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第5章 丸付けは、全部終わってからだよ?後手に回ったからって、それが何?

117.転生貴族令嬢レベッカ・ショア。岐路に立つ。

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侍女がいなくなってからのルーティンワークである伝言の有無を確かめるため、私は、寮の職員のところに向かう。

朝、寮の職員は、寮の職員用のスペースにいる。

スペースの外から呼べば、中から職員が顔を出す仕組み。
呼んでみたが、音沙汰なし。
なんだか、部屋の中から物音がしない気がする。
『静か。』
と前世の意識も訝しんでいる。

寮の職員も、帰ってこなくなったりしていないよね?

私は、何回か、呼んでみた。

反応なし。
『居留守を使っている様子はない。』
と前世の意識。

「どうしよう?」
『寮の職員が居なくなったら、騒ぎになるはず。たまたま、部屋にいないのかも。玄関ホールに向かいながら、探してみるとか?』

前世の意識の提案を採用。

私は、きょろきょろしながら、玄関ホールへ向かう。

あれ?

あれっぽくない?

探してみると、寮の職員は、何人かのご令嬢と親しげに話をしていた。

寮の玄関ホールで。

寮の職員、朝の登校時間に、玄関ホールにいることもあるんだ。

入学してから、初めてじゃない?

今日だけ?

今日に限って?

職員と話し込んでいるご令嬢達は、全員上級生。

しかも、ニンデリー王国の公爵家と侯爵家の令嬢ばかり。

話したことはないけれど、顔は知っている。

使用人帯同の貴族の女子寮のボスだから、ご機嫌を損なうことをしたら、ダメってことで。
入寮してすぐ、顔を覚えるように、新入生に指示が出された。

だから、一方的に知っている、私は。

困ったな。
待ってみる?
5分くらいなら、いいけど。
授業に間に合わないのは、嫌だな。

5分経っても、まだ終わらない。

声をかけてみても、いいかな?

それにしても、寮の職員は、お見送りするわけでもないのに、なんで、寮の玄関ホールに出てきて、女子寮のボスと話しているんだろう?


朝、私が寮の職員に声をかけると、ムスッとしていたから、朝は、機嫌が悪い人かと思っていた。
今朝の職員は、にこやかに笑っている。

もしかして、相手が、私だったから?

だとしたら。嫌だなあ。

嫌だけど、遅刻したくないから、腹をくくって、話しかけにいこう。



このときの決断が、私のその後を左右することになった。

普段そんなことをしない寮の職員が、今日に限って、寮の玄関ホールにいたこと。

新入生の朝の登校時間に姿を現したことなどない、寮のボス的ご令嬢達(公爵家と侯爵家)が、寮の職員の親しげに話し込んでいたこと。


いつも通りではないことが起きている。

私に関わる事象が、昨日までとは異なる状況になっている。

私にとって、とても重要な意味があった。
このときの私はまだ、気づいていなかった。

昨日は、私が、行動を起こした日。

私は、自分のしたいことをするために、突き進んだ。


そんな私の行動を周りがどう受け止めたかについて、私は、何も気にしていなかった。

気にしなくてはいけなかったのだ。

私は、貴族令嬢であり、貴族のコミュニティーで暮らしていたのだから。

大人に面倒をみてもらって、自身は楽をする生き方では、何を為すことも出来ないと反省していた昨日の私。

私自身の望む未来のために、今の私が、何を為すかということにだけ、気を取られていた、今朝までの私。

私がいる場所は、お金持ちの貴族令嬢が集団で、生活する空間。

私の成長する時間を悠長に待ってくれるような場所ではない。

それを理解した上で、行動していたら、色々なものが違う結果になっていただろう。

私は、貴族令嬢として、自分自身の貴族としての価値や在り方を理解しようとしてこなかった。

私は、貴族のコミュニティーについて、理解を深めようとしたことがなかった。

私は、貴族令嬢でありながら、貴族というものに、無知蒙昧であったのだ。

貴族の一員でありながら、貴族を理解していない私は、そんな私自身の振る舞いによる影響を一顧だにしなかった。

前を見て突き進むことに精一杯。

その言葉は、誰にも響くことはない自分勝手な言い訳にしかならなかった。
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