亡国の王、幼なじみDomと癒され再会ラブ

切羽未依

文字の大きさ
24 / 34
暗殺者

Dom vs Dom

しおりを挟む
 セイフのやしきの広いバルコニーは柵もなく、海の上に広く張り出していた。
 ウェリスとセイフは、バルコニーに置かれたテーブルに、向かい合って座り、昼食を食べた。


 セイフは、着替えることもなく、麻のシャツとズボンにサンダルで、ゆるやかに波打つ長い赤毛も、無造作に、ひとつに結んだままだ。
 私的な食事会であることを、強調してだろうか。

 



 滋養じようのある物と聞いて、うきうき、期待していたウェリスは、表情には出さないように努力しなければならないほど、とってもがっかりしていた。


 滋養はあるのかもしれないけれど、元が何なのか、わからないほど、切り刻まれたり、煮崩にくずされたり、混ぜ合わされたりした食べ物が、ソースをかけられて、お皿に、ちょこんとられている。



 食べ物の味より、ソースの味しか、しない。



 それを二口ふたくち三口みくちで、食べ終わると――一口ひとくちで食べられる量だったが、セイフをチラ見したら、フォークとナイフで切り分けて、ちょっとずつ食べていたので、ウェリスも、同じようにした…――召使めしつかいがからの皿を下げて、また、ちょこんと盛られた皿を、ウェリスの前に置くことが、何度も、繰り返された。


 空の皿が下げられて、ソースまみれの魚の小さな切り身が載った皿が、ウェリスの前に置かれる。

 フォークで、切り身のド真ん中をブっ刺して、一口で食べてしまいたい衝動を抑えて、ウェリスは、はじっこにフォークを刺し、ナイフで小さく切り分け、口に運んだ。
 口の中、魚の味は行方不明で、甘すぎるソースの味だけが広がってゆく……


 ウェリスは、フォークとナイフを皿の端に置くと、ワインを飲む。
 口の中の甘さが、苦いワインと混ざって、ちょうどいいくらいだった。


 ウェリスの国でも、ワインを造っていたが、「熟成じゅくせい」という概念がいねんがなく、何年も寝かせたワインの味を「苦い」としか、舌が感じられない。


「あなたが望んでいるのは、ご自分の王国を、僭王せんおうから奪い返すことだけなのかな?」
 セイフに聞かれて、ウェリスは、真顔まがおを整えてから、見返した。

 透き通った水晶のようなウェリスの瞳を、セイフの焦げ茶の垂れ目が見つめる。
「僭王の側近そばちかく、いらっしゃるあなたならば、それ以上を望めるのでは?」
「それ以上?」
 ウェリスは聞き返す。海風が吹いて、銀色の髪を、きらきらといた。

「たとえば、」
 セイフは下を向き、魚の切り身の端をフォークで刺し、ナイフで切り分けた。
「このようなことをして」
「ふふっ」
 ウェリスは笑ってしまった。セイフは顔を上げる。


 食事で付いたあぶらつやめくあかい唇を歪めて笑うウェリスに、セイフは見とれた。――ウェリスに笑われているのは、自分だということを知らずに。


 思いっきり笑ってしまったので、ごまかしようもなく、笑うだけ笑って、ウェリスは答えた。
「お恥ずかしい話ですが、私は、魔力も、腕力も、僭王にかないません」
 魔力は互角ごかく、腕力は、ドニがバカぢからなだけ!と、心の中で、ウェリスは訂正する。

「でも、あなたならば、」
 ウェリスは下を向き、魚の切り身の端をフォークで刺し、ナイフで切り分けてみせた。そして、顔を上げ、セイフにたずねる。
「できますか?」

「王城の中では、魔術が封じられている」
 苦々しく言ってセイフは、ワインを一気に飲み干し、グラスを置いた。
「王城の扉の前には、透視魔術が仕掛けられている。カトラリーも持ち込めない」


 徹底的に、直接的な言葉を避けるセイフに、ウェリスは感心する。
寝首ねくびく」とは言わずに、魚の切り身をナイフで切ってみせる。
「ナイフ」とは言わずに、カトラリーという表現にする。


 権謀術数けんぼうじゅっすうっぽいな!
 やっと、ウェリスは楽しくなって来た。


Come来い!」
 突然、セイフが命令コマンドを怒鳴って、ウェリスは小首を傾げた。

 テーブルに近付こうとしていたワインを持った召使いは、慌てて駆け寄った。
「申し訳ありませんっ」
 謝って、セイフのからのグラスにワインを注いだ。

「命令されなければ、ワインもそそげないのか」
「申し訳ありませんっ」
 セイフに罵られて、また召使いは謝る。


 ウェリスは、なんとなく感じてはいたが、召使いはSubサブだった。



 暴力や暴言で、Subサブを支配したいDomドムもいる。
 暴力や暴言で、Domドムに支配されたいSubサブもいる。



 他人から見て、不快でも、当人たちは、互いに望んでいることなのかもしれない。

 けれど、ウェリスは言わずにはいられなかった。
「彼は、ワインを注ぐために、テーブルに近付いて来ていましたよ」
 召使いは、セイフの視界には入らないように、後方から近付いていたので、「あなたが気付かなかっただけです」ということは、言わないでおいた。

「そうですか」
 セイフの、ただの返事を聞いて、ウェリスは悟った。
 セイフは、ワインを持った召使いがテーブルに近付いているのが、見えていたとしても、命令コマンドを怒鳴ったにちがいない。


「いつまで、ここに、つっ立っているんだ?」
 セイフが怒鳴る、空のグラスにワインを注いだ後、テーブルの側に立ったままの召使いを。

「申し訳ありませんっ」
 謝るけれど、召使いはテーブルの側に立ったままでいる。

 

Come来い」と、セイフDomに命令されたのだから、召使いSubが、ここから一歩も動けないのは、当たり前だった。



GO行って
 そっと、ウェリスは召使いに命令した。

 主人Domつかえる召使いSubに、他のDomが命令することは、失礼なことはわかっている。
 でも、ウェリスは、怒鳴り声を聞かされ続けるのは、嫌だった。

 召使いは顔を赤らめて、熱っぽい息をつくと、、一礼して、退がった。

 すぐさま、ウェリスは言った。
「失礼。話ができませんので。」
 話の続きをするために、召使いに命令コマンドを使ったということにした。


 セイフの片眉かたまゆが、無意識に上がる。
 自分が身も心も支配している召使いが、ウェリスに支配されて、快感すら覚えていたことに、吐き気のように、腹の底から不快が込み上げる。
 召使いがウェリスの命令コマンドに従ったことは、Domとしてウェリスが、セイフよりも上位だという証でもあった。


 セイフは不快を、ワインで飲みくだした。
 自分の快・不快で、この計画を台無しにしてしまうほど、愚かではなかった。
 片眉は、上がったままだったが。


「カトラリーがあれば、いいのですか?」
 ウェリスは聞いた。

「カトラリー?――あ。ああ…」
 セイフは自分が言ったことを忘れていて、自分の皿に置いたフォークとナイフを見て、思い出した。
「ええ。カトラリーがあれば。」



 ウェリスは、ビズーイに、セイフが何か、陰謀を提案して来たら、協力するふりをするように言われていた。



「私は透視魔術を受けません」
 ウェリスは言った。

 広間の奥の扉からウェリスが現れたことを、セイフは思い出した。

 ウェリスは、透き通った水晶のような瞳で、セイフの焦げ茶の垂れ目を見つめて、微笑んだ。
「次の会議で、僭王の隣の椅子にお座りください。僭王の隣の椅子は、誰も座りたがりませんから、いているでしょう。あなたの隣に、私が座りましょう。テーブルの下で、カトラリーをお渡しします」

 自分が本の中の登場人物になったみたいで、ウェリスは心臓が、どきどきした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る−

社菘
BL
息子を産んで3年。 瀕死の状態で見つかったエリアスは、それ以前の記憶をすっかり失っていた。 自分の名前も覚えていなかったが唯一所持品のハンカチに刺繍されていた名前を名乗り、森の中にひっそりと存在する地図上から消された村で医師として働く人間と竜の混血種。 ある日、診療所に運ばれてきた重病人との出会いがエリアスの止まっていた時を動かすことになる。 「――お前が俺の元から逃げたからだ、エリアス!」 「本当に、本当になにも覚えていないんだっ!」 「ととさま、かかさまをいじめちゃメッ!」 破滅を歩む純白竜の皇帝《Domアルファ》× 記憶がない混血竜《Subオメガ》 「俺の皇后……」 ――前の俺?それとも、今の俺? 俺は一体、何者なのだろうか? ※オメガバース、ドムサブユニバース特殊設定あり(かなり好き勝手に詳細設定をしています) ※本作では第二性→オメガバース、第三性(稀)→ドムサブユニバース、二つをまとめてSubオメガ、などの総称にしています ※作中のセリフで「〈〉」この中のセリフはコマンドになります。読みやすいよう、コマンドは英語表記ではなく、本作では言葉として表記しています ※性的な描写がある話数に*をつけています ✧毎日7時40分+17時40分に更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...