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第9章 止めろと言うのは振りらしいですよ⁈
122話 狩人
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「フフッ、ソリの速さは最高だね!」
完成したソリ馬車は、移動速度を大幅に上げた。積雪の溶かす範囲が、馬達の走る幅だけで済む上に、馬車本体が滑る事で馬の負担が更に減った事が理由だろう。
因みに馬車本体にはグラビティを使用しているので、馬が負担している重さは乗員のみ。但し、馬車が進む際に掛かる車輪の摩擦による抵抗があった。それがソリの方が抵抗が少なくて済むのだ。
通常では考えられない馬車の速さが実現しているのだが、彼等はそれに気付いてはいない。
「これなら、明日にでも着きそうだなぁ」
このペースだと予定よりも早く着きそうだ。もちろん、早く着く事に越した事はない。それに、今日は久しぶりの晴天だからね。どんどん飛ばすとしよう。
「あの、アラヤ君。魔導感知に、急激に接近する反応があります!」
先頭の馬に乗馬して積雪を溶かしていたアヤコが、いち早く気付いて知らせる。アラヤの感知にもその反応が現れた。
反応は五体。物凄い速度でこちらに向かって来ている。
『皆んな、戦闘準備!』
アラヤは馬達を減速させて、アースクラウドで簡単な防壁を作り馬達を見えなくする。望遠眼で確認すると、雪を巻き上げながら疾走して来る影が見えた。
「巨大猪みたいだね。後ろにいるのはうりぼうみたいだ」
3mくらいの大きさの猪は牙が4本見える。鑑定にはシルバーボアと明記されている。どうやら魔物ではなく、この土地で生息している猪の様だ。
「先頭の親猪は手負いのようです。どうやら追跡者もいる様ですね」
「えっと、この場合に倒したら横取りになるの?」
「可能性はあります」
「ええー⁉︎昼食は猪肉になると思ってたのに」
溜め息を吐きながらも、防壁の上に立ち真っ直ぐに向かって来る猪に対して威圧を発動した。
『ピギッ‼︎子供達!向きを変えるわよ!』
慌てて方向を変えようとする猪達は、勢い余って激しく横転した。そのままゴロゴロと五匹丸ごと雪だるま状になり、アラヤ達の横を通り過ぎて行った。
「勝手に気絶してくれた様だね」
気絶した猪を見ていると、ようやく追跡者が追い付いた様だ。スキー板に乗りながら現れたのは、獣の毛皮姿で片手にはボウガンに似た弓を装備した狩人の男だった。
「何だお前達は!まさか、俺の獲物を横取りしようって魂胆か⁉︎」
「いやいや、そんな気は無い。ただ、逃げて来た猪が我々に驚いて、勝手に横転して気を失っただけだよ」
「フン、ならば獲物は全部俺の物だからな。関係無いならどっか行けよ」
彼の態度に多少カチンと来たが、アラヤは我慢してとりあえず防壁を蹴り崩した。
その音で、気を失っていたシルバーボアが目を覚ました。
「あっ!馬鹿野朗‼︎」
彼は直ぐ様、ボウガンを構えてシルバーボアの眉間を撃ち抜く。
ピギィィッ‼︎
親猪の断末魔の叫びにうりぼう達も目を覚ました。狩人は鍵爪の付いた縄を投げ付け、うりぼう達の捕獲を狙った。
キィン!
鍵爪が弾かれて、うりぼう達は逃げ出した。鍵爪を弾いたのは、サナエが投擲したチャクラムだった。
「テメェ、何しやがる‼︎」
「…子供まで命を奪う必要は無いでしょう?」
「ああっ?せっかくの大猟をみすみす逃す馬鹿がいるかよ⁉︎」
再び追いかけ様とする彼の前に、今度はクララが立ち塞がる。
「なっ⁉︎シルバーファング⁉︎」
睨みを効かせたクララは、逃げるうりぼうを背に守る様にしている。
『追わせは、しない』
その迫力に彼はたじろぎ、うりぼうに完全に逃げられた事に舌打ちをした。
「根こそぎ子孫まで乱獲するは、狩を知らぬ愚者がする行いよ」
カオリが、クララを宥める様に撫でて落ち着かせる。
「はっ、知った様な口を!俺らには今、沢山の食糧が必要なんだ!先の事は知った事か!」
鑑定でよく見ると、名はリアム。彼は老けて見えるだけで、歳はまだ18歳とアラヤ達と大して変わらない事に気付いた。
「貴方にどんな事情があるかは知らないけど、子供は逃がしてもらうよ。大体、獲物は他にもいる筈だし」
「簡単に言うな!この猪だって丸2日掛けて…って、何してる⁉︎」
後ろを見ると、サナエがシルバーボアの脚を結んで木に吊り上げていた。
「何って、放血よ。肉がダメになるでしょう?」
慣れた手付きで包丁で頸動脈を刺して、勝手に放血を始めている。こちらの世界に来た当初は、獲物の処置なんて全く出来なかったのに、慣れたものだね。
「ソイツは俺の獲物だぞ!」
「別に盗らないわよ。生け捕りじゃなくて捕殺したら、早く血を抜いておかないと肉の質が落ちる。貴方がぐずぐずしてるから、代わりにしてあげただけよ」
「余計なお世話だ!どうせ少し分けろとか言う気だろ!」
その言葉にカチンと来たサナエは、作業を止めてリアムの前に詰め寄った。
「私達は食糧に困っていないわ!」
亜空間収納から食糧の箱を取り出してズラリと並べて見せた。ちょっと、何してるの⁉︎とアラヤも駆け寄る。
「な⁉︎何なんだ、お前達は⁉︎いきなり大量の食糧を出すとか、魔族か何かか⁉︎」
「俺達は行商人だよ。それとサナエさん、彼が不審がるのは当たり前だよ。このシルバーボアは彼の獲物だし、捕殺後の処理くらいは知っているだろうさ。これ以上、彼の邪魔になるのは悪いから、ガーンブル村に向けて再び出発しよう」
アラヤは、サナエに有無を言わせずに食糧を再び収納させる。全く、食糧不足でイライラしている相手に、食糧見せびらかすなんて何考えてるんだか…。後で軽く説教だね、アヤコさんが。
馬車に乗り込むアラヤ達を、リアムは無言で見ていたが、放血が終わったシルバーボアの解体を始めた。
馬車が動き出すと、直ぐ様解体肉を布に包んで後を付ける。
「奴等、大量の食糧をガーンブル村に運ぶ気か」
リアムは、木々の影を利用しながら後を追おうとするが、その差は瞬く間に離される。
「何だよ、あの速度!有り得ないだろ⁉︎」
姿が見えなくなるまで突き放したアラヤ達は、魔導感知から完全に消えた事を確認すると、直ぐに道を逸れて違う角度から村に向かう様にする。積雪の為に今はちゃんとした道は無いからね。
「どうやら撒いたみたいだね」
「ごめんなさい、私の不注意だね…」
アヤコに、説教されていたサナエが反省している。
『でも、気持ち、分かります』
先頭を走るクララも、腹が立ったと賛同する。もちろん、俺だってその気持ちは分かるよ?
「あのリアムという狩人、この付近に住んでいるのなら、ひょっとしたら、ガーンブル村も食糧難かな?」
「その可能性はありますね」
「ん~。ガーンブル村に向かうの止めようかな~」
「…食糧を分けたく無いんですね?」
「そりゃあね。だけど、関わったら後味悪いから出すしかなくなるじゃない?だから、村に寄りたく無くなったな~」
食糧が減る可能性があると思うと、アラヤは極端にガーンブルに行く気が失せたのだ。
「でも、村は平気かもしれませんし、食糧難といっても、不作によるものかも調べないと分かりませんし」
「あの狩人は嫌いだけど、村の人達には関係の無い話かもしれないわね」
アヤコ達は、行って原因を調べるべきだと言うので、アラヤは渋々ながらにガーンブル村行きを決めたのだった。
完成したソリ馬車は、移動速度を大幅に上げた。積雪の溶かす範囲が、馬達の走る幅だけで済む上に、馬車本体が滑る事で馬の負担が更に減った事が理由だろう。
因みに馬車本体にはグラビティを使用しているので、馬が負担している重さは乗員のみ。但し、馬車が進む際に掛かる車輪の摩擦による抵抗があった。それがソリの方が抵抗が少なくて済むのだ。
通常では考えられない馬車の速さが実現しているのだが、彼等はそれに気付いてはいない。
「これなら、明日にでも着きそうだなぁ」
このペースだと予定よりも早く着きそうだ。もちろん、早く着く事に越した事はない。それに、今日は久しぶりの晴天だからね。どんどん飛ばすとしよう。
「あの、アラヤ君。魔導感知に、急激に接近する反応があります!」
先頭の馬に乗馬して積雪を溶かしていたアヤコが、いち早く気付いて知らせる。アラヤの感知にもその反応が現れた。
反応は五体。物凄い速度でこちらに向かって来ている。
『皆んな、戦闘準備!』
アラヤは馬達を減速させて、アースクラウドで簡単な防壁を作り馬達を見えなくする。望遠眼で確認すると、雪を巻き上げながら疾走して来る影が見えた。
「巨大猪みたいだね。後ろにいるのはうりぼうみたいだ」
3mくらいの大きさの猪は牙が4本見える。鑑定にはシルバーボアと明記されている。どうやら魔物ではなく、この土地で生息している猪の様だ。
「先頭の親猪は手負いのようです。どうやら追跡者もいる様ですね」
「えっと、この場合に倒したら横取りになるの?」
「可能性はあります」
「ええー⁉︎昼食は猪肉になると思ってたのに」
溜め息を吐きながらも、防壁の上に立ち真っ直ぐに向かって来る猪に対して威圧を発動した。
『ピギッ‼︎子供達!向きを変えるわよ!』
慌てて方向を変えようとする猪達は、勢い余って激しく横転した。そのままゴロゴロと五匹丸ごと雪だるま状になり、アラヤ達の横を通り過ぎて行った。
「勝手に気絶してくれた様だね」
気絶した猪を見ていると、ようやく追跡者が追い付いた様だ。スキー板に乗りながら現れたのは、獣の毛皮姿で片手にはボウガンに似た弓を装備した狩人の男だった。
「何だお前達は!まさか、俺の獲物を横取りしようって魂胆か⁉︎」
「いやいや、そんな気は無い。ただ、逃げて来た猪が我々に驚いて、勝手に横転して気を失っただけだよ」
「フン、ならば獲物は全部俺の物だからな。関係無いならどっか行けよ」
彼の態度に多少カチンと来たが、アラヤは我慢してとりあえず防壁を蹴り崩した。
その音で、気を失っていたシルバーボアが目を覚ました。
「あっ!馬鹿野朗‼︎」
彼は直ぐ様、ボウガンを構えてシルバーボアの眉間を撃ち抜く。
ピギィィッ‼︎
親猪の断末魔の叫びにうりぼう達も目を覚ました。狩人は鍵爪の付いた縄を投げ付け、うりぼう達の捕獲を狙った。
キィン!
鍵爪が弾かれて、うりぼう達は逃げ出した。鍵爪を弾いたのは、サナエが投擲したチャクラムだった。
「テメェ、何しやがる‼︎」
「…子供まで命を奪う必要は無いでしょう?」
「ああっ?せっかくの大猟をみすみす逃す馬鹿がいるかよ⁉︎」
再び追いかけ様とする彼の前に、今度はクララが立ち塞がる。
「なっ⁉︎シルバーファング⁉︎」
睨みを効かせたクララは、逃げるうりぼうを背に守る様にしている。
『追わせは、しない』
その迫力に彼はたじろぎ、うりぼうに完全に逃げられた事に舌打ちをした。
「根こそぎ子孫まで乱獲するは、狩を知らぬ愚者がする行いよ」
カオリが、クララを宥める様に撫でて落ち着かせる。
「はっ、知った様な口を!俺らには今、沢山の食糧が必要なんだ!先の事は知った事か!」
鑑定でよく見ると、名はリアム。彼は老けて見えるだけで、歳はまだ18歳とアラヤ達と大して変わらない事に気付いた。
「貴方にどんな事情があるかは知らないけど、子供は逃がしてもらうよ。大体、獲物は他にもいる筈だし」
「簡単に言うな!この猪だって丸2日掛けて…って、何してる⁉︎」
後ろを見ると、サナエがシルバーボアの脚を結んで木に吊り上げていた。
「何って、放血よ。肉がダメになるでしょう?」
慣れた手付きで包丁で頸動脈を刺して、勝手に放血を始めている。こちらの世界に来た当初は、獲物の処置なんて全く出来なかったのに、慣れたものだね。
「ソイツは俺の獲物だぞ!」
「別に盗らないわよ。生け捕りじゃなくて捕殺したら、早く血を抜いておかないと肉の質が落ちる。貴方がぐずぐずしてるから、代わりにしてあげただけよ」
「余計なお世話だ!どうせ少し分けろとか言う気だろ!」
その言葉にカチンと来たサナエは、作業を止めてリアムの前に詰め寄った。
「私達は食糧に困っていないわ!」
亜空間収納から食糧の箱を取り出してズラリと並べて見せた。ちょっと、何してるの⁉︎とアラヤも駆け寄る。
「な⁉︎何なんだ、お前達は⁉︎いきなり大量の食糧を出すとか、魔族か何かか⁉︎」
「俺達は行商人だよ。それとサナエさん、彼が不審がるのは当たり前だよ。このシルバーボアは彼の獲物だし、捕殺後の処理くらいは知っているだろうさ。これ以上、彼の邪魔になるのは悪いから、ガーンブル村に向けて再び出発しよう」
アラヤは、サナエに有無を言わせずに食糧を再び収納させる。全く、食糧不足でイライラしている相手に、食糧見せびらかすなんて何考えてるんだか…。後で軽く説教だね、アヤコさんが。
馬車に乗り込むアラヤ達を、リアムは無言で見ていたが、放血が終わったシルバーボアの解体を始めた。
馬車が動き出すと、直ぐ様解体肉を布に包んで後を付ける。
「奴等、大量の食糧をガーンブル村に運ぶ気か」
リアムは、木々の影を利用しながら後を追おうとするが、その差は瞬く間に離される。
「何だよ、あの速度!有り得ないだろ⁉︎」
姿が見えなくなるまで突き放したアラヤ達は、魔導感知から完全に消えた事を確認すると、直ぐに道を逸れて違う角度から村に向かう様にする。積雪の為に今はちゃんとした道は無いからね。
「どうやら撒いたみたいだね」
「ごめんなさい、私の不注意だね…」
アヤコに、説教されていたサナエが反省している。
『でも、気持ち、分かります』
先頭を走るクララも、腹が立ったと賛同する。もちろん、俺だってその気持ちは分かるよ?
「あのリアムという狩人、この付近に住んでいるのなら、ひょっとしたら、ガーンブル村も食糧難かな?」
「その可能性はありますね」
「ん~。ガーンブル村に向かうの止めようかな~」
「…食糧を分けたく無いんですね?」
「そりゃあね。だけど、関わったら後味悪いから出すしかなくなるじゃない?だから、村に寄りたく無くなったな~」
食糧が減る可能性があると思うと、アラヤは極端にガーンブルに行く気が失せたのだ。
「でも、村は平気かもしれませんし、食糧難といっても、不作によるものかも調べないと分かりませんし」
「あの狩人は嫌いだけど、村の人達には関係の無い話かもしれないわね」
アヤコ達は、行って原因を調べるべきだと言うので、アラヤは渋々ながらにガーンブル村行きを決めたのだった。
応援ありがとうございます!
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