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第一章 スティアと日記帳

三話

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日記帳を見つけて3日。
この不思議な日記帳は、誰が何の目的で私の部屋の床下に埋めたのかはまだ分かっていない。
それどころか、色々な文献や図書を当たってみたが今回のような事が起こったと言う記述はなく、この日記帳のことは何も分からずじまいだった。

だけど、この日記帳が見つかったのはきっと何か理由がある。
日記帳に書かれていることを信じようと決めた私は、ずっとどうしたら日記帳にある最悪の未来を避けられるのか考えている。

「未来の私は、きっと冤罪で断罪されたんだわ…でしたら、そうならない為にも私がやっていないと言う証拠を残せば良いわ!

それと、未来の私は友人も居なくて、レオお兄さま以外誰も庇ってくれる方が居ませんでしたわ。
学院へ行く前から悪い噂も立っていましたわね。
人付き合いは苦手ですが、最悪の未来を避ける為にも明るく社交的にならなくてはいけませんわ!これからは、きちんと社交界やパーティーにも顔を出しましょう。」

誰も入れないようにドアノブに椅子をかけた自室で日記帳を見ながら思いついた案を日記帳とは別のノートに書き込んでいく。

「それにしても…証拠を残すにはどうすれば良いのでしょうか…
んー…あ!御屋敷の図書室へ行ってみましょう。
御屋敷にある本に何か良い案が載っているかもしれませんわ。」

思い立ったら吉日。
早速、御屋敷にある図書室へ向かうと海を渡った異国に物事を記録できる鉱石が存在する事を知った。

「この鉱石を使えば、証拠を残せますわ!
確か、こちらの国とは貿易をしていたはず…
次に港へ入るのはいつだったかしら…」

悪いとは思ったが、お父さまの書斎に忍び込み、各国の港の出入りが書かれたカレンダーを確認する。

「港へは1週間前に入っているわね。…あらやだ!港を出るの今日だわ!今から行けば…ギリギリ間に合うわね。
船員の方にお話を聞ければ良いのだけど…

今日は、お義母さまとミラは仕立て屋を呼んでドレスを作らせていたはず。
こっそり出ればバレないわ。」

私は急いで鉱石が書かれた本を持って部屋へ戻ると貯金していたお小遣いと執務室から拝借した小切手帳を鞄へしまった。
小切手はもし、自分のお小遣いで足りなかった場合に少し貸して頂こうと思っている。

服は、リネン室から拝借したメイド服に使われる紺色のワンピースを着てその上からフード次のポンチョを羽織った。
私の顔を知っている人は少ないと思うが一応、顔を隠して行くことにした。



「わあっ!街はこんな風になっていたのね!人がたくさんいてとても賑やかだわ。」

街へ降りると道の両側に色とりどりの看板を掲げたお店が立ち並び、行き交う人々の笑い声や話し声があり、とても賑やかな様子だった。

少し進んだ先にある広場には噴水があり、その周りを子供たちが楽しそうに走り回っている。

私は見慣れない光景に周りをキョロキョロしながら進む。

「あら、いけない!こんなことしている場合ではなかったのだわ!早く港へ行かないと!」

興味の惹かれるお店へ足を踏み出すのを必死で堪えて、自分に言い聞かせる。

「あら?ここは随分と狭い道ね。本当にこの道であっているのかしら?」

持ってきた地図と照らし合わせながら進んでいると先ほどよりも随分と狭い道へ入ってしまった。
どうやら、道を間違えてしまったようだ。

「暗いしなんだか怖いわ…早く出てしまいましょう。」

『やめろ…っ!俺に触れるな…!』

出口の方へ急ぎ足で進んでいると右手の分かれ道の先から何やら言い争う声が聞こえる。

「何かしら?」

気づかれないようにそっと声のする方へ近づくと、フードの被った少年を厳つい顔をした悪そうな人たち3人が囲っていた。

(いけない…!このままだとフードの少年が殴られてしまうわ…!)

「衛兵さん!こっちです!」

「おい!ヤベェ!!」

咄嗟に衛兵がいると叫ぶと、悪そうな人たちの注意がフードの少年から逸れた。

「来て!こっちよ!」

「あ…!おい!待て!」

「よくも騙しやがったな!!」

悪そうな人たちの注意が逸れた隙をついてフード少年の手を取り、来た道を走って戻る。
そのことに気づいた悪そうな人たちが追いかけてきたが後ろは見ず、必死で走る。
途中で何度も曲がりながら先ほど通った広場を目指す。

「はあ…はあ…きっとここまで来たら大丈夫だわ。ここには沢山の人がいるし安心よ。それよりも、貴方はどうしてあんな所にいたの?」

結局、着いたのは先ほどとは違う広場だったが、悪そうな人たちは追ってきていないようなので結果オーライだ。

「…助けてくれてありがとう。初めて来た場所で迷ってしまったようなんだ。一緒に来た人たちとの逸れてしまって…そう言う君はどうしてあんな所に居たんだ?」

フードの中の目はまるで海を閉じ込めたかのような綺麗な青色で、少しフードからはみ出した髪はお日様のように綺麗な金髪の少年だった。

「私も貴方と同じよ。どうやら道に迷ってしまったみたい。」

「…!そうか。ははっ!君も俺と同じだったんだね!」

私が、笑顔でそう答えると少年は目を見開いて驚いた顔をしたが、次の瞬間には笑っていた。

「君、なま『…ヤ様~!』」

「あ、貴方を呼んでいるみたい!こちらに手を振って走ってきているわ。良かったわね!じゃあ、私はこれで失礼するわ。」

「ぇ…あ!」

広場の端からこちらに手を振って名前を叫びながら走ってくる大人の人たちを見つけたので、私はフードの少年に手を振って別れた。


「あら…困ったわ…気付いたらもう日が傾き始めてしまったわ…出航に間に合うかしら…」

普段あまり出歩くことがなく、かつ、体力が人よりも少ない私は疲れてしまい途中のベンチで休んでいた。

ふと、空を見上げると高い所にいたお日様がどんどん傾いて空が茜色になってきていた。

「そこのお嬢さん、何かお困りですか?」
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