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37 サルマとライード

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 やがて目覚めた少年は、名をチュンレイと言った。

「チュンレイ、お前なんで斬られて埋められてたんだ?」
「森で会った王に……いきなり斬られて……」
「王って、確か最近代替わりしてたっけな。まだ子供の王だろう」

 かすかに頷くチュンレイ。

「あの……スイランは……妹のスイランはどこに……」
「妹? スイランって妹の名前だったのか。いや、埋まってはいなかったぞ。枯れ葉の山も探したが何もなかったし。なあ、ジーマ」
「うん。あたし、耳もいいし目も鼻も利くんだけど、周りには誰もいなかった」
「そんな……」
「もしかしたら家に帰ったのかもしれんぞ、助けを呼ぼうとして。俺がお前を連れ出しちまったから、今頃探してるかもしれん。チュンレイ、お前の家に行ってみよう」

 

 翌日、ライードはチュンレイから家の場所を聞き、一人で向かった。チュンレイはまだ動かせる状態ではないからだ。外壁の壊れた部分からヨイショと中へ入る。

(門から入ろうとすると、兵士がいていろいろ面倒だからな)

 チュンレイはカガ地区に住んでいると言っていた。ここからはちょっと離れている。大人ならまだしも、子供には結構な距離だったろう。

(それでも母親のために薬草を取りに来たんだな。親孝行な子供らだ)

 急ぎ足で向かううちに、徐々に町の様子が貧しくなってきた。カガ地区は下町なのだ。粗末な長屋が多い。共同の井戸で洗濯をしている女に尋ねてみた。

「ちょっといいかい。サーマって女の人はこの辺にいるかね。チュンレイとスイランって子供がいると思うんだが」
「あら、あんたいい男だねえ。西の人かい? サーマなら二つ向こうの筋の東の端だよ。でも最近咳がひどくて肺病だと思うから近寄らない方がいいよ」
「ご忠告どうも」

 ライードは教えられた部屋に向かった。窓は閉まり、部屋はシンとして暗い。扉をコンコンと叩いてそっと開けた。

「サーマさんよ。失礼するよ」

 するとライードの目に飛び込んできたのは、寝床に横たわり血を吐いた女性だった。

「お、おい、大丈夫か……!」

 慌てて近寄ったライードは女性の顔を見るなり厳しい顔つきになり、彼女を抱き起こして叫んだ。

「サルマ様……!」
「あ……ライード……どうして……」
「サルマ様! あなただったのですか」
「ライード……子供たちが帰ってこないの……私の薬を取りに行ったまま……」
「大丈夫です。チュンレイは私が預かっていて無事です」
「良かった、チュンレイ……スイランは……?」
「スイランはまだ。ここには帰ってきていないのですね」
「スイラン……どこにいるの……」
「とにかくサルマ様、私のところに来てください。チュンレイに会わせます」
「ライード、私はもうだめだわ……力が入らないの……チュンレイのことをお願い……そしてスイランを探して……」

 ゴホッとサルマは血を吐いた。

「サルマ様!」

 もう、命が尽きる。もしかしたら、子供たちの無事を確かめるまで死ねないと、気力だけで保っていたのかもしれない。
 サルマは枕元の小さな袋をライードの手に渡した。

「これをあの子たちに……ああ、最後にあなたに会えてよかった……ライード、ありがとう……」

 そしてサルマは息を引き取った。

「サルマ様……」

 ライードは部屋を見回した。ほとんど何もない部屋。ここで三人で暮らしていたのか。これでは医者へ行くことなど無理だっただろう。

(もっと早く出会えていたら、俺がなんとしても治していたのに……)

 ライードはサルマを抱き上げると部屋を出た。隣の部屋から出てきた女に彼女が死んだことを告げ、もしもスイランが戻ってきたらここで待つように伝言を頼んだ。あとひと月はここらへんにいるので毎日様子を見に来るから、と。
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