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第6章 可動式魔法遺跡、クークード遺跡の見学ツアーに参加しよう。

207.バネッサ・オッドア伯爵令嬢。初手から全力で、敵と戦う。『逃げよう!』とレベッカ・ショア。『貴族は、敵から逃げない。戦うもの。』

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マーゴットが、『ぷーすか節』を披露する前。


バネッサは、囲まれたと理解した。

後ろから、来ているのは、最初、出番がなくて、別の場所に控えていたか、別の仕事をしていた者。

バネッサとキャスリーヌの移動により、バネッサ優位を察知した敵は、人員の追加投入をしてきた。

バネッサは、まず、相手の見極めをしようと出方をうかがっていた。

バネッサの実兄アレックスが、ニンデリー王立学園在学中に、バネッサの話を広めているため、実力を隠しておくことはできない。

初手から、手加減なしであたるためにも、敵が、どこの誰だか、把握したいバネッサは、警戒しながらも、攻撃体勢にならなかった。

どちらかが仕掛けたら、一気に均衡は崩れる。

殺るか、殺られるか。

均衡が崩れる前に、薄氷を踏む思いで、探っている。

いったい、どこの勢力?

バネッサの実兄アレックスが、コーハ王国を裏切り、ニンデリー王国に与していたなら、ニンデリー王国の手勢なのは確実。

しかし。
ニンデリー王国の手勢だけでは、情報が少ない。

どこの所属?

もっと言うと。

国の戦力か。
王家や貴族家の戦力か。
個人の戦力か。

詳しく知りたい。

暗部?
正規兵?
私兵?
傭兵?

まさか、近衛?

バネッサは、バネッサとレベッカ・ショアを囲む男達の動きを見ている。

人目をさけて、襲撃してくる系の傭兵じゃない。

依頼により犯罪に従事している集団というより、命令されて忠実に動く団体のようだ。

国か、王家か、貴族の家か、権力者本人か。

バネッサとしては、一戦交える以上、必ず正体を掴まなくてはならない。

隣にいるレベッカ・ショアは何か、考え込んでいる。

四方を男達に囲まれていると気づいたレベッカ・ショアは、バネッサの懸念したようなパニックには陥らなかった。

パニックになった味方の扱いに困ることがなくて、本当に良かったとバネッサは思った。

このまま、静かに控えてくれていればいい。

そう、バネッサが安心していたら。

レベッカ・ショアは、突然魔力を練り上げ、魔法を生成して、取り囲む男達に向かって、一斉に投げつけた。

自身を中心にして、自分から見えるところ全部にまとめて、魔法で攻撃を仕掛けたレベッカ・ショア。

バネッサは、舌打ちしたくなった!

これだから、素人は!

見えるものが全てだと、簡単に思い込む。

レベッカ・ショアは、バネッサの腕をつかんで、早口でバネッサに告げた。

「バネッサ。今のうちに、逃げるよ!」
と言って、バネッサの腕を引っ張るレベッカ・ショア。

バネッサは、急いで、レベッカ・ショアから腕を取り戻す。

レベッカ・ショアの一撃が戦端をひらいた。

レベッカ・ショアの戯れ言に付き合っている暇はない。

バネッサは、レベッカ・ショアから、距離をとって、魔力を練り上げ、魔法を生成していく。

レベッカ・ショアの男達への一撃は、目眩まし程度。
たいしたダメージにはなっていない。

敵の数が多く、レベッカ・ショアが、バネッサにまとわりついてうろうろするため、近接戦ができない。

「馬鹿なことを言っていないで、構えなさい。戦いが始まったわ。」
とバネッサ。

男達の動きを見ながら、男達の連携を壊すべく、足元に刃を投げる。

「何言っているの!周りを囲まれているんだから、早く逃げよう!捕まったらどうするの!早く逃げなきゃ。」
レベッカ・ショアは、バネッサとの距離を詰めてくる。

何の構えもせずに。
無防備なままで、バネッサにつかまろうとする。

無防備なレベッカ・ショアにつかまったら、バネッサは身動きがとれなくなる。

レベッカ・ショアは、さっきから、バネッサの体の一部を掴もうとしてくるのだ。

「レベッカ。貴方は、私の敵?」
とバネッサ。

「違う!なんで!あいつら、犯罪者だから、逃げなくちゃ。私と一緒に逃げるんだよ!」
と、レベッカは泣きながら叫ぶ。
レベッカは、降って湧いた濡れ衣に動揺した。

「貴方の動きは、私を捕まえようとしているわ。」
とバネッサは、レベッカから距離をとる。

「だって、一緒に逃げないと。離れ離れになったら、ダメだよ!あいつら、女の子を狙っているんだから。私達2人共、危ない!」
レベッカ・ショアは、めげない。
レベッカ・ショアは、なんとしてでも、バネッサと逃げる気だ。

近づいてくる男達に魔法を叩きつけながら、バネッサの元へ向かってくるレベッカ・ショア。

バネッサは、レベッカ・ショアから距離をとりながら、背後に回った男を一撃で沈める。

「逃げる段階は、終わったわ。今は戦うステージよ。」
とバネッサ。

目を丸くして、動きを止めるレベッカ・ショアに襲い掛かる男の急所を蹴り上げるレベッカ・ショア。

「戦うって、何言って。私、そんなこと。」
とレベッカ・ショア。

悶絶する男の横にいた男のこれまた、急所に魔法を叩き込むレベッカ・ショア。

男が壁になって、レベッカ・ショアは、バネッサに近づけない。

「この場で戦う気がないなら、私といないで、早くに逃げ出していて欲しかったわ。私は促した。残ったのは、貴方よ。」
とバネッサ。

瞠目するレベッカ・ショア。

「普通、戦うことになるなんて、思わないし。逃げるにしても、1人で先に逃げようなんて考えないよ!」
とレベッカ・ショア。

レベッカ・ショアは、叫びながら、男のこめかみに魔法をぶつけた。

男の壁がなくなり、レベッカ・ショアは、やっと、バネッサの顔を見ることが出来た。

バネッサは、レベッカのように攻撃の都度、魔法を生成していくのではなく、複数の魔法を同時に生成し、操りながら、攻撃し、敵の攻撃を躱している。

「普通は、戦うのよ。貴族は。」
とバネッサ。

バネッサの元に辿り着いたレベッカ・ショアは、バネッサが自身を見る目に、温度がなくなっていることに気づいた。

まるで、軽蔑している相手を見るような目で、レベッカを見てくるバネッサ。

バネッサから、温度のない視線を浴びたことがなかったレベッカ・ショア。

「え?」
と固まった。

「戦いの最中に、呆けない。」
とバネッサの叱責。

レベッカ・ショアは、すぐに魔法を生成して、男を倒す。
「あ、ごめん。でも、なんで?」
と当惑するレベッカ・ショア。

その時。
聞き覚えのある声を2人は耳にする。
「はん、バネッサ。そいつを味方につけるのは、無駄だよ。そいつは、貴族の恩恵に浸りながら、貴族がなんたるか、とか知りやしない。知ろうともしないんだ。」
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