顔になるけど)
「悪いな。夜遅くに」
「いいわよ別に。慣れっこだわ」
アンドリューは薄い唇を片方だけ上げてニヤリと微笑む。せっかく優しい顔立ちをしているのに、そんな悪そうな表情をしたら台無しだ。
「あれから古文書や伝記、民間伝承などいろいろ調べていたんだがな。どうやら王宮にとって聖女は目の上の瘤らしい」
「……国の宝、じゃないのね?」
「ああ。時折現れる奇跡の力を持つ少女――もしお前が王族だったら、そんな存在、目障りじゃないか?」
確かに、王族が尊重されるのは、代々世襲で引き継いでいる地位によるものだ。愚王だろうが何だろうが、生まれてきただけで王なのだ。
しかし、支配される側の平民たちにとってはどうだろう。魔獣を倒す奇跡の力。傷を治す癒しの力。それを持った聖女を担ぎ上げて、新たな国を作ろうとするのではないか。王族はそれを恐れた。
そのため、ロラン王国の王族は聖女の力を利用しつつ影響力を削ぐことに腐心した。聖女が現れたら王宮に招き、神殿に幽閉して監視下に置く。平民との接点は極力無くす。死んだら、英雄視されぬよう王宮裏の墓地へ埋葬し平民が墓参出来ないようにするなど、徹底した。
「じゃあもしかして神殿の護衛騎士って、聖女を外敵から守るんじゃなくて……」
「聖女が脱走しないよう見張る役目というのが正しい」
「じゃああなたも、私を見張っていたのね」
「当時はそう思っていなかったが、そういうことになるな。そして王宮の対応で気になることがある。お前が結界を張れるようになって先輩聖女が二人、任を解かれたことがあったろう?」
「ええ。二人とも、故郷に帰るんだと喜んでいたわ。私の力があの二人の役にも立てて良かったと思っていたの」
「あの二人は故郷に帰っていない」
私は眉をひそめた。
「どういうこと?」
「聖女の記録を調べたのだ。そして、あの二人は殺されていたことがわかった」
「なんですって……!」
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