勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま

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縁の決戦編

破滅の斬撃――焔聖黒雷斬

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 カイルは地を強く蹴った。
 爆ぜるような音と共に、間合いが一気に詰められる。

 再び、カイルの猛攻がバニッシュを襲う。

 ガァンッ!

 ガァンッ!

 金属音が連続して弾け、瘴気の満ちた空間に反響する。
 バニッシュは歯を食いしばり、必死に剣で受け続けた。

 だが――ギャリリリィィン……と、カイルは受け止められた剣を、滑らせるように絡め取り、そのまま力任せに――地面へと押さえつける。

「……しまっ――」

 身体ごと巻き込むように剣を押さえられ、バニッシュは体勢が崩される。
 カイルの片手が、バニッシュへと翳された。
 ニヤリと顔を歪め、その手に紅蓮の魔力が渦巻く。

 轟ッ!!

 至近距離で放たれた火炎魔法が、火柱となってバニッシュを包み込む。

「――ぐあっ!!」

 咄嗟に展開された防御結界。
 だが、それでも完全には防ぎきれない。
 結界ごと、火柱が爆ぜる。
 爆音と熱風が吹き荒れ、バニッシュは弾き飛ばされるようによろけた。
 胸を焼く熱い感覚に視界の端が揺れる。
 それでも――バニッシュは膝を折らず、剣を握り直した。

「……っ、はぁ……はぁ……」

「よく耐えたじゃねーか! コイツはな……
 ガルドを屠った炎なんだがな!」

 カイルの声が、どこか愉快そうに響く。

 カイルは即座に大剣を構える。
 刃に集う、火炎と、黒い聖光の二つの力が大剣に集い、悲鳴を上げるかのよう逆巻く。

「――ハァッ!!」

 放たれた斬撃は炎と聖光が交じり合い、破壊の奔流となって一直線に迫る。

「――鏡律封陣ッ!」

 バニッシュは即座に結界を展開させ、斬撃を反射する。
 斬撃の衝撃で身体が軋み、踏ん張る足は地面を削る。

 斬撃は、軌道を変え、カイルへと跳ね返る。

 だが、カイルには同じ手は通用しない。
 身を翻し、反射された斬撃を躱すと、そのまま体を捻り回転で遠心力を乗せた大剣が、唸りを上げて振り抜かれる。

「――ッ!!」

 バニッシュは両腕で剣を構え、真正面から受け止めた。

 ガキィィンッ!!

 剣と剣がぶつかり、衝撃が炸裂する。
 足元の地面が耐えきれず、大きく凹み、ひび割れた。

「……ぐっ……!!」

 全身に走る衝撃で腕が痺れ、視界が揺れる。
 
 瘴気の中で睨み合う二人。
 死線は、さらに濃く、深く――絡み合っていった。

 鍔迫り合いでギリギリと金属が軋み、カイルの圧倒的な力が、容赦なくバニッシュにのしかかる。

「……ぐっ……!」

 歯を食いしばり、全身で耐える。
 腕は悲鳴を上げ、脚は地面にめり込み、一瞬でも気を抜けば――叩き伏せられる。

 その時、ふっとカイルが込めていた力を抜いた。

「……っ!?」

 反動で体勢を崩しかけるバニッシュの視界から、カイルの姿が跳ねるように後方へと離れる。
 
 突然の行動に、バニッシュは戸惑い、剣を構え直す。

「……何を……?」

 カイルは大剣を肩に担ぎ、まるで獲物を値踏みするかのように、バニッシュを見つめた。
 そして、指を一本突きつける。

「……お前の、その目。まだ、諦めてねー目だ。まだ、何か策が、縋るものがあるんだろ?」

 口角が、ゆっくりと吊り上がる。

「出せよ」

 ぞくり、と空気が震える。

「てめぇの切り札を、全力のお前を――この俺が、叩き潰してこそ……意味があるんだからな」

 狂気と期待が入り混じった笑みで一歩、踏み出しながら言い放つ。

 肩に担ぐ大剣が、ずしりと揺れる。
 ニヤリ、と獣のような笑み。
 バニッシュは、その笑みを正面から見返した。

「……わかった。見せてやるよ――俺の、全力を」

 短く、だが迷いのない声。
 ゆっくりと息を吸い、吐きだしながらバニッシュは一度、目を閉じた。
 外界の音が、遠ざかる。
 瘴気も、痛みも、迷いも――すべてを意識の外へ追いやる。
 ただ一つ。
 守るべきものだけを、心の中心に据える。
 静かに、目を開いた。
 その瞳には、覚悟が宿っている。

「――加速陣オーバー・ドライブ・ブースト

 次の瞬間、足元に複雑な魔法陣が展開され、白銀の光がバニッシュの身体を包み込んだ。
 魔力が解き放たれる。
 バニッシュの時間が加速するかのように世界が流動する。
 
 カイルの瞳が、わずかに細められた。

「……いいじゃねぇか」

 カイルは、ニヤリと笑った。
 その笑みには、狂気と期待、そして抗いがたい愉悦が混ざり合っている。

 ――次の瞬間、バニッシュが、地を蹴った。

 ドンッ――!!

 地面が砕け、岩片が弾け飛ぶ。
 常識を逸脱した速さで加速し、風を置き去りにする速度で、バニッシュの姿が掻き消える。

「――疾い……!」

 カイルは、思わず目を見開いた。
 視界の端に残像が走った次の刹那、すでに、間合いは詰められている。

「――ッ!!」

 バニッシュの剣が、一直線に振り下ろされた。
 迎え撃つように、カイルも大剣を振るう。

 ガキィィンッ!!

 鈍く、重い金属音が爆ぜ、衝撃が空気を震わせた。
 カイルの足が、わずかに後退する。

(……重い……!)

 加速だけじゃない。身体強化によって底上げされた、異常な重さと圧にカイルは素直に驚く。

 バニッシュは、止まらない。
 剣を返し、踏み込み、再び振るう。
 一撃、二撃、三撃――まるで嵐のような連続攻撃。

「……ちっ!」

 カイルは受けに回るが、予想を超えたパワーに、次第に体勢が崩されていく。
 ――ほんの一瞬、重心がわずかにズレた。
 その刹那を、バニッシュは見逃さなかった。

「――はああぁっ!!」

 閃光のように疾走る一閃。

 ガァンッ!!

 甲高い音と共に、カイルの鎧――肩口の装飾が、斬り飛ばされる。
 宙を舞う黒い破片。
 瘴気の中、二人の距離が再び開く。
 肩に残る、確かな斬撃の痕。
 カイルは、そこに視線を落とし――そして、ゆっくりと笑った。

「……なるほどな」

 カイルは、低く笑った。
 その瞳は狂気と愉悦に満ち、逃げ場なくバニッシュを捉えている。

「加速陣……か」

 肩をすくめるようにして、言葉を続けた。

「確かに――俺とお前の圧倒的な差を埋めるには、これしかねぇだろうな」

 カイルの目が、細くなる。

「……だがそれには、欠点がある」

 カイルは一気に地を蹴った。
 距離が、瞬時に消し飛ぶ。

「――っ!」

 振り下ろされる、破壊の一閃。
 バニッシュは即座に身を翻し、斬撃を紙一重で躱し、加速してそのまま背後へ回り込む。

 しかし、カイルの目はすでにバニッシュを捉えており、振り返りざまの一閃。
 バニッシュの振り下ろしの一撃と、真正面から交錯する。

 ガァァンッ!!

 火花が散り、重い衝撃が両者を貫いた。

「対象者に……驚異的な身体強化を施す代わりに、肉体の限界を超えた力には――必ず反動が来る。つまり……リミット付きの身体強化ってわけだ」

 鍔迫り合いのまま、カイルが体を押し込む。
 刃と刃が、悲鳴を上げる。
 力を込め、押し切るように言い放つ。

「――っ!」

 ガァァンッ!!

 切り結んだ勢いのまま、二人は弾かれるように距離を取る。
 バニッシュは息を吐き、踏み直す。
 身体の奥に、確かな熱と痛みが走り始めていた。

「……それで? その状態――一体、いつまで持つんだ?」

 カイルは、狂気に満ちた笑みを浮かべる。
 問いかける声は、挑発であり、確信でもあった。

 次の瞬間、二人は同時に地を蹴る。
 斬り合い、ぶつかり合い、火花と金属音が瘴気に満ちた空を満たす。
 互角の剣戟――加速によって引き上げられたバニッシュの力と、圧倒的な経験と技量を持つカイルの剣。

 ガァン、ギィン、と金属がぶつかる音が何度も虚空を裂き、互いの剣が、互いの命を削り合う。
 肩、腕、脚――いずれも致命傷には至らない。
 だが、確実に、少しずつ削り合っている。

 ザン、と空気が切り裂かれる音。
 次の瞬間、背を向けたまま二人は交差するように斬り違った。

 カイルの頬に、赤い一筋が走った。
 対してバニッシュの肩からは、じわりと血が滲む。
 ゆっくりと、同時に振り返る。

「……」

 カイルの目が、細くなった。
 バニッシュの身体から放たれる光。
 加速陣による身体強化の輝き――それに加えて淡く、しかし確かに瞬く、もう一つの光。

「……なるほどな」

 得心がいったように、カイルが言う。

「通りで……随分と持つと思ったが、回復魔法を――常時かけながら戦ってたってわけか」

 狂気を帯びた笑み。

 バニッシュは、剣を構えたまま答える。

「……これなら、身体強化の反動も軽減できる」

「……確かにな」

 カイルは短く応じると――次の瞬間、地を蹴った。

「――っ!?」

 空気が爆ぜる。

「……は、疾――ッ!!」

 バニッシュは目を見開いた。
 先ほどまで、確かに互角だった。
 そのカイルが――さらに加速している。
 判断する暇もなく迫る斬撃。

「――くっ!!」

 咄嗟に剣を構え、受け止める。

 ガァンッ!!

 その様子を見て――カイルが、ニィィ……と笑った。
 獲物を見つけた捕食者の笑み。

 更に、二撃、三撃、容赦のない連続攻撃。

「……っ!!」

 受け続けるバニッシュは、隙を突いて反撃に転じる。
  だが――カイルは、それを消えるように躱した。

「な……!?」

 バニッシュの目が、完全に追いつかない。
 ゾクリと背後に気配を感じ振り返る。

 既にカイルの大剣が、頭上から振り下ろされていた。

「――っ!!」

 バニッシュは即座に剣を掲げ、受け止めた。

 ドゴォッ!!

「――ぐっ!!」

 先ほどよりも想い衝撃に耐えきれず、身体が後方へと吹き飛ぶように押し流される。
 足が地面を削り、数メートル引きずられて、ようやく踏み止まる。
 荒い息が漏れ、腕が、震える。

「……俺が、速くなったと思うか?」

 不意に、カイルが問いかけた。

 バニッシュは戸惑いながら剣を構え直す。
 額を伝う汗が妙に冷たい、呼吸のリズムがわずかに乱れている。

「……違うな。それは――勘違いだ」

 カイルは、不敵に笑いながら悠然と立った。

「じゃあ……俺が……遅くなったって言いたいのか……?」

 バニッシュは言葉を選ぶように、視線を向ける。
 カイルはふっと笑い冷たい視線を送る。

「身体強化の反動を、回復魔法で補う。実に合理的な判断だ」

 褒めるような口調。
 だが、その瞳は、冷え切っていた。

「……だが、それには俺から受けるダメージまでは計算されてねぇ」

 カイルは一歩、踏み出す。

 バニッシュの喉が鳴る。

「……ま、まさか……!」

 理解した瞬間、バニッシュの目が見開かれた。

「そうだ。回復が――間に合ってねぇんだよ。だから、少しずつだが確実に……反動が身体を蝕み、動きを鈍くする」

 カイルは薄く笑う。

 次の瞬間、カイルが、地を蹴った。

「――っ!?」

 視界から、姿が消える。

「――下か!」

 直感が叫ぶ。
 殺気が、地面すれすれから湧き上がった。

 視線を向けたその先――低く踏み込み、獣のような体勢を取ったカイルがいた。

 大剣が、斬り上げられる。

「――しまっ!!」

 バニッシュは反射的に身を捻る。

 ザンッ!!

「――っ!!」

 肩に、鋭い痛みが走った。
 バニッシュは大きく後方へ跳び、距離を取る。
 着地と同時に、肩を押さえる。
 指の隙間から、血が滲んむ、荒い呼吸、脚の震え、確かに――動きが、遅れている。

 カイルの大剣から、赤い雫がぽたり、と地面に落ちた。
 バニッシュの肩の傷に、淡い光が集まり始める。
 常時発動している回復魔法が、焼けつくような痛みを必死に押さえ込もうとしていた。

「……正直がっかりだぜ。最後に縋ったものが加速陣こんなものだったとはな」

 カイルは、失念したように冷たく鋭い視線でバニッシュをみる。
 次の瞬間、追撃のために一気に距離を詰めた。

「――っ!」

 バニッシュが反応しようとした、その刹那、ずしり、と身体全体が、鉛に沈められたかのように重くなる。

「……まずい……」

 肩の傷に回復魔法が集中し、他の部位への回復が追いつかない。
 加速陣の反動が、一気に噴き出す。
 筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋み、内側から、身体そのものが崩れ始めていた。

 その一瞬の遅れを、カイルが逃すはずがない。

 ハヤブサのような二撃の凶刃が襲う。

 ザシュッ――

 交差する斬撃が、クロスする軌道でバニッシュの身体を切り裂いた。

「――がっ……!」

 息を詰まらせた、間髪入れず――回し蹴りが、容赦なく腹部へ叩き込まれる。

「――ぐぁ……っ!!」

 衝撃が内臓を揺らし、バニッシュの身体は宙を舞い、地面を転がった。
 岩肌に叩きつけられ、呼吸が、うまくできない。
 それでも――それでも、剣を杖に、立ち上がろうとした。
 
 だがカイルは、すでに最後の構えを取っていた。
 火炎魔法、黒い聖光そして――黒い雷。
 三つの力が、カイルの周囲で渦を巻く。
 雷鳴が低く唸り、炎がうねり、歪んだ聖光が、刃を侵食する。
 それらすべてが、一本の大剣へと集約されていく。
 ――まるでカイル、セリナ、ミレイユ、かつて勇者一行の力を合わせるかのように。
 
 殺すために歪められた集合体となった力。

「……っ……!」

 バニッシュは、目を見開いた。
 理解してしまった。
 これは――受けてはいけない。

「これで――終わりだ! バニッシュ!!」
 カイルの声が、戦場に響く。
 大剣が、振り抜かれる――焔聖黒雷斬えんせいこくらいざん

 三つの災厄が絡み合った、破滅の斬撃が解き放たれた。

「――鏡律封陣!!」

 バニッシュは叫び、剣を前へ突き出す。
 反射の結界が、瞬時に展開される。
 だが――バキィンッ!!

 一瞬で結界は、紙のように砕け散る。

「……な……」

 次の瞬間、驚異的な威力の斬撃が、破邪の剣そのものを、真っ二つに叩き折った。
 そして、そのまま――バニッシュを、完全に飲み込んだ。

 ドォォォンッ――!!

 火炎が爆ぜ、黒い聖光が弾け、雷鳴が空を引き裂く。
 爆炎が巻き起こり、大地全体が、白と黒の光に呑み込まれる。
 やがて――煙と熱が引いた後、上空から無残にボロボロになったバニッシュの身体が、力なく落ちてくる。
 地面に叩きつけられ、土埃が、静かに舞い上がった。
 瘴気の中で、カイルは大剣を下ろし、その光景を、黙って見下ろしていた。
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