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第26章 楽しいばかりが人生ではないそうですよ⁉︎

376話 音楽祭

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 北海部に広がるデーヴォン列島。
 魔物が住む冥界の国ゴーモラでは、連日の音楽祭が行われていた。

「良いね!だいぶ上達しているよ!」

 審査員席には、ソルテ(楽観的なアラヤ)とゴーモラ王国女王であるコウサカが座っている。

「ん~、打楽器は確かにリズム感が揃うようになったけど、でも弦楽器はまだまだね」

「睡魔族は管楽器をもう使い熟しているよ」

 今、この国では音楽ブームが来ていて、娯楽が少ない魔物達が音楽の楽しさに目覚めていた。

 各部族の魔物で音楽隊を作る場合がほとんどだが、ネガト(卑屈的なアラヤ)が集めた魔物による音楽隊は、部族がバラバラだった。

「…やはり今日は調子が悪い気がする。みんなの足を引っ張るかもしれないから、やはり僕は抜けようかな…」

「だ、だめですよネガト様。最終日の今日は優勝が掛かっているんですから」

 音楽祭は、予選2日、決勝2日の4日間開催となっている。
 3グループの決勝進出した隊の中から、今日優勝する隊が決まる。
 楽器要らずのハーモニーが得意な魔鳥族、人型に近い上に多腕で器用な演奏ができる巨人族のヘカトンケイル3人組、他種族の魔物から編成したネガトの音楽隊の3隊が、決勝進出を果たしている。

 前世界の記憶があるネガト達が有利にならないように、公平を期す為、決勝の楽曲は皆同じ【月光】を演奏する。
 ただ、世界的に有名なあの音楽家の曲ではなく、コウサカが好きだと言って決めた女性シンガーの曲だ。
 初めにコウサカが手本で歌って見せたのだが、中々に上手くて驚いた。
 当然、魔物達もこの歌が一番好きな曲となったわけだ。

「決勝1組目、ヘカトン3兄弟!」

 進行役は宰相のジョスイが張り切って行っている。

「「「おうっ‼︎」」」

 6mの巨体と多腕を活かし、1人は弦楽器と管楽器を、2人は打楽器を複数並べて奏でる。
 楽譜の知識がある訳では無いのに、それぞれの感覚でその曲に近付けている彼等の感覚は素晴らしいと思う。

「次、2組目、歌鳥風姫カチョウフウキ!」

 魔鳥族は、魔鴨、ハーピー、コカトリス、羅刹鳥、グリフォンと、小型から大型の魔物の鳥が揃い、音階をそれぞれ変えて合唱してみせた。
 ボイスパーカッションもかなり上手くできている。

「次、最終組、同盟楽団【紅月】!」

 ネガトが率いるメンバーは、インキュパスがクラリネット、ダークマーメイドがハープ、トレント2体が弦楽器、スカルナイトが木琴、オークがドラムと、人数が1番多い。
 ただ、ネガトは演奏せずに終始指揮を担当している。

「アイツめ、自信が無いからって、逃げたな」

 ソルテは、早速紅月の採点を少しだけ引いた。
 本来のネガトの担当楽器は、黒檀のフルートだった。
 ただ、その腕前は【感覚補正】の技能スキルを持ってしても素人レベルの域をまだ出ていなかった。
 だが、全員参加でやらねば意味がないと思うんだよね。
 しかし、他のメンバーが演奏しながら熱い視線をネガトに向け続けていると、曲の後半でネガトがフルートを取り出し演奏に挿入した。

「あら、狙った演出?やるじゃない」

 どうやら、結果的にはコウサカには評価されたようだ。

「結果発表ーッ!」

 ジョスイが精一杯の声量で終了を張り上げる。
 観客達の魔物達もそれに合わせるように大歓声を上げた。

「さぁ、我等が女王と至福の讃美歌を演じる権利を獲得するのはどの音楽隊だーーっ⁉︎」

 そう、優勝した隊に与えられるのは、国の祭事の際に女王と讃美歌を演奏する権利だ。
 副賞としての、ベヒモスの頭上搭乗体験には誰も渇望してはいなかった。

「え~、オホン。それでは陛下、結果の程をよろしくお願いします」

 コウサカは、ソルテの審査表と自分の審査表を一瞥した後、席を立ち前へと出る。

「皆の者、迫真の演奏、未知の文化への研鑽たる努力が見え、私は誠に感動したわ。正直、かなりの僅差で悩んだのだけれど、結果は示さなければいけない。…じゃあ、発表するわ!」

 全ての魔物が、ゴクリと喉を鳴らしてコウサカに注目する。

「優勝者は、…歌鳥風姫‼︎おめでとう!宜しくね?」

「「「ワァーーッ‼︎」」」

 大歓声と共に、歌鳥風姫のメンバー達は泣きながら抱き合っている。

「残念ながら選ばれなかった皆も、5年後の第2回の音楽祭に向けて、研鑽を積むように!では、今一度、優勝者の彼女達に盛大な拍手を‼︎」

 その後もしばらく拍手喝采が続き、音楽祭は成功に終わった。

 各々の片付けが終わり、静寂が訪れたのは夜だった。
 最後まで残っていたネガトの音楽隊は、静かに反省会をしていた。

「みんな、ごめんね。やはり足を引っ張ってしまった」

「そんな事はありませんよ。我々もまだまだ努力も経験も足りませんでした」

「あの、やはりネガト様が本国へと帰られるのですか?」

 元々、親善大使として長く滞在するのは1人の予定であり、決まり次第本国へと帰る決まりだ。
 しかも、本国ではヌル虚無教団と大規模な戦いがあった後らしいし、今は人手が必要だろう。

「…うん、多分そうなると思うよ。僕はソルテほど社交的じゃないからね」

「そんな…残念です。出来れば、貴方からまだ色々な事を学びたかった」

「まだ決まったわけでも、直ぐに帰られる訳でもない筈、是非とも明日も練習しましょうよ?」

 みんなから説得されるように、明日も練習をする約束をしてしまった。
 すると、そこにジョスイが現れた。

「ネガト殿、此処に居られましたか」

「あれジョスイさん、どうかされましたか?」

「打ち上げに参加されていないから、探していたんですよ。陛下がお待ちですので、来て頂けませんか?」

 打ち上げにはソルテが参加しているだろうから、自分は大丈夫だと踏んでいた。

 楽隊達に別れを告げて、ジョスイが用意していたメデルオオムカデに乗り出発する。

「あれ?打ち上げ会場では?」

 向かう先が、煌々と明かりが灯り賑やかな騒ぎ声が聞こえる会場からは離れていく。

「皆の邪魔にならぬ様にと、陛下は王宮にてお待ちです」

「?」

 見えてきたその建物はアラヤ達が、禁呪により無くなった王城の代わりに建てた仮の王宮だ。
 王宮の周りには、ヘルハウンド達が護衛として巡回していた。
 ムカデを止め降りると、ヘルハウンド達はネガトに一礼して離れていく。

「どうぞ中へ」

 ジョスイが玄関戸を先に開けると、中からは料理の良い匂いがしてきた。

「ちょっと、遅いわよネガト。料理が冷めちゃうじゃない」

「こ、コウサカさん?」

 なんと、コウサカ自らが出迎えてくれた。
 しかも、彼女に案内されたリビングルームには、食卓いっぱいに料理が並べてあった。

「どうせ、まだ食べていないんでしょう?さぁ、遠慮なく食べなさい」

「う、うん、ありがとう」

 確かにお腹はかなり空いている。重ねてあった皿を早速取って、次々と盛っていく。

「あ、でも、ソルテは呼ばなくて良いの?」

 2皿程並べて一度席に座ると、コウサカがグラスを2つ置き、何故か隣へと座った。

「アイツは、呼ばなくて良いのよ。どうせサキュパス達やハーピー達と盛り上がっているわ」

「…そうなんだ?」

 確かに、ソルテは女性魔物達からも人気があり、かねてから仲良くしているみたいだから別におかしくはないけど。

「アイツ、本当に倉戸の分身体なの?凄い女にだらしなく感じるんですけどー?」

 食事が進むに連れて、彼女は段々と言葉を崩してきた。
 まぁ、元々は堅苦しい喋り方なんて、彼女もしてなかった訳だからね。

「まぁ、考え方で別れているから、自制する気持ちが少ないんだと思うよ。ごめんね、僕から注意しとくよ」

「はぁ?バカね、アイツは別にあのままでも構わないわよ。お調子者だけど、付き合い辛いわけじゃないから。まぁ、ただの友達みたいな感じ?」

 なんだろう、彼女は机に頬を付けこっちをジッと下から見上げてくる。
 食べているところ、あまり見られたくないんだけど…。

「不思議よね?貴方もアイツと同じ倉戸の分身体なのに、強気でも無いし冷たいわけでもない。何故か一人称が僕だし、元の倉戸より可愛く見えるわ」

 見上げる彼女も、いつもより肌色が良く可愛い笑顔に見える。
 彼女はそっと、ネガトの手に触れてきた。

「ねぇ、ネガト。私のにならない?」

「…また僕を玩具扱いする気?」

 ネガトが手を振り払おうとすると、彼女は徐ろに立ち上がり、唇を奪ってきた。

「言い方が悪かったわ。今の私は女王様。言葉使いは、私の苦手な課題なのよね」

 口付けで付いたネガトの食べカスを、舌でペロリと食べて再び唇を重ねる。

「な、何を⁉︎」

「やっぱり、言葉で言わなきゃ分からない?ん~、恥ずいしメンドイんだけど…」

 そうは言いつつ、ネガトの顔を両手で固定して見つめ合わせる。
 その表情は、真剣でやや緊張している。

「私と…、私の、む、婿にならないかってこと!」

「え?あ、ええ?」

 突然の逆プロポーズに困惑するネガトは辺りを見るが、ジョスイはリビングに来た時から居なかった気がする。
 ひょっとして、計画的なことだった?

「で、どうなの?」

「ま、まま、ま、待ってよ⁉︎何で僕?ソルテの間違いじゃなくて?だって、荒垣みたいな奴がタイプなんじゃないの?」

 このセリフには、コウサカは明らかに嫌そうな表情を見せた。

「シン君は、…違った恋だったかな…。私の我が儘はなんでも叶えてくれてたし、優しかったんだけど、この世界に来てからは変わってしまった。いえ、本性が分かったという感じね。彼は一国の王となってから、優しさは減り傲慢なだけになってしまったわ。あの日、私達の前に現れた勇者とその仲間の女性の関係がね、私にはとても眩しく羨ましく思った。きっと、私のその気持ちは彼には理解できないと思う。でも、貴方は…」

 少し涙目の瞳は、真っ直ぐにネガトの気持ちを求めている。

「…貴方の人柄は、私…大好きなの。嫉妬は私の力になるけれど、貴方を誰かに取られる様なヤキモチは妬きたくない!私の…私を…お願い…」

 切に願うのは、ネガトの愛情か、自らの心の安寧か、彼女自身が理解しきれてない気がする。

「…分かった。結婚を直ぐに決めるのは無理だけど、僕は君の側に居るよ。こんな僕が君の支えになるかは分からないけど、お互いをゆっくり理解していこう?」

「ーーーッ‼︎」

 最後に見せたネガトの笑顔に、コウサカは堪らず抱き付いた。

(う~ん、これって、僕が勝手に親善大使として残るって決めちゃった感じ?ソルテは怒るかなぁ?)

 そんなネガトの不安を他所に、ソルテは会場でジョスイと乾杯をしていたのだった。
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