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第4章 学生色々。学校でのトラブルって、避けられるものと、避けられないものがあるんだよね。

71.孤立無援。

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「マーゴット。言いすぎよ。」
バネッサの制止の声に、力はこもらない。
ナユカが自分だけ安全圏にいて、自分の面倒事を友達のバネッサに押し付けたという構図を体験したばかり。
一応、マーゴットを押し止める声を上げたが、バネッサの中のナユカへの不信感は確信に変わりつつある。

バネッサの逡巡を見ながら、マーゴットは燃料を投下する。

「相手の言いなりになる条件をのむまで2人共、帰してもらえない。バネッサが誰にも話さずに、話をしにいっていたら、誰にも知られないまま監禁されて、助けは来ない。」

「わたし達は、ニンデリー王国の貴族からの蔑視にさらされ、孤立している。ナユカでも、ナユカの周りでも、わたし達を監禁可能な状況だと認識しておくこと。」
とマーゴット。

「バネッサ。ニンデリー王立学園に入学する前から今までを思い返しなさい。コーハ王国の貴族に対して、ニンデリー王国の対応は、最初から、おかしかったわ。」
マーゴットは、バネッサにゆっくりと説明を始めた。

「バネッサの兄アレックスは、伯爵家の次男なのに、使い捨てだった。」
とキャスリーヌ。

「使い捨て。」
バネッサは、兄が使い捨てと言われて、少しばかり悲しくなった。

「アレックスの学生時代、アレックスは、王太子と仲良くやっていたんでしょう。卒業してからも、仲良し意識のあるアレックスは、友達に頼られたことで、友達を助けようとして、自身の妹を友達に売ろうとした。」
マーゴットは、一語一語を噛みしめるように、バネッサに語りかける。

「アレックスが賢くないにしても、王太子がアレックスの友達なら、アレックスを止めるよ?」
とキャスリーヌ。

「外国の伯爵子息と本当に仲が良かったなら、その妹の伯爵令嬢を都合よく使おう?
ニンデリー王国の王太子は、アレックスに対し、アレックスの妹にかかる契約を書面にしたためなかったどころか、口約束で履行しようとしていた。
外交部が、アレックスに確認したわ。
アレックスの妹を差し出す謝礼は、何か、と。」
とマーゴット。

「何だったの?」
バネッサは、かねてから知りたいと思っていた。
兄は、妹を何と引き換えにしたのだろうか?と。

「王太子は、アレックスに謝礼について言質をとらせる言い方をしていない。
それどころか、謝礼については一切言及していない。」
とマーゴット。

「まさか。」
とバネッサ。
妹を差し出すのに、なんの取引もしていない?

「王太子がアレックスに話した内容は、ニンデリー王国とニンデリーの王太子の要望だけ。
『謝礼について、何も聞いていないならば、なぜ、謝礼について自分から確認しないで、伯爵令嬢の妹を売ろうとしていたのか?』
外交部に聞かれたアレックスの言い分は、こう。
『王太子は友達だから、困っているなら、助けたい。
王太子と面会することが、貴族令嬢には褒美だから、報酬や謝礼をニンデリー王国の王太子から貰うなんて、友情を取り違えることはしたくない。友達同士、直接話し合えばわかり合える。顔を見て話し合えば、誤解もとける。
ニンデリー王国へ行かせてくれ、誤解だから。』」

さすがに、1つ1つを順に並べてマーゴットから説明されると、バネッサも異常さに気づいた。

「言葉で整理すると、最初から全部おかしいと気づいた?」
とキャスリーヌ。

「寮の部屋の話も、初日の平民を偏重する担任も、今回のハーメリーの件も。全部、根底の意識は同じ。
ニンデリー王立学園に通う貴族は、自分達の安らぎのために、コーハ王国の貴族がどんな扱いを受けてもいいと行動で示している。」
とマーゴット。

「厄介なことに、バネッサの兄アレックスは、『ニンデリー王国の王太子の友達』として、コーハ王国の貴族なのに、ニンデリー王国の貴族の側にいる。」
とマーゴット。

バネッサは、手の先が冷たくなった。
兄のニンデリー王国での仕出かしが、大き過ぎる。
挽回できるのだろうか?
出来なければ、貴族としてはおしまいだ。

「バネッサと侍女が監禁されていることに気づいても、ニンデリー王国の貴族は、隠蔽に協力するわ。
平民もね。」
とマーゴット。

「平民も?」

「ニンデリー王立学園にいるのは、ニンデリー王国の平民。
ニンデリー王国の貴族がわたし達コーハ王国の貴族をねじ伏せるのに協力しないと、己の身が危うくなる。」

「ニンデリー王国の平民には、ニンデリー王国の貴族ではないわたし達のために動く理由がない。」
とマーゴット。

マーゴットは、一番伝えたいことにたどり着く。
バネッサに、コーハ王国にいた時と同じように居ることは出来ない、と理解させたかったのだ。
危機感を持ち、警戒しろ、と。
「わたし達は、孤立無援。
3人がバラバラになるのは避けるわよ。
侍女も、バネッサは、バネッサ自身の目が届くところに常におくこと。」
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