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第三部
剛の主治医のお仕事
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「行くぞ──」
「ちょ、ちょっと待て……」
「待てない──」
「あぁ!──イッテェ!」
今日も院に剛の悲鳴が響いている。ハワイのビーチでたっぷり泳いだらまた胸の前と今度は肩甲骨のところの筋肉の痛みが取れなくなったらしい。
「泳ぎすぎたのかもしれないな……島まで行けるかと挑戦したから……」
「やめとけ、着いた途端に射殺されるか売り飛ばされるぞ……あぁ、このしこりだな──」
「いや、ゴリラじゃなくて俺の思い出話なんだが……イテェ!」
組長は治療を重ね胸の筋肉を捉えるスペシャリストにまで登りつめていた。まったく使えないスキルだ。幸が剛の様子を見て溜息をつく。
「肩甲骨もかぁ……泳いだだけじゃここまでひどくならないもんなぁ──あ、なんかハワイで胸を叩きすぎました?」
「先生、一旦ゴリラから離れてくれるか?」
たとえこんな俺でも恋愛対象は人間だ。求愛行動で胸を叩く必要など全くない。
「さてと──組長貸してくれる?」
幸は組長の手から剛の腕を貰い受ける。幸は胸を剛の胸の筋肉を撫でてやる。剛が恍惚とした表情をしたのを組長は見逃さなかった。
「てめ──」
「よぉし! じゃあ肩甲骨剥がしちゃいましょうか」
治療家スイッチの入った先生が剛の肩に触れる。その笑みに思わず腰が引く。
「肩甲骨、剥がす……先生、その決め技って……」
「プロレス技じゃないですよ。こう、天使の羽の中に手を入れてこう、えいってやって、あ、肩甲骨ってチェーン店のケン◯ッキーにもある部位なんだけど割とジューシーで──」
「いや、先生、それさばかれて美味しく頂かれてちゃってますけど」
説明がいつの間にか変な方向に行ってしまった。剛は余計に怖かった。本来あんな所に手なんか入るわけない。
「せ、先生──や、優しく……優しくして?」
幸は剛を横向きに寝させると肩甲骨の間に指を入れていく。
「あー、やっぱり入りにくいですね。人差し指しか……あ、剛さん少し背中を反らして、あ、そうそう。あ、入った! 分かります?」
「あ、あぁ、剥がされ、てるのが、分かるなぁ──」
幸の手が肩甲骨に下に入るとそれを剥がすように上に持ち上げる。剛の体が揺さぶられると肩甲骨を軸に伸ばされる感覚がする。揺さぶられているので話しにくそうだ。
幸は「狭いけど今、ようやく指三本中に入りましたからね、剛さん!」と嬉しそうに近況を報告している。
そんな二人の様子を組長は腕を組み静観していた。
なぜだろう、先生は必死に治療しているのにエロさを感じてしまう。俺がだめなのか、欲求不満だからそんなふうに思うのかもしれない──。
「俺もまだまだ未熟だな……」
組長が暑苦しくなった治療室のカーテンを開け放つ。
「あ──いたのか」
いつのまにか待合室に光田と心のカップルがいた。光田は組長と目が合うと口元を引きつかせて笑う。隣に座る心は雑誌を見ながらご機嫌な様子だ。ちらちらと横の光田の様子を伺っている。
「……いい教育になりましたわね」
「……黙ってろ」
二人は小声で会話する。
肩甲骨剥がしの治療が終わった幸が手をプラプラと振りながら治療室から出てくる。やはり剛の背中は硬かったようだ。その手を光田はじっと見つめていた。
「あー奥まで指が届かなくって……でも一回開拓すればいつだってこじ開けられますからね!」
幸の達成感溢れる笑顔に光田と心は大きく頷くことしかできなかった。
「いつも司なんだが今日は二人掛かりで緩めてもらったんだ。いや、よかったよかった」
「それは、よかったですわね……ふふ」
院からの帰り道、すっきりした顔をした剛に心は満足げな笑みを浮かべた。一皮向けた兄の姿が誇らしげだった。
「ちょ、ちょっと待て……」
「待てない──」
「あぁ!──イッテェ!」
今日も院に剛の悲鳴が響いている。ハワイのビーチでたっぷり泳いだらまた胸の前と今度は肩甲骨のところの筋肉の痛みが取れなくなったらしい。
「泳ぎすぎたのかもしれないな……島まで行けるかと挑戦したから……」
「やめとけ、着いた途端に射殺されるか売り飛ばされるぞ……あぁ、このしこりだな──」
「いや、ゴリラじゃなくて俺の思い出話なんだが……イテェ!」
組長は治療を重ね胸の筋肉を捉えるスペシャリストにまで登りつめていた。まったく使えないスキルだ。幸が剛の様子を見て溜息をつく。
「肩甲骨もかぁ……泳いだだけじゃここまでひどくならないもんなぁ──あ、なんかハワイで胸を叩きすぎました?」
「先生、一旦ゴリラから離れてくれるか?」
たとえこんな俺でも恋愛対象は人間だ。求愛行動で胸を叩く必要など全くない。
「さてと──組長貸してくれる?」
幸は組長の手から剛の腕を貰い受ける。幸は胸を剛の胸の筋肉を撫でてやる。剛が恍惚とした表情をしたのを組長は見逃さなかった。
「てめ──」
「よぉし! じゃあ肩甲骨剥がしちゃいましょうか」
治療家スイッチの入った先生が剛の肩に触れる。その笑みに思わず腰が引く。
「肩甲骨、剥がす……先生、その決め技って……」
「プロレス技じゃないですよ。こう、天使の羽の中に手を入れてこう、えいってやって、あ、肩甲骨ってチェーン店のケン◯ッキーにもある部位なんだけど割とジューシーで──」
「いや、先生、それさばかれて美味しく頂かれてちゃってますけど」
説明がいつの間にか変な方向に行ってしまった。剛は余計に怖かった。本来あんな所に手なんか入るわけない。
「せ、先生──や、優しく……優しくして?」
幸は剛を横向きに寝させると肩甲骨の間に指を入れていく。
「あー、やっぱり入りにくいですね。人差し指しか……あ、剛さん少し背中を反らして、あ、そうそう。あ、入った! 分かります?」
「あ、あぁ、剥がされ、てるのが、分かるなぁ──」
幸の手が肩甲骨に下に入るとそれを剥がすように上に持ち上げる。剛の体が揺さぶられると肩甲骨を軸に伸ばされる感覚がする。揺さぶられているので話しにくそうだ。
幸は「狭いけど今、ようやく指三本中に入りましたからね、剛さん!」と嬉しそうに近況を報告している。
そんな二人の様子を組長は腕を組み静観していた。
なぜだろう、先生は必死に治療しているのにエロさを感じてしまう。俺がだめなのか、欲求不満だからそんなふうに思うのかもしれない──。
「俺もまだまだ未熟だな……」
組長が暑苦しくなった治療室のカーテンを開け放つ。
「あ──いたのか」
いつのまにか待合室に光田と心のカップルがいた。光田は組長と目が合うと口元を引きつかせて笑う。隣に座る心は雑誌を見ながらご機嫌な様子だ。ちらちらと横の光田の様子を伺っている。
「……いい教育になりましたわね」
「……黙ってろ」
二人は小声で会話する。
肩甲骨剥がしの治療が終わった幸が手をプラプラと振りながら治療室から出てくる。やはり剛の背中は硬かったようだ。その手を光田はじっと見つめていた。
「あー奥まで指が届かなくって……でも一回開拓すればいつだってこじ開けられますからね!」
幸の達成感溢れる笑顔に光田と心は大きく頷くことしかできなかった。
「いつも司なんだが今日は二人掛かりで緩めてもらったんだ。いや、よかったよかった」
「それは、よかったですわね……ふふ」
院からの帰り道、すっきりした顔をした剛に心は満足げな笑みを浮かべた。一皮向けた兄の姿が誇らしげだった。
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