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第25章 喰う、それは生きる為ですよ⁉︎

367話 思想の違い

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 自身の体に掛かる重力は、勤勉の勇者クリスチャートの規格外の圧とは違い、神殿内に平等に掛かる重力らしい。
 とはいえ、唯一の無属性魔法が使える配下の【運び屋トレーガー】は、私の【不可侵領域】解除後に重力に屈してしまった為に、立ち上がり相対するグラビティを発動する事ができない。

(もうすぐで【不可侵領域】のインターバルが終わる。クリス、それまでの辛抱よ)

 四つん這いの状態で耐える純潔の勇者フローラは、新たな3つの拒む事象を組み換え、錫杖を何とか掴む。

不可侵インヴァイ…ガハッ⁉︎」

 特殊技能ユニークスキルを発動しようとした瞬間、喉と片肺が部分的な重力で潰された。

「見逃すわけないだろう?邪魔しないよう、そこで大人しくしていただこうか。新たな来客が来たのでね、君達は後回しだ」

 フローラは血混じりの咳をしながら、意識が途切れそうな中でその来客らを見た。

「ああ、もう決着ついちゃった感じかな?」

 階層入り口から現れたその者達は、この重力下の中で平然と歩いて来た。
 全員がグラビティの対処済みという事だ。

(あの竜人ドラッヘンは…、それにあの少年と銀狼…見覚えがある…気がするわ…)

 フローラは、微かによぎる記憶が何かを分からないままに気を失った。

 入り口からぞろぞろと現れたニイヤ達は、ベルフェルや勇者達を見た後、その近くに立つ年配の男を見据えた。

「間違いないわ、彼がダクネラ=トランスポートよ」

 カオリとアフティは、強制召喚時に面識がある。

「これは驚いたな。死んだと思われていた色欲魔王ではないか!ハハハ、そうか、死を偽装していたか!」

 嬉しそうに笑うダクネラに、カオリは不快な気分になる。
 何も好きで偽装したわけじゃ無い。

「アレが無の大精霊ケイオス?」

『そ、そうなんだな!』

 ダクネラより少し後ろに離れて立つ異様なその大精霊は、ニイヤ達を見た後に上を見上げた。

『…風ノ大精霊ガ真上ニイルナ。オマエハ、エアリエルノ契約者ナノカ?』

「…達?それはどういう意味だケイオス」

 本来、精霊は1人の契約者しか選べない。それがまるで複数人と契約しているかの言い方に聞こえた。

「ああー、ケイオス様。お話したいのは山々なんですが、今は貴方の契約者と話をさせていただきたいんですよ」

『…ヨカロウ』

 ニイヤ達は普通に話をしているが、警戒心を解いてはいない。
 そもそも、あの勇者達をここまで追い込んだ人物だ。油断は禁物なのは当然だ。

「えっと、トランスポート教皇。出来れば大人しく、我々と御同行願えませんかね?」

「…それは、如何なる理由で何処へかね?」

「世界各地で暴動や反乱の扇動等、理由はそれで充分でしょう?行き先は、被害国の代表と、大罪教、美徳教の両教皇を集めた裁判所です」

 もちろん、そんな場所も各国の代表達との連絡もできていない。
 要は、身柄を確保した後で用意すれば良い話だ。
 ただ、すんなりと従う筈も無いのは火を見るよりも明らかだけど。

「フフフ、面白い冗談だな。奴等の頭にはどうせ断罪以外に道が無いというのに、わざわざ晒し者になれと?」

 友好的に見せていた笑顔がゆっくりと消え、徐々にその目に気迫がこもり出す。

「それに、勘違いしているようだから教えてあげよう。そもそも我々の浄化は、この世界の救済である。人は、欲があるから、溺れ足掻き魂が穢れる。美徳があるから、森羅万象の最たる存在と思い違い、神に等しいと跋扈ばっこする。故に、神に今一度全てを還す。その為の浄化なのだ」

 ダクネラの思想を聞いたベルフェルは、涙を流し項垂れる。

「私は…間違って…いたのだな…」

「おお、分かってくれたか友よ。今からでも…」

「貴方のその考えも、結局は傲慢ではないか?世界は浄化を求めている?神が決めたのか?違う、決めたのは君だよダクネラ…」

「……」

 ダクネラは、ベルフェルに差し出そうとした手を下ろした。

「君は、自身に納得がいかないこの世界を、ただの子供の様に神に全責任を押し付けようとしているに過ぎない」

 もちろん、それは己にも言える事。
 親を憎み、自身の人生を恨んだ。
 他者の環境を妬み、近付き陥れた。

「…私は気付いた。浄化すべきは先ず、自己の心だ。私が掲げていた理想は、世界を浄化する理由にはならない」

 満身創痍な体でも毅然と喋るベルフェルは、戦意喪失して倒れているクリスチャートと、フローラが掴む錫杖に触れた。

「すまない、ダクネラ。私は君の思想に賛同できない。私は私の…私なりの浄化の在り方を探す。…さらばだ」

 ベルフェルは、勇者2人を連れてテレポートで姿を消した。
 ダクネラは、無言で止めないまま彼等を見送った。

『アヤコさん、ベルフェル司教がテレポートで退避したんだけど、場所を補足して保護してくれる?』

『了解です』

 一帯を監視しているアヤコなら、彼等を無事に見つけるだろう。
 まぁ、残る配下の2人は、俺達が連れ帰る必要があるようだ。

「…フフ、彼の見つける浄化も見たいものだが、私も我が理想を今更曲げる気は無い」

 ニイヤ達に向き直ったダクネラは、両手を広げる。

「創造神ヌル様の召喚を防いだのは君達の仲間だろう?」

「さぁ、何の話やら?」

「本来、創造神召喚アレを止める方法は、召喚術者となる私を倒すことだ。その為に君達は来たのだろう?だが先程、私はケイオスから、別の方法で阻止されたと聞いた。君達もエアリエルから聞いたのだろう?だから、私を倒すのではなく捕縛へと切り替えた」

「その前に、創造神召喚なんて話、私達は知らないわよ?大罪教に頼まれて来ただけだもの」

 カオリがあたかも今知った様な素振りを見せるが、ダクネラは溜め息を吐く。

「…あくまでもしらを切るか。まぁ良い。私が居る限り、世界浄化の方法が1つでは無い事を理解する事だ」

 ダクネラが、広げていた手を重ねた同時に、アースクラウドでできた巨大な手が左右からニイヤ達に向かい伸びて来た。

『各自散開!』

『注意すべきは、超重力と僅かな時間停止なんだな!オイラの力じゃ、完全に抑えられ無いから用心するんだな!』

 ニイヤ達は暴れる土腕により早速前後に分断された。
 土腕の破壊に出たアスピダと主様に、ダクネラが距離を詰めに掛かる。

ジュッ。

 ダクネラの靴先が僅かに溶けた。すると即座に彼は退がった。

「…会話中に、ジャミングしたアッシドミストを散布していたか」

 中距離で、しかも無詠唱で超過重のグラビティを放つらしいから、カオリがその対応策として飛ばしていたのだ。
 ダクネラとアスピダ達の間には今、見え辛い酸の霧があるのだ。
 これなら、時間停止による移動先が制限できる。

「…小癪!」

 ダクネラは土腕が破壊される前に、辺りの薙ぎ払いに使う。
 その腕を途中で爆散し、撒いた酸の霧を散らした。

「うわっ⁉︎」

 飛散する土塊の防ぎに回ったニイヤ達に、ダクネラは更なる追い討ちを掛ける。
 彼等の頭上の天井に対して超重力を掛けた。
 上階層に亀裂が走り、落盤クラックプレスが起こる。
 辺り一帯が瓦礫で埋まり、大量の埃が舞い上がり視界が悪くなった。

(…この程度では終わるまい)

 気配感知以外に感知技能を持たないダクネラは、息を殺しながら瓦礫の動きを見つつ、埃が落ち視界が回復するのを待った。

「……」

 ガコッと瓦礫の一部が持ち上がる。竜鱗の腕が見え、竜人の主様が顔を出した。

「うっ⁉︎」

 目前に足が見えた直後、主様はいきなり超過重に襲われる。

「ハッ!」

 圧を掛けるダクネラの背後に、突然ニイヤが現れ斬りかかる。

「…上に飛んでいたか!」

 時間停止で斬撃は躱され、背後に回られた。しかし、驚いたのはダクネラの方だった。
 ニイヤの背中に拳大の水の玉があり、直後にアイスニードルとして放たれたのだ。

「ぐっ!」

 再び時間停止を使い躱したダクネラは、堪らず距離を取った。

「今で何回使った?」

『4回目なんだな!』

 瓦礫がボコボコと持ち上がり、巨大なメデルオオムカデ(アフティの従魔)が現れた。
 その下に、アー君達に守られているカオリ達が居た。

「時間停止なんていう世界に影響を与える超常現象の力、多用できる筈は無いからね!しかも、使用中には他の魔法は使えないみたいね」

「そうだよなぁ。じゃなきゃ初めから使っていた筈だし」

 ニイヤは、主様のグラビティを解除し引っ張り出す。

「つまり、ここからは先読み勝負かな?」

「それなら、ゴーレム(バンドウ)も出しておこう」

 相手にする人数が増える。それは手数が増え、回避先の罠も増えるという事。
 ただし、これが通用するのは、あくまでも時間停止を回避にのみ使う場合だ。

「フム…。勇者のような脳筋と違い、厄介な相手だな」

『エレボスヲ討チ破リシ者達ダ。当然ダロウ』

 ダクネラの表情に焦りは無い。まだまだ何かを隠している可能性もある。
 ケイオスが、このまま契約者である彼に協力しないままとも限らない。

『みんな、何があっても最後まで油断するな!』

『『『了解‼︎』』』

 彼をただ捕縛するなんて余裕は、初めから無かったのだ。
 多勢で卑怯だと言われる様な相手でも無い。全力で戦うしかないのだ。

「行くぞ!」

 倒れたフレイア神像が見つめる中、巨大な力のぶつかり合いが始まろうとしていた。
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