悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

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第二部 セルフィニエ辺境伯領編

第百三十六話 スモールヒル出身者

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 お兄ちゃんは工房長に部品について事細かに説明し、工房長もそれを理解したようだった。
 これできっと正確に作ってくれることだろう。

「さ、これで注文はお終いだ。時間が空いたなカレン、何か食べてくか?」
「うん!」

 買い食い大好き!
 僕は兄の問いににこにこで頷いたのだった。

 今日は盗まれたりしないように懐中時計はしっかり服の内側に仕舞っている。
 僕たちは町の広場に出て、果物屋さんの出店に並んだ。

「おっ、そこの坊ちゃんたち! 南部名物ヘカプの実はどうだい? とっても甘いよ!」

 店員をやっている男性が元気に客引きをしている。
 僕は「とっても甘い」という言葉に惹かれた。
 僕の目が明らかにキラキラと輝いたのにお兄ちゃんも気が付いたのか苦笑した。
 だって転生して子供になってからというもの甘い物に目がないんだもん。

「そのヘカプの実を二つくれないか」
「あいよ!」

 僕が何か言うまでもなくお兄ちゃんはヘカプの実を買ってくれた。
 黄色く輝く小さなラグビーボールのような形の果実が手渡される。仄かに甘い香りが鼻を擽る。
 僕がそのまま果実に齧り付こうとすると、店員さんが苦笑した。

「坊ちゃん、皮を剥かなきゃ!」
「皮?」
「どれ、貸してごらん」

 店員さんに果実を手渡すと、店員さんは果実の上の部分を抓む。
 するとバナナの皮のようにするりと簡単に果実の皮が剥けた。甘い芳香が溢れ出す。

「こういう風に皮を剥いてから食べるんだよ」
「ありがとうございます!」

 いい香りを漂わせているヘカプの実を僕は満面の笑みで受け取った。

「いただきまーす」

 ぱくっ。
 齧り付いた途端に口の中に甘い果汁が溢れ出す。

「んーっ、美味しい!」

 あまりの美味しさにニコニコが止まらない僕を見て、お兄ちゃんも自分の分のヘカプの実に齧り付いた。お兄ちゃんもヘカプの実の甘さに目を丸くし、そしてにっこりと笑ったのだった。

 不意にどよめきが耳に届いた。
 何かと思って振り向くと、ボロを纏った二人の人物が人々に避けられているのが目に入った。

「どなたかお金を恵んで下さいませんか……」

 ボロを纏った人は中年くらいの女性と老婆のようだった。
 道行く人に手を伸ばすが、すっと身を引かれている。
 はらはらと見ていたら、遂に老婆の方が通行人に突き飛ばされて転んでしまった。

「あっ、大変だ!」

 僕は息を呑んでお婆さんを助けに行こうとした。

「おい、止めときなって坊ちゃん!」

 それを素早く諫めたのは青果店の店員さんだった。

「どうして止めるの? いくら物乞いの人だからって突き飛ばすなんて酷いよ!」
「いいか、あいつらはただの乞食じゃないんだ。……スモールヒルの奴らなんだよ」

 青果店の青年はとびきり忌まわしい事実を告げるみたいに声を潜めた。
 まるで『スモールヒル』なんて言葉、口にするだけで災いがやってくるとでも言うかのように。

「スモールヒル……?」

 聞き覚えのある単語だった。何処で聞いたのだろう?

「カレン。南部事変があった村の名前だ」

 お兄ちゃんが囁いて教えてくれる。
 それで僕もようやく思い出した。
 あの凄惨なゾンビ災害めいた事件があったという村の名前だ……!

「奴らに関わったら病を移されるかもしれないぞ」

 青年は本気でそう信じているかのように真面目な顔して忠告する。

「えっ、でも南部事変ってもう終わったんでしょ?」
「どうだか。何せ原因不明だってんだ。何かの拍子に奴らからまた感染が始まってもおかしかねぇ」

 僕たちに親切にしてくれていた店員さんは別人のように憎々しげな視線をスモールヒル出身者に投げかけた。

 恐らくはスモールヒルは南部事変のせいでもう住める場所じゃなくなって、あのボロを纏った人々はこの町に流れ着いたのだろう。
 だがこの差別意識の強さでは彼女らはどこにも職を見つけることができなかったに違いない。
 それであんな風に物乞いに身を落とすことになったのだろう。

「そもそもその南部・・事変って名前にも大迷惑してるんだ。まるで南部中で事件が起こったみたいな名前しやがって。おかげでこちとら風評被害に悩まされてるんだ。本当ならこのヘカプの実だってこんな安値で売られるようなものじゃないんだ」

 青年の言葉に悲しくなる。
 別にあの人たちが南部事変の原因である訳でもあるまいに、どうしてこんなにも憎まれなければならないのだろう。

「カレン、諦めろ。オレ達にはどうすることもできない」

 お兄ちゃんがそっと肩に手を置く。

「でも、お兄ちゃん……」
「関わったら今度がカレンが迫害対象になるかもしれない。オレはそれが嫌なんだ」

 お兄ちゃんの言葉に僕は俯いた。
 確かに下手な関わり方をしても逆効果になるかもしれない。
 何か、何かスモールヒル出身の人たちを助けてあげられる方法があればいいのに……。
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