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第二章 日記帳のスティア

十二話

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私がヴァイオリンを始めたのはお母さまの影響だった。
レオお兄さまとお母さまがピアノとヴァイオリンで共演しているのを見て、お母さまのようにヴァイオリンを弾きたいと思ったのが始まりだったと思う。

「スティア様、本日の文化発表会ではヴァイオリンを御演奏されるとか。」

「ええ、そんな大したものではないのだけれどね。」

「いえ!文化発表会での御演奏は選ばれた学院生しか行えないと聞きました!
選ばれるなんて流石、スティア様です!」

お母さまとレオお兄さまの演奏を聴いて直ぐにお父さまとお母さまにお願いしてヴァイオリンの先生をつけてもらったのよね。

「選ばれたなんて言いすぎよ。
たまたま先生のお眼鏡に適っただけよ。
私はただ、ヴァイオリンを演奏している時だけは全てを忘れて穏やかな気持ちになれるから…ヴァイオリンが好きだから弾き続けているだけよ。それは、今でも変わらないわ。
でも、もし、それが役立ったのだとしたら嬉しいことね。」

「ああ!私もスティア様の演奏を聴かせて頂きたかったですわ…
サクラ寮付きのメイドはパーティーの会場準備に駆り出されるなんて…
くじ引きで引き当てさえしなければ…」

ララは恨めしそうに窓の外を眺めている。

「ふふ、それは不運だったわね。
でも、私なんかの演奏で良ければいつでも弾くわよ。」

「え!本当ですか!?ありがとうございます!
あの…スティア様が良ければなんですけど…前に話した仲の良い同僚も呼んで良いでしょうか?
スティア様にとても会いたがっているので…」

ララから話は聞いている。
竹を割ったような性格で真っ直ぐなローリエさんと本が大好きでおっとりとした優しい性格のジャスミンさん。
おふたりとも入職時からの付き合いで、貧乏子爵の山猿令嬢と馬鹿にされ嫌がらせを受けていたララを助けてくれたことから仲良くなったらしい。

「もちろんよ!ララを始めとするメイドさんにはいつもお世話になっているのだからお安い御用だわ。
早速、予定が合えばだけど文化発表会後のパーティー中はどうかしら?」

「え…?確かにパーティー中は私たち寮付きメイドの手は空きますが…」

「大丈夫よ。
挨拶回りの後なら抜け出しても気づかれないわ。
それに私、パーティーの様な煌びやかで賑やかな場所は苦手なの。
どうせ、話すような友人も居ないのだしパーティーの時はいつも抜け出して適当に時間を潰すようにしているのよ。」

昔からパーティーが嫌いで置いて行かれても気にしなかったせいであんなウワサ話が広まってしまうことになったのだけどね…

「本当は注意するべきなのでしょうが、私も人のことを言えないので…
…御言葉に甘えさせて頂きますね。
2人にも聞いてみます。」

「ええ、そうして。
どうなかったかはパーティー前の着替えの時に言ってくれれば良いわ。」

「はい。本当にありがとうございます!」

ララは、私が寮を出るまで何回も何回もお礼を言っていた。
私も自分でできることで喜んでもらえるなら嬉しいわ。





「ティア。遂に本番だね。緊張していないかい?」

「ええ、大丈夫ですわ…と言いたいところですが、心臓が飛び出しそうです…」

それぞれの出し物が順調に進み遂に音楽の部になった。
一足先にピアノの演奏を終えたレオお兄さまが舞台袖で準備をする私のところまで会いに来てくれる。

「それにしてもレオお兄さまの演奏とても素敵でしたわ!
会場の皆様も聴き惚れているようでした。」

特に御令嬢方は目をハートにして聞いておられましたわ。
流石はレオお兄さま…

「ありがとう。
本番は、両国の国王・王妃両陛下の御前だし緊張するかなぁと思ったけど練習通りにできて良かったよ。
ティアもたくさん練習を積んできたのだから大丈夫。自信を持って。」

両国、両陛下の御前…そう、それがいつも以上に私が緊張している理由なのよね…

両国の王子殿下が在学中と言うこともあり親である両国の国王・王妃両陛下が来られている。
そんな大舞台で失敗したとなったら…想像しただけでも気分が悪くなるわ…

実際、緊張のあまりミスを連発してしまった学院生もいて、自分の番が近づけば近づくほど鼓動が速くなっていくのを感じる。

『…続きまして、第二学年スティア・アストンフォーゲルで、曲は…』

「さあ、行っておいでティア。
大丈夫、ティアは失敗しないよ。
なんだって僕の自慢の妹なのだからね。」

「はい…!」

レオお兄さまの顔に泥をぬらないように頑張らなければ…!
覚悟を決めて舞台上へ足を進める。

…すごい人だわ…
貴賓席を見て王族勢揃いな様子にドレスの裾を掴む手が震える…

アリーヤ様!…の隣にいるのは…ミラ…?
学院生用のボックス席でアリーヤ様のミラが座っているのが見えた。

動揺する気持ちをなんとか抑えてヴァイオリンを構える。

演奏が始まって仕舞えば何も考えずに演奏に集中できるもの…



「お疲れ様、流石はティアだ。とても素晴らしい演奏だったよ。」

「ありがとうございます。レオお兄さま。」

演奏が終わって裾に捌けるとレオお兄さまが一番に出迎えて下さった。

ミスもなく落ち着いて演奏できて良かったわ。
やっぱりヴァイオリンを弾いている時だけは心穏やかになれるわ…

「レオン、スティア嬢、素晴らしい演奏でした。父上と母上もとても喜んでいましたよ。」

「お褒めに預かり光栄です。ルーカス様。」

声をかけてきたのはフェラーロ王国第一王子のルーカス王子殿下。
物腰が柔らかでとても御聡明な方であると聞いている。

「顔を上げてください。レオンとはクラスが同じなこともあり良く会うこともありますが、スティア嬢とは中々会えませんね。レオンの妨害が入っているからでしょうか?」

「はは、何をおっしゃいますルーカス様。当たり前でしょう。ティアは手に入れても痛くないくらい可愛い可愛い僕の妹ですから。あまり見ないで下さいね。」

なんだろう…ルーカス様とレオお兄さまって同じような雰囲気を感じますわ…
笑顔だけど目が笑っていないところとか…

『あ!レオお兄さま!』

ああ…嵐がやって来た。
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最後までお読み頂きありがとうございます!
更新が空いてしまい申し訳ございません。
空いてしまった分、2話続けて更新させて頂きます!

今回は、文化発表会編です!
スティアのヴァイオリンはめっちゃ上手いです!
ヴァイオリン上手い女の子って素敵ですよね!
マンドラゴラもヴァイオリン弾いてみたいのですが、芸術的センス皆無なのでスティアに夢を託しました!
スティアのヴァイオリンには、素敵な物語があるのですが、それはまた次回の後書きで!

次回は、この続きになります!
是非、お楽しみ下さい!
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