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《第3章》 ロミオ at 玉川上水
ケンカ
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「話って何ですか? お金のことなら、ちゃんと考えてますよ」
日が落ちて冷えこんできた五月初めの夜だった。彼女はライトグレーのパーカーを羽織り、マグカップを両手にしてちびちびとコーヒーを啜っていた。
まだ、彼が裏の裏まで調べ上げている可能性になんて、これっぽっちも思い至っていないのだろう。
「必要なら、明日の夜かその次会うときまでに、きちんと返済計画を……」
「そういうことじゃない」
あえて、彼女の言葉を途中でさえぎった。飛豪は意識して、硬い声をつくった。
「この家、防犯とか設備的なところは古そうだし、危ないんじゃないか」
「…………?」
瞳子は、戸惑ったような表情で彼を見つめかえした。
「俺みたいな部外者がいきなり踏みこんで悪いけどさ、『ココに住んでて大丈夫?』って訊いてるんだ。あの五〇〇万が借金返済だったのは分かってたし、先週末の電話で、君と金貸したヤツが切れていないのも察しがついている。だから正直、心配してる」
「……それは、どういう意味での『心配』ですか?」
訊きかえしてきた彼女の声は、すでに外向けの低音ボイスに切りかわっていた。しかも、先週末の山根に対するような戦闘モードの険しさである。
飛豪は動じずに、厳しく言いはなった。
「単刀直入に言う。反社に君が引っ張られて、こっちの五〇〇万と利息がフイになるのを懸念してる。だから、了承してもらえるならセキュリティ・スタッフをつけて一時的にでも保護したい」
「はい?」
「避難所もボディーガードも提供するから、しばらくの間、受け入れてくれると嬉しいなってコト」
「意味分かんない。外野が余計なことに口ださないでください。第一わたしの問題ですし、そんなことしたら、返済するお金、もっと増えますよね」
瞳子は怒りを感じているのか、目つきが鋭くなり、頬に赤みがさした。
「その通りだけど、あんたが八田のところで風俗にでも沈められたら、こっちには一円も入ってこないんだ。君は返済する気でいるんだろ、まだ」
容赦なく追いこむと、彼女はグッと詰まった。しかし、毅然として拒絶した。
「お断りします。自分の身は、自分で守ります。あなたのお世話になんて、ならない」
彼女の拒否の背後にあるのが、バレリーナ時代を知られたくない、という動機であることは、飛豪もとっくに見抜いている。
頑なな彼女にこちらの手を取ってもらうためには、何をすべきか。
――まぁ難しいだろうけど、理詰めでいこうか。
飛豪は最後までアクセルを踏みこむことに決めた。
「俺が、八田や山根と君の関係を知ってるのは、どうしてだと思う?」
「……知りません! どうせこの前の新宿で、わたしが寝てる間にスマホでも見たんでしょ。いずれにしろ、マトモなやり方じゃない。これからバイトなので今日は帰っていただけますか?」
「いいよ。帰る。気分を害して悪かった。だけど、君にきちんと身の安全を考えてもらうために、もう一つだけ言う。俺は、あんたのことを全て知っている。桐島瞳子さん」
瞬間、彼女の表情が凍りついた。表情どころか、心が大きく軋んだ音までが聞こえた気がした。
日が落ちて冷えこんできた五月初めの夜だった。彼女はライトグレーのパーカーを羽織り、マグカップを両手にしてちびちびとコーヒーを啜っていた。
まだ、彼が裏の裏まで調べ上げている可能性になんて、これっぽっちも思い至っていないのだろう。
「必要なら、明日の夜かその次会うときまでに、きちんと返済計画を……」
「そういうことじゃない」
あえて、彼女の言葉を途中でさえぎった。飛豪は意識して、硬い声をつくった。
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「…………?」
瞳子は、戸惑ったような表情で彼を見つめかえした。
「俺みたいな部外者がいきなり踏みこんで悪いけどさ、『ココに住んでて大丈夫?』って訊いてるんだ。あの五〇〇万が借金返済だったのは分かってたし、先週末の電話で、君と金貸したヤツが切れていないのも察しがついている。だから正直、心配してる」
「……それは、どういう意味での『心配』ですか?」
訊きかえしてきた彼女の声は、すでに外向けの低音ボイスに切りかわっていた。しかも、先週末の山根に対するような戦闘モードの険しさである。
飛豪は動じずに、厳しく言いはなった。
「単刀直入に言う。反社に君が引っ張られて、こっちの五〇〇万と利息がフイになるのを懸念してる。だから、了承してもらえるならセキュリティ・スタッフをつけて一時的にでも保護したい」
「はい?」
「避難所もボディーガードも提供するから、しばらくの間、受け入れてくれると嬉しいなってコト」
「意味分かんない。外野が余計なことに口ださないでください。第一わたしの問題ですし、そんなことしたら、返済するお金、もっと増えますよね」
瞳子は怒りを感じているのか、目つきが鋭くなり、頬に赤みがさした。
「その通りだけど、あんたが八田のところで風俗にでも沈められたら、こっちには一円も入ってこないんだ。君は返済する気でいるんだろ、まだ」
容赦なく追いこむと、彼女はグッと詰まった。しかし、毅然として拒絶した。
「お断りします。自分の身は、自分で守ります。あなたのお世話になんて、ならない」
彼女の拒否の背後にあるのが、バレリーナ時代を知られたくない、という動機であることは、飛豪もとっくに見抜いている。
頑なな彼女にこちらの手を取ってもらうためには、何をすべきか。
――まぁ難しいだろうけど、理詰めでいこうか。
飛豪は最後までアクセルを踏みこむことに決めた。
「俺が、八田や山根と君の関係を知ってるのは、どうしてだと思う?」
「……知りません! どうせこの前の新宿で、わたしが寝てる間にスマホでも見たんでしょ。いずれにしろ、マトモなやり方じゃない。これからバイトなので今日は帰っていただけますか?」
「いいよ。帰る。気分を害して悪かった。だけど、君にきちんと身の安全を考えてもらうために、もう一つだけ言う。俺は、あんたのことを全て知っている。桐島瞳子さん」
瞬間、彼女の表情が凍りついた。表情どころか、心が大きく軋んだ音までが聞こえた気がした。
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