悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

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第二部 セルフィニエ辺境伯領編

第百三十四話 工房に行こう ①

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「ところで設計図は書けたの?」

 詰めカタクラズムの練習が一段落して、お兄ちゃんに尋ねた。

「ああ、勿論だとも」

 お兄ちゃんは持ってきた二枚の羊皮紙を広げた。
 それぞれにチェンバロ用の椅子とメトロノームの設計図が描かれていた。

「おおー!」

 チェンバロ用の椅子は音楽室にあるのと同様、背のない椅子を高さ調節できるように設計したようだ。
 メトロノームも細かい所は違うものの、おおよそ記憶にあるメトロノームの形と一緒だった。
 優美なデザインの苦手なお兄ちゃんらしい、機能的な形だ。ちゃんと目盛りも付いている。
 もしジルベールがデザインを任されていたら、木の部分に貴族に相応しい華美な彫刻が施されることになっていただろう。

「どちらも木製の部分と金属製の部分がある。木工工房と鍛冶工房それぞれに設計図を提出できるように二枚ずつ描いてきた」

「すごい! 仕事が早いね!」

 たったの一週間でそれだけのことをやってのけたお兄ちゃんはすごい。
 設計図を描くのだってもしかすれば試作品を作って試したりしたのかもしれないし、しかも設計図を描くだけでなく詰めカタクラズムの譜面だって考えてくれたのだから、時間なんていくらあっても足りなかったはずだ。
 ……一体どうやってそんな時間を捻出したのか。

「……お兄ちゃん、もしかして徹夜した?」
「カレンの為の譜面を考え出したら眼が冴えて昨晩少し、な」
「もー、お兄ちゃん無理しちゃ駄目でしょ!!」

 僕はふくれっ面になってお兄ちゃんを叱った。
 よくよく見ればお兄ちゃんの目元には隈が出来ていた。
 メイドさんがやってくれたのか、上手く化粧品で隈が隠されている。

「問題あるまい。オレはカレンとは違って徹夜したくらいで熱を出さないし、それに今日は休日だ」
「そうだとしても! 僕の為に無理をするのは止めて!」

 僕の為に何かしたいときは無理のないペースでやるように、と僕はお兄ちゃんに約束させることにする。

「はい、小指出して!」
「?」

 お兄ちゃんは顔に疑問符を浮かべながら小指を出す。
 その小指に自分の小指を絡める。

「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせんぼんのーます、ゆーびきった!」
「何だその恐ろしい文言は!?」

 幼児の口から出た『針千本飲ます』という言葉に狼狽えるお兄ちゃん。
 確かに決まり文句だと知らないでいきなり聞いたら怖いかもね。

「そういう約束する時の決まり文句なの。はい、じゃあ約束したから今後は無理しないでね」
「分かった。徹夜はなるべく避けるようにしよう」

 曖昧に頷くお兄ちゃん。
 その様子を見てお兄ちゃんは分かってないと感じた。

「なるべくじゃなくて絶対に!」
「はいはい」

 ぷりぷり怒る僕の顔を見て、お兄ちゃんは微笑ましげにくすりと笑ったのだった。
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