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第二部 セルフィニエ辺境伯領編
第百十五話 初めての音楽の授業 ①
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その音楽の先生は教室に入ってくるなり高らかに宣言した。
「この稀代の大天才、テルディナント・バルツァー・ハイゼンベルク様は相手が皇子だからと言って加減はせん! 覚悟することだなッ!」
音楽の先生はとっても濃い人だったよ……。
変なポーズを決めている……。
この濃さ、間違いない。タソトキ攻略対象だ!
僕はプレイしている時に見かけたことはないけどコイツは攻略対象で間違いないと確信した。
テルディナント・バルツァー・ハイゼンベルクとフルネームで名乗った男は、年の頃は二十代前半ぐらいであろうか。
髪の毛の大部分はブロンドだが、片目が隠れるほどに長い前髪だけがメッシュを入れたように赤い筋が通っている。
うーん、見た目も主張が激しい。
クレア先生の言葉を思い出す。
『音楽の先生は少々……個性の強い方ですが、腕は確かですので』
……少々!? これのどこが少々だ!?
「弾く楽器はそこに用意してある」
テルディナントは教室の中央を示した。
でっかいピアノが鎮座しているのでわざわざ教えてもらわなくても嫌でも目に入ってくる。
見慣れた真っ黒なピアノとは違って装飾が凝っており、天板には絵画のように天使の姿が描かれていた。
音楽の授業は一対一で行われるらしく、生徒は僕しかいない。
教育を受けるべき子供が三人しかいなくてしかもそれぞれ進度が違うとなれば、一人が音楽の授業を受けている間に他二人がクレア先生に他の科目を教えてもらっている方が効率的だろう。
「皇子、貴様は楽器に触れたことがまったくないそうだな?」
すごい、この人皇子を貴様呼ばわりだ。
お兄ちゃんだって偉い人に敬語を使えないけど、お兄ちゃん自身も皇子だから今まで生きていられたんだぞ。
いつか打ち首にされても文句は言えないぞ。
「素晴らしいッ! 貴様はこれから初めて音の快楽に身を浸す至福を味わうことになるのだ!」
彼がバサリと前髪を掻き上げたので、彼が緑と赤のオッドアイであることが分かった。
どこまでも主張が強い外見だ。
「生まれて初めて耳にするのがこの大天才テルディナント・バルツァー・ハイゼンベルクの演奏であるとは何たる幸運! 特別にオレ様がこのチェンバロで一曲演奏してやろうッ!」
僕がピアノだと思ったものはチェンバロという楽器らしい。
それにしても楽器に触れたことはないとクレア先生に伝えたものの、音楽を聴くのが初めてだとは言ってないんだけど……。
何故だか演奏が始まってしまった。
テルディナントが鍵盤に指を添えると、本人の五月蠅い印象にそぐわない繊細な音色が流れ出した。
鍵盤楽器なのに竪琴のような弦を弾いたような音が響く。
彼の指が軽快に鍵盤の上を滑る。
花畑を舞う妖精の姿を幻視するような美しい音色だった……。
……僕にこのレベルの演奏をしろと?
「この稀代の大天才、テルディナント・バルツァー・ハイゼンベルク様は相手が皇子だからと言って加減はせん! 覚悟することだなッ!」
音楽の先生はとっても濃い人だったよ……。
変なポーズを決めている……。
この濃さ、間違いない。タソトキ攻略対象だ!
僕はプレイしている時に見かけたことはないけどコイツは攻略対象で間違いないと確信した。
テルディナント・バルツァー・ハイゼンベルクとフルネームで名乗った男は、年の頃は二十代前半ぐらいであろうか。
髪の毛の大部分はブロンドだが、片目が隠れるほどに長い前髪だけがメッシュを入れたように赤い筋が通っている。
うーん、見た目も主張が激しい。
クレア先生の言葉を思い出す。
『音楽の先生は少々……個性の強い方ですが、腕は確かですので』
……少々!? これのどこが少々だ!?
「弾く楽器はそこに用意してある」
テルディナントは教室の中央を示した。
でっかいピアノが鎮座しているのでわざわざ教えてもらわなくても嫌でも目に入ってくる。
見慣れた真っ黒なピアノとは違って装飾が凝っており、天板には絵画のように天使の姿が描かれていた。
音楽の授業は一対一で行われるらしく、生徒は僕しかいない。
教育を受けるべき子供が三人しかいなくてしかもそれぞれ進度が違うとなれば、一人が音楽の授業を受けている間に他二人がクレア先生に他の科目を教えてもらっている方が効率的だろう。
「皇子、貴様は楽器に触れたことがまったくないそうだな?」
すごい、この人皇子を貴様呼ばわりだ。
お兄ちゃんだって偉い人に敬語を使えないけど、お兄ちゃん自身も皇子だから今まで生きていられたんだぞ。
いつか打ち首にされても文句は言えないぞ。
「素晴らしいッ! 貴様はこれから初めて音の快楽に身を浸す至福を味わうことになるのだ!」
彼がバサリと前髪を掻き上げたので、彼が緑と赤のオッドアイであることが分かった。
どこまでも主張が強い外見だ。
「生まれて初めて耳にするのがこの大天才テルディナント・バルツァー・ハイゼンベルクの演奏であるとは何たる幸運! 特別にオレ様がこのチェンバロで一曲演奏してやろうッ!」
僕がピアノだと思ったものはチェンバロという楽器らしい。
それにしても楽器に触れたことはないとクレア先生に伝えたものの、音楽を聴くのが初めてだとは言ってないんだけど……。
何故だか演奏が始まってしまった。
テルディナントが鍵盤に指を添えると、本人の五月蠅い印象にそぐわない繊細な音色が流れ出した。
鍵盤楽器なのに竪琴のような弦を弾いたような音が響く。
彼の指が軽快に鍵盤の上を滑る。
花畑を舞う妖精の姿を幻視するような美しい音色だった……。
……僕にこのレベルの演奏をしろと?
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