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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

362.部屋の中の水槽に魚がいるけれど、魚の様子が。魚が水面に顔を出して、口をぱくぱくしているのは、人っぽくない?

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ドリルが開けた穴からは、明かりが漏れ出している。

地階の天井が、すっかりなくなった。

夜だけど、昼より明るいくらいの明かりが、地階の部屋から溢れ出している。

わたしは、穴の位置から下がって、直接光が当たらないようにした。

部屋の中には、5人の男。

魚が泳ぐ小さい水槽が、いくつも並んでいる。

一つの水槽に一匹ずつ。

「魚がいる。」
とミノカサゴ。

「研究者らしい男が5人。どうする?いる?」

わたしは、ミノカサゴに聞いてみる。

この場所に来たのは、ミノカサゴの希望。

戦闘力のない鯉を鍛えて戦士にしたミノカサゴ。

戦う術を持たない魚が、食物として扱われず、人に好き勝手されるのは、ミノカサゴにとって、見過ごせないんだとわたしは思う。

わたしも、ガランの領民が他所の人に好き勝手されたと知ったら、やっつけることを考える。

領主の娘としての立場もあるけれど、わたしの家の領民に好き勝手させるか、という感情が働く。

だから、ミノカサゴの考えをわたしは理解できる。

わたしとミノカサゴは、立ち位置が同じ。

「一部の魚の中に混じりものがある。」
とミノカサゴ。

「男に話を聞く?捕まえる?」

男を追い払うか捕まえるか。

「捕まえる。」
とミノカサゴ。

わたしは、鉄扇を地面に押し当てる。

「縫い付け。」
同時に、地階の壁や床から鋼の糸が出てきて、5人の男を部屋の中に縫い付けた。

「ワタシが話す。」
とミノカサゴ。

「集まれ。」
わたしは、地階の天井だったものを集合させた。

集合体を男達の視界に入る位置に立ったせる。

全容は、分からないけれど、何かがそこにいる、と男達には分かるようにした。

ミノカサゴは、わたしのカバンから出てきた。

ミノカサゴは、真剣に見ている。

部屋の中で、壁と床に縫い付けられた男達。
水槽の魚。

部屋の上から、部屋の中を見下ろすミノカサゴ。

ミノカサゴは、怒っているんだと思う。

わたしも、姿を隠して、水槽の魚を見ているけれど、水面に横たわりかけたりして、弱っている魚も何匹か見えた。

ミノカサゴが怒っているのは、魚が死にかけている理由が、自然の摂理に反することなんだと思う。

話をするのはミノカサゴに任せるとして、わたしは何をしようか。


魚と言えば、何だったか。

今日のジュゴン先生の授業で、魚を解剖したとき。

魚は人間と呼吸の仕方が異なっていて、水の中で生きやすくなっていることを、わたしは手と目で学んだ。

水槽の魚は、水面から顔を出して、口をぱくぱくさせている。

魚の口の動きが、激しい。

魚って、水面から顔を出して、口をぱくぱくする生き物だった?

鳥の雛が、エサをねだるみたいに、開けっぱなしじゃなく。

まるで。

人が水の中に潜って、水面に上がってきたときみたい。

必死に、呼吸しようとしている人にそっくり。

でも。

水面に、顔を出して、口をぱくぱくしているのは魚だ。

魚が人みたいな行動をすることは、ある?

うーん。

逆を考えてみる。

人は、水の中を泳いでも魚にはならない。

魚を真似しても、魚じゃない。

足は尾ビレにはならない。

人が魚の真似をしても、魚には。

わたしは、思い出した。

魚みたいな、あの子。

まぶたを閉じないで寝ていたナンシー・ボーン。

目を開けているのに、その目は、どこも見ていないナンシー・ボーン。

ミノカサゴが、魚に取り憑かれている、と指摘したナンシー・ボーン。

ナンシー・ボーンを見たミノカサゴ。
ナンシー・ボーンの意識の主体は、魚だとミノカサゴは話していた。

意識の主体が魚になったら、人の意識は、どこに?

ナンシー・ボーンのときは、目を開けて寝ているナンシー・ボーンの姿に気を取られていた。

ナンシー・ボーンは、生霊になったんだ、へえ、そう、くらいだった。

生霊ということは。
ナンシー・ボーンの意識は、ナンシー・ボーンの体から離れて、どこか別の場所にある。

別の場所。

ナンシー・ボーンの体の意識の主体が魚なら。

魚の意識の主体は?

意識がなくても、魚は動ける?

動けないよね?

じゃあ。

魚を動かしているのは、人の意識?

人の生霊が、魚に入っている?

もしくは、人の生霊が魚に取り憑いて魚を動かしている?

わたしは、水槽の数を数える。

10個以上ある。

実験中と、これからの分?

それとも、比較のために、並べている?

魚を死なせないようにしないと。

人の体と魚の体、どちらも、あと、どれ程保つ?

どちらかの体が死んだら、どうなる?

人の体の方は、目の前にいないから、状態が分からない。

ひとまず、魚を死なせないようにする。

魚の中に人の生霊がいることを考慮して、わたしは動かないと。

どうする?

どう動くのがいい?
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