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第二章 日記帳のスティア
七話
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私が物心ついた時にはいつも側に家族がいた。
お母さまは、よく異国のお話をしてくれた。
私はそのお話が好きで良くお母さまにせがんでいたのを覚えている。
忙しいお父さまはあまり御屋敷にいなかったからお母さまとレオお兄さまと過ごすことが多かった。
広い御屋敷のお庭で3人でお茶をしたり、お母さまが異国のお話やお歌を歌って下さったり、ピクニックへ出かけたり…お母さまは色々なところに私たちを連れて行ってくれた。
お父さまが御屋敷に帰ってくると、ささやかながらパーティーをした。
お父さまは、いつもお土産話をしてくれた。
聞いたこともない場所の聞いたこともない話、色とりどりの料理に、見たことないお土産の数々…お父さまが帰ってくるとお母さまも楽しそうで私も嬉しかった。
「あの海の向こうには、まだ沢山の国があるのよ。
沢山の人がそれぞれの文化を守りながら生活しているの。
見たことない文化、見たことのない植物、見たことのない動物…きっと見たことないもので溢れているのよ!
私は、いつかあの海を旅して沢山の国を見て回りたいと思っているのよ。」
御屋敷から見える海を指差しながらお母さまはいつもそう言っていた。
「レオとティアが大きくなってこの領地を任せられるようになったらお父さまと一緒に旅に出るつもりなのよ。」
「ああ。だから、早く立派になってくれよ。
じゃないと、私の愛する小鳥が我慢できずに羽を広げて飛んでいってしまうからね。」
私を抱き抱えるお父さまがレオお兄さまと私の頭を撫でて言う。
お父さまは、忙しくてあまり御屋敷いなかったけれど私たち家族は仲良く幸せに暮らしていた。
そんな幸せに影がさし始めたのは私のデビュタントを祝うパーティーの時から。
「お母さま!私のドレスどうですか?」
「ええ、とっても素敵よ。
ティアももうレディーの仲間入りなのね。」
お母さまのプレゼントして下さったドレスはアストンフォーゲル辺境伯領の特産品の一つでもある真珠が散りばめられたドレスで、デビュタントできた真っ白のドレスとは違い、裾にかけて深い青色になっていく海のようなドレスだった。
私のドレス姿を見たお母さまが嬉しそうにそう言ったのを今でも覚えている。
大好きな家族と素敵なドレス。
パーティーはすごく楽しくて、凄く幸せな時間だった。
でも、その夜…お母さまが倒れた。
色んなお医者さんに診てもらったけど、言うことは皆んな同じことで…
「残念ですが、この病気は不治の病と言われているものです。
力を尽くしますが回復の見込みはないでしょう。」
それでも、諦められなくて沢山の本を読んで健康に良いと書かれていることは何でも試した。
毎日、レオお兄さまと看病をした。
でも…お母さまの病状は日に日に悪くなっていくばかりだった。
「ティア…困っている人に手を差し伸べられる人になりなさい…身分や人種関係なく誰に対しても平等に接するのよ…人の痛みがわかる人になりなさい…大丈夫。貴女はとても優しい子よ…貴女の信じる道を進むのよ…例え遠く離れてしまっても私はいつでも見ているわ…」
「やだやだ!お母さま…!いかないで…!お母さま…!!」
「愛しているわ…ティア…私の愛おしい子…どうか笑って…」
お母さまは亡くなった。
月のない静かな夜だった。
お父さまの帰らぬままお母さまの御葬式は行われた。
沢山の人がお母さまとの別れを惜しんだ。
お母さまの大好きなホワイトローズに囲まれてお母さまはお墓へと入った。
「レオお兄さま…どうして…お父さまはいらっしゃらないの…?お母さまとのお別れなのに…」
「父さまは母さまよりも仕事を選んだんだ。」
「えぇん…寂しいよぉ…お母さまぁ…」
「大丈夫だ。ティアのことは僕が守るから。絶対…絶対守るから…!」
レオお兄さまも私のことを抱きしめながら泣いていた。
結局お父さまが帰ってきたのは御葬式から日が経ってからだった。
「お父さま…あの…」
「…お前の顔は見たくない。出て行ってくれ。」
お父さまは顔を見ずに言った。
お父さまに拒否された…
胸が引き裂かれそうだった。痛くて苦しくて悲しかった。
お父さまはそれから私を避けるようになった。話しかけても無視されて、目も合わせてくれなくなった。
私はもうお父さまにとっていらない子なんだ。そう思った。
お父さまが新しいお義母様とその娘を連れていたのは数日後のことだった。
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最後までお読み頂きありがとうございます!
昨日は私情により投稿できず申し訳ございませんでした。
ついに第二章 日記帳のスティアが始まりましたね。
今回は、スティアとレオンの実の母親であるソフィアが存命で幸せだった日々から、ソフィアの死までをメインに書かせて頂きました。
愛された幸せな日々があるからこそ、これからの日々はスティアにとって辛いものとなることでしょう。
過去編は暗い話が多いですがお付き合いよろしくお願い致します。
お母さまは、よく異国のお話をしてくれた。
私はそのお話が好きで良くお母さまにせがんでいたのを覚えている。
忙しいお父さまはあまり御屋敷にいなかったからお母さまとレオお兄さまと過ごすことが多かった。
広い御屋敷のお庭で3人でお茶をしたり、お母さまが異国のお話やお歌を歌って下さったり、ピクニックへ出かけたり…お母さまは色々なところに私たちを連れて行ってくれた。
お父さまが御屋敷に帰ってくると、ささやかながらパーティーをした。
お父さまは、いつもお土産話をしてくれた。
聞いたこともない場所の聞いたこともない話、色とりどりの料理に、見たことないお土産の数々…お父さまが帰ってくるとお母さまも楽しそうで私も嬉しかった。
「あの海の向こうには、まだ沢山の国があるのよ。
沢山の人がそれぞれの文化を守りながら生活しているの。
見たことない文化、見たことのない植物、見たことのない動物…きっと見たことないもので溢れているのよ!
私は、いつかあの海を旅して沢山の国を見て回りたいと思っているのよ。」
御屋敷から見える海を指差しながらお母さまはいつもそう言っていた。
「レオとティアが大きくなってこの領地を任せられるようになったらお父さまと一緒に旅に出るつもりなのよ。」
「ああ。だから、早く立派になってくれよ。
じゃないと、私の愛する小鳥が我慢できずに羽を広げて飛んでいってしまうからね。」
私を抱き抱えるお父さまがレオお兄さまと私の頭を撫でて言う。
お父さまは、忙しくてあまり御屋敷いなかったけれど私たち家族は仲良く幸せに暮らしていた。
そんな幸せに影がさし始めたのは私のデビュタントを祝うパーティーの時から。
「お母さま!私のドレスどうですか?」
「ええ、とっても素敵よ。
ティアももうレディーの仲間入りなのね。」
お母さまのプレゼントして下さったドレスはアストンフォーゲル辺境伯領の特産品の一つでもある真珠が散りばめられたドレスで、デビュタントできた真っ白のドレスとは違い、裾にかけて深い青色になっていく海のようなドレスだった。
私のドレス姿を見たお母さまが嬉しそうにそう言ったのを今でも覚えている。
大好きな家族と素敵なドレス。
パーティーはすごく楽しくて、凄く幸せな時間だった。
でも、その夜…お母さまが倒れた。
色んなお医者さんに診てもらったけど、言うことは皆んな同じことで…
「残念ですが、この病気は不治の病と言われているものです。
力を尽くしますが回復の見込みはないでしょう。」
それでも、諦められなくて沢山の本を読んで健康に良いと書かれていることは何でも試した。
毎日、レオお兄さまと看病をした。
でも…お母さまの病状は日に日に悪くなっていくばかりだった。
「ティア…困っている人に手を差し伸べられる人になりなさい…身分や人種関係なく誰に対しても平等に接するのよ…人の痛みがわかる人になりなさい…大丈夫。貴女はとても優しい子よ…貴女の信じる道を進むのよ…例え遠く離れてしまっても私はいつでも見ているわ…」
「やだやだ!お母さま…!いかないで…!お母さま…!!」
「愛しているわ…ティア…私の愛おしい子…どうか笑って…」
お母さまは亡くなった。
月のない静かな夜だった。
お父さまの帰らぬままお母さまの御葬式は行われた。
沢山の人がお母さまとの別れを惜しんだ。
お母さまの大好きなホワイトローズに囲まれてお母さまはお墓へと入った。
「レオお兄さま…どうして…お父さまはいらっしゃらないの…?お母さまとのお別れなのに…」
「父さまは母さまよりも仕事を選んだんだ。」
「えぇん…寂しいよぉ…お母さまぁ…」
「大丈夫だ。ティアのことは僕が守るから。絶対…絶対守るから…!」
レオお兄さまも私のことを抱きしめながら泣いていた。
結局お父さまが帰ってきたのは御葬式から日が経ってからだった。
「お父さま…あの…」
「…お前の顔は見たくない。出て行ってくれ。」
お父さまは顔を見ずに言った。
お父さまに拒否された…
胸が引き裂かれそうだった。痛くて苦しくて悲しかった。
お父さまはそれから私を避けるようになった。話しかけても無視されて、目も合わせてくれなくなった。
私はもうお父さまにとっていらない子なんだ。そう思った。
お父さまが新しいお義母様とその娘を連れていたのは数日後のことだった。
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最後までお読み頂きありがとうございます!
昨日は私情により投稿できず申し訳ございませんでした。
ついに第二章 日記帳のスティアが始まりましたね。
今回は、スティアとレオンの実の母親であるソフィアが存命で幸せだった日々から、ソフィアの死までをメインに書かせて頂きました。
愛された幸せな日々があるからこそ、これからの日々はスティアにとって辛いものとなることでしょう。
過去編は暗い話が多いですがお付き合いよろしくお願い致します。
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