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第二部 セルフィニエ辺境伯領編
第百十九話 お兄ちゃん怖いっ!
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「それから? ここでの初めての授業はどうだった?」
お兄ちゃんは穏やかな顔で僕の話を聞いてくれる。
「あのね、ここの辺境伯の息子とその従弟がいたよ。でもね……」
波乱の幕開けだった授業のことをお兄ちゃんに話した。
辺境伯の息子であるケイスはいきなり僕に突っかかってきたかと思うと、教室から飛び出していってそのままその日は戻ってこなかったのだ。
僕の存在のせいで摩擦が起こってしまっているみたいで申し訳ないとお兄ちゃんに言った。
「僕は一体どうすればいいんだろう?」
「なるほどな、それは大変だったな」
お兄ちゃんが頷く。
「いい機会だ、上下関係を教えてやれ。カレンもそろそろ権力の振るい方を身に着けるべきだ」
「えぇ……」
お兄ちゃんの言葉に僕は顔を引き攣らせる。
権力の振るい方なんてそんな大げさな。
「上下関係を教えるってそんな、相手は子供だし……」
「何を言う、その子はカレンより年上なのだろう? そんな年齢にもなって立場が上の者に表面上だけでも礼儀正しい態度を取れないのはその子供の為にもならない」
「うーん、そう言われるとそうかなぁ」
確かにあの調子では何よりもケイスくん本人がこの先困るのではないかと思われる。
じゃあ上下関係を教え込んであげるのはあの子の為にもなるのかな?
「でもじゃあ一体何をどうすればいいの?」
上下関係を教えるだとか権力を振るうだとかそんなこととは無縁の前世を過ごしてきた。
いきなり言われてもどうすればいいのか分からない。
質問されたお兄ちゃんはゆっくりと椅子に腰かけると、肩肘をついて脚を組んだ。
お兄ちゃんがそういう気取ったポーズを取るといかにも悪の貴公子って感じだ。
そしてお兄ちゃんは目を細めて鋭い視線で言う。
「無礼を許すな。徹底的に叩け」
「叩く!? 喧嘩するの!?!?」
あまりにも不穏な言葉に目玉を飛び出そうになった。
「ふっ、そうではない。ただでさえか弱いカレンが年上の子供と取っ組み合いの喧嘩などしてもまず負けるだろうな」
兄は面白そうに首を横に振る。
絶対に負けると断言されてしまった。まあ僕もそう思うけど。
「だが教師がその場にいればまずカレンに味方するだろう?」
「あ……」
初対面の時クレア先生が青い顔になってケイスを注意したのを思い出す。
確かに僕一人で喧嘩したら負けるだろうけど、味方してくれる人がいたら……
「権力を振るうとは人を動かすことだ。拳ではなく言葉で叩きのめせ。肉体で劣る相手に勝つ術を身に付けろ」
「いやいや勝つ術ってそんな、人間関係は勝ち負けじゃないでしょ」
お兄ちゃんの大袈裟な物言いに苦笑する。
「何を言うんだカレン。人間関係は勝ち負けだ。少なくともオレはこれまでそうやって生きてきた」
お兄ちゃんの言葉に、浮かべた苦笑いが引っ込む。
魔法が使えないと舐められ、発明品を作れば奇異の目を向けられ。そんなお兄ちゃんは他人を捻じ伏せるようにしなければ我を通して生きていくことはできなかったであろうことは理解できたから。
「じゃあ、僕とお兄ちゃんの関係も勝ち負けなの?」
「いや、それは……っ」
お兄ちゃんが言葉に詰まる。
勝ち負け以外の関係性だってあるはずだと僕は思う。
お兄ちゃんが権力の振るい方を身に付けろって言うのは身体の弱い僕を心配してのことだと分かってる。
でも僕はそれ以外の道も模索したかった。
お兄ちゃんは穏やかな顔で僕の話を聞いてくれる。
「あのね、ここの辺境伯の息子とその従弟がいたよ。でもね……」
波乱の幕開けだった授業のことをお兄ちゃんに話した。
辺境伯の息子であるケイスはいきなり僕に突っかかってきたかと思うと、教室から飛び出していってそのままその日は戻ってこなかったのだ。
僕の存在のせいで摩擦が起こってしまっているみたいで申し訳ないとお兄ちゃんに言った。
「僕は一体どうすればいいんだろう?」
「なるほどな、それは大変だったな」
お兄ちゃんが頷く。
「いい機会だ、上下関係を教えてやれ。カレンもそろそろ権力の振るい方を身に着けるべきだ」
「えぇ……」
お兄ちゃんの言葉に僕は顔を引き攣らせる。
権力の振るい方なんてそんな大げさな。
「上下関係を教えるってそんな、相手は子供だし……」
「何を言う、その子はカレンより年上なのだろう? そんな年齢にもなって立場が上の者に表面上だけでも礼儀正しい態度を取れないのはその子供の為にもならない」
「うーん、そう言われるとそうかなぁ」
確かにあの調子では何よりもケイスくん本人がこの先困るのではないかと思われる。
じゃあ上下関係を教え込んであげるのはあの子の為にもなるのかな?
「でもじゃあ一体何をどうすればいいの?」
上下関係を教えるだとか権力を振るうだとかそんなこととは無縁の前世を過ごしてきた。
いきなり言われてもどうすればいいのか分からない。
質問されたお兄ちゃんはゆっくりと椅子に腰かけると、肩肘をついて脚を組んだ。
お兄ちゃんがそういう気取ったポーズを取るといかにも悪の貴公子って感じだ。
そしてお兄ちゃんは目を細めて鋭い視線で言う。
「無礼を許すな。徹底的に叩け」
「叩く!? 喧嘩するの!?!?」
あまりにも不穏な言葉に目玉を飛び出そうになった。
「ふっ、そうではない。ただでさえか弱いカレンが年上の子供と取っ組み合いの喧嘩などしてもまず負けるだろうな」
兄は面白そうに首を横に振る。
絶対に負けると断言されてしまった。まあ僕もそう思うけど。
「だが教師がその場にいればまずカレンに味方するだろう?」
「あ……」
初対面の時クレア先生が青い顔になってケイスを注意したのを思い出す。
確かに僕一人で喧嘩したら負けるだろうけど、味方してくれる人がいたら……
「権力を振るうとは人を動かすことだ。拳ではなく言葉で叩きのめせ。肉体で劣る相手に勝つ術を身に付けろ」
「いやいや勝つ術ってそんな、人間関係は勝ち負けじゃないでしょ」
お兄ちゃんの大袈裟な物言いに苦笑する。
「何を言うんだカレン。人間関係は勝ち負けだ。少なくともオレはこれまでそうやって生きてきた」
お兄ちゃんの言葉に、浮かべた苦笑いが引っ込む。
魔法が使えないと舐められ、発明品を作れば奇異の目を向けられ。そんなお兄ちゃんは他人を捻じ伏せるようにしなければ我を通して生きていくことはできなかったであろうことは理解できたから。
「じゃあ、僕とお兄ちゃんの関係も勝ち負けなの?」
「いや、それは……っ」
お兄ちゃんが言葉に詰まる。
勝ち負け以外の関係性だってあるはずだと僕は思う。
お兄ちゃんが権力の振るい方を身に付けろって言うのは身体の弱い僕を心配してのことだと分かってる。
でも僕はそれ以外の道も模索したかった。
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