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《第4章》 もう一度、オレンジ
望まぬ変化
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翌日、エリーが目覚めたときにクロードの姿は部屋になかった。頭がひどく重く、眠りから覚めたというのに全身に気だるさが残っていた。肌がべたべたして気持ち悪い。
ノックの音に応じると、侍女たちが入ってきた。
ジェイが左目を失ったあの夜以来、彼女たちは挨拶もなく、テーブルに食事を置いていくだけの存在だった。昨晩起こったことを悟られないよう、エリーは慎重に毛布を体に巻きつける。が、侍女たちは常ならぬ満面の笑みで、しずしずと寝台に近づいてくる。思わず、エリーは不審げな表情を浮かべた。
「おはようございます、エリー様。湯浴みの用意ができております」
「湯浴み……? 朝から、どうして」
「だって、昨晩はクロード様がこちらでお過ごしになられたんでしょう。先ほど、私どもに湯浴みの支度を申しつけられました」
――なんてことを。……なんなの。
エリーは羞恥で顔を毛布でおおった。
「クロード様が、本当にそんなことを言ったの?」
「もちろんです。エリー様もようやく『奥様』になられて、私たちも嬉しいかぎりですわ」
祝福を伝えられても、エリーはどこか自分が置きざりにされたような気がしていた。
クロードに一晩無理強いされただけで、彼女たちは手のひらを返したような態度だった。もちろん、エリーとジェイのことは知っていて、だ。
それからというもの、幽閉されていることに変わりないが、侍女たちがエリーの部屋を足しげく訪れ、なんやかやと世話を焼いてくれるようになった。「奥方様なのですから」と言って、仕立てのよい服も出してくる。問いもしないのに、クロードの外出の予定を知らされる。
エリーはされるがままになりながらも、喜ぶことも舞いあがることもなかった。
――ジェイに会いたい。セレナ様に会いたい。
思えば、その二人だけはエリーに誠実だった。今はどちらも遠く離れてしまっている。その距離に、エリーは泣きたくなった。辛いときは窓の外に遠く広がる灰色の海をながめて、じっと時間をやり過ごす。
「今宵、クロード様が来てくださるそうです」
あの日から一〇日ほどが経った夕刻、侍女たちの一人がにこやかに伝えた。「きちんとお支度をして迎えなければ」
「そう」エリーは無関心な顔で答えた。
いつもより早く夕食が運ばれ、食事が終わるやいなやレースと絹でできた薄物のドレスや、華やかに匂いたつ香油を手にした侍女たちが続々と部屋に入ってくる。エリーを人形のように磨きあげ、飾り立てていく。
「ねぇ、これになんの意味があるのかしら?」
思わず、エリーは口にして訊いていた。
質問をなげかけられた侍女は、意図が分からないようで、エリーの顔をぽかんとして見返した。しかし彼女は一呼吸おいて、明るく答えた。
「何おっしゃってるんですか。これからはエリー様が奥方になって、クロード様を支えていけばいいんです。クロード様がリシャール様と戦って領地を取りかえせば、ひょっとして王妃様になれるかもしれないんですよ」
――王妃様。
ベイスン王国とクロードが結びつき、彼が故国に戻れるよう動いていることはエリーも知っていた。でも、その先に王位があることなど初めて知った。
なのに、虚しい。セレナとジェイを引きかえにして、得たいものではない。
「では、私たちは失礼しますね」
立ちつくしているエリーに声をかけて、彼女たちは潮がひくように去っていく。取り残されたエリーは、はっとして顔を上げた。
扉が閉まり、鍵穴に鍵が挿しこまれようとする。反射的にエリーはノブに飛びつき、扉を大きく開けはなった。
ノックの音に応じると、侍女たちが入ってきた。
ジェイが左目を失ったあの夜以来、彼女たちは挨拶もなく、テーブルに食事を置いていくだけの存在だった。昨晩起こったことを悟られないよう、エリーは慎重に毛布を体に巻きつける。が、侍女たちは常ならぬ満面の笑みで、しずしずと寝台に近づいてくる。思わず、エリーは不審げな表情を浮かべた。
「おはようございます、エリー様。湯浴みの用意ができております」
「湯浴み……? 朝から、どうして」
「だって、昨晩はクロード様がこちらでお過ごしになられたんでしょう。先ほど、私どもに湯浴みの支度を申しつけられました」
――なんてことを。……なんなの。
エリーは羞恥で顔を毛布でおおった。
「クロード様が、本当にそんなことを言ったの?」
「もちろんです。エリー様もようやく『奥様』になられて、私たちも嬉しいかぎりですわ」
祝福を伝えられても、エリーはどこか自分が置きざりにされたような気がしていた。
クロードに一晩無理強いされただけで、彼女たちは手のひらを返したような態度だった。もちろん、エリーとジェイのことは知っていて、だ。
それからというもの、幽閉されていることに変わりないが、侍女たちがエリーの部屋を足しげく訪れ、なんやかやと世話を焼いてくれるようになった。「奥方様なのですから」と言って、仕立てのよい服も出してくる。問いもしないのに、クロードの外出の予定を知らされる。
エリーはされるがままになりながらも、喜ぶことも舞いあがることもなかった。
――ジェイに会いたい。セレナ様に会いたい。
思えば、その二人だけはエリーに誠実だった。今はどちらも遠く離れてしまっている。その距離に、エリーは泣きたくなった。辛いときは窓の外に遠く広がる灰色の海をながめて、じっと時間をやり過ごす。
「今宵、クロード様が来てくださるそうです」
あの日から一〇日ほどが経った夕刻、侍女たちの一人がにこやかに伝えた。「きちんとお支度をして迎えなければ」
「そう」エリーは無関心な顔で答えた。
いつもより早く夕食が運ばれ、食事が終わるやいなやレースと絹でできた薄物のドレスや、華やかに匂いたつ香油を手にした侍女たちが続々と部屋に入ってくる。エリーを人形のように磨きあげ、飾り立てていく。
「ねぇ、これになんの意味があるのかしら?」
思わず、エリーは口にして訊いていた。
質問をなげかけられた侍女は、意図が分からないようで、エリーの顔をぽかんとして見返した。しかし彼女は一呼吸おいて、明るく答えた。
「何おっしゃってるんですか。これからはエリー様が奥方になって、クロード様を支えていけばいいんです。クロード様がリシャール様と戦って領地を取りかえせば、ひょっとして王妃様になれるかもしれないんですよ」
――王妃様。
ベイスン王国とクロードが結びつき、彼が故国に戻れるよう動いていることはエリーも知っていた。でも、その先に王位があることなど初めて知った。
なのに、虚しい。セレナとジェイを引きかえにして、得たいものではない。
「では、私たちは失礼しますね」
立ちつくしているエリーに声をかけて、彼女たちは潮がひくように去っていく。取り残されたエリーは、はっとして顔を上げた。
扉が閉まり、鍵穴に鍵が挿しこまれようとする。反射的にエリーはノブに飛びつき、扉を大きく開けはなった。
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