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第一章 出会い編
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・
ティムが見ていた露店には様々な細工が施された腕輪や髪飾りなどが並んでいる。
どうやら貴金属の店のようだ。
ティムはその中の最もシンプルな金細工の腕輪を手に取った。
アルに似合いそうなんだけどな…
この大きさで隠せるかな?…
腕輪を眺め、考え込む。ティムはずっと気にしていた事があった。それはアルの左上腕にある傷痕。
アルがティムを助けてくれた時に作った傷だった……。
◇◇◇
あれはまだティムが8才になったばかりの頃だった──
「なぁティム、おれ思うんだ…村がこれ以上、悪くならないようにするにはやっぱり、祭壇の儀式をした方がいいんじゃないかって…おれ達だけで行ってやろうぜっ儀式をっ!」
そう提案したのはマークの兄。12才になるジャックだった。二人はこっそりと村の奥地の森にある祠(ほこら)へ向かった。
祠の奥の祭壇の上には村の守護神として奉られてある宝剣があった。
「おいティム…見てみろよ! きっと、あの祭壇に置いてあるのが宝剣だぜ」
祠の中は永いこと使用されていなかった為に、あちこちに苔が生え蜘蛛の巣だらけだった。
・
「なんだ、宝剣ていうわりにはシケてんな?鞘も錆びだらけだし…これじゃ剣も錆び付いてるかもな…」
柄の部分には胡桃くらいの大きさの、そこらにいくらでも転がっていそうな石が埋め込まれている。確かに宝剣らしかぬ見栄えをしていた。
ジャックはそう言いながら剣を手にしようと柄を持ってみたのだが──
「くっ!・・・はぁー
なんだこれっ?全然っ持てないぞっ!?
ティムっ お前も持ってみろよ」
ジャックが必死で祭壇から剣を取ろうとしている姿をティムは疑った。
“信じられないっ”そういう表情でティムも言われるまま剣を持ってみる。
「ううっ…はぁっ、重いよこれ。オイラにはムリだよっ……」
力を入れ過ぎたせいでティムの掌が痺れて熱くなる。
「いや‥これは重いとかそんなモンじゃないっ!
まるで祭壇そのものにくっついてるみたいだ」
どんなに二人で力を合わせても、びくともしない。
不思議な宝剣に魅入る二人。
そんな二人をきつい獣臭が襲った。
「ねぇ…ジャック……なんか、臭わない?」
先に感づいたのはティムだった。
・
「確かに少し臭うな……」
なんとなく生臭さが漂う。ジャック達は後ろを振り返ると、少し放れた暗闇の物陰から不気味に光る鋭利な視線が二人の姿をしっかりと捕らえていた。
グゥ‥グルルルル‥‥
荒い息使いの唸り声と、地面の砂利を踏み締める不気味な音がゆっくり、ゆっくりと近づき、威圧感を増しながらジャック達の恐怖感を否応なく煽る。
その頃村では祠に子供達が入り込んだと大騒ぎになっていた。
― おいっ一体誰なんだっ祠に行ったのはっ?
― ジャックとティムらしいっ!
― なんでまた、今頃になって祠なんかにっ!?
―わからんっ!しかし早く連れ戻しにいかないとっ…
― ああ!あそこは今、“ビッグマウンテンベアー”の住家になってるはずだ!かち会ってなきゃいいが…
祠には森の主(ヌシ)とも恐れられ立ち上がった姿は4メートルを超える、山のような大熊。ビックマウンテンベアーが住み着いていることをティム達はまったく知らずにいた。
騒ぎを聞き、村の者達が武器を手に祠へ向かったが、ここ何年と使われる事のなかった祠への道は行く手を遮るかのように草木が生い茂り、大の男達が先へ進み行くことを容赦なく拒んだ。
・
だが、ただ一人。その中をなんの抵抗も無しに駆け抜ける少女がいた…
当時、13才のアルだった。
アルは無我夢中で生い茂る草木を素手で払いのけ突き進んだ。
自分の手や肌が草木で切り裂かれようとそんなことは構いはしなかった…
ただ、助けたい。誰ひとり失いたくはない。アルの心はそのことでいっぱいだった。
― ゥ-グルルルルルル‥‥‥
ジャリっと地面を踏み締める音が聞こえる。
地鳴りような低い唸り声にジャック達はただならぬ恐怖に見舞われ、そして少しずつ暗闇から近寄ってくる巨大な陰は次第にはっきりとその原形をジャック達の眼の前に現した。
「で、でかっ──…なんなんだよっこいつ!?」
ジャックはあまりにも巨大な大熊の出現に度肝をぬかれた。
「オ、オイラ知ってる!
こいつ‥主だよっ。
森の主だっっ!」
ティムはとっさに父親から誕生日にもらったダガーを手に構えた。
そして恐怖で立ちすくむジャックを目掛け、大熊の太く鋭利な爪を持つ前脚が振り上げられる。
途端にグアアアァーーっと獣のけたたましい呻き声が祠全体に雷鳴の如く響いていた。
よく見ると大熊の硬い尻にティムのダガーが深々と刺さっていた。
・
呻く大熊はゆっくりと目線をジャックからティムに移し、巨体を揺らしながら近づく。
「ティムっ!逃げろっ!!」
「…わ…っ…わかってるけどっ…体が動かない…っ…」
ティムの体は恐怖と、後悔で声も出せずカチコチになっていた。
逃げることの出来ないティムにゆっくりと荒い息使いが近付き生臭さを増していく。
ティムの近くまでくると、大熊は強さを誇示するかのように後ろ足で立ち上がり、ティムを威嚇した。
「ジャックっ!ティム!居たら返事してっっ!!」
祠の入口の方で声がした。
その声はアルだった。
アルの声を聞いて緊張感のとけたティムはとっさに叫んだ。
「アルーーっ!!」
―グオオオオオーーーッ!!
ティムが突然上げた大声に驚き興奮した大熊が、けたたましい雄叫びをあげてティムを太い前足で払い飛ばした。
「ティムっ…」
ハラハラしながらジャックが声を発する。
軽々と岩の壁に打ち付けられ、気を失いかけたティムになおも大熊は近づいた。
ジャックは必死で目線を自分に向けさせようと石を投げる。だが、興奮している今の大熊にはティムしか目に入らなかった。
ティムが見ていた露店には様々な細工が施された腕輪や髪飾りなどが並んでいる。
どうやら貴金属の店のようだ。
ティムはその中の最もシンプルな金細工の腕輪を手に取った。
アルに似合いそうなんだけどな…
この大きさで隠せるかな?…
腕輪を眺め、考え込む。ティムはずっと気にしていた事があった。それはアルの左上腕にある傷痕。
アルがティムを助けてくれた時に作った傷だった……。
◇◇◇
あれはまだティムが8才になったばかりの頃だった──
「なぁティム、おれ思うんだ…村がこれ以上、悪くならないようにするにはやっぱり、祭壇の儀式をした方がいいんじゃないかって…おれ達だけで行ってやろうぜっ儀式をっ!」
そう提案したのはマークの兄。12才になるジャックだった。二人はこっそりと村の奥地の森にある祠(ほこら)へ向かった。
祠の奥の祭壇の上には村の守護神として奉られてある宝剣があった。
「おいティム…見てみろよ! きっと、あの祭壇に置いてあるのが宝剣だぜ」
祠の中は永いこと使用されていなかった為に、あちこちに苔が生え蜘蛛の巣だらけだった。
・
「なんだ、宝剣ていうわりにはシケてんな?鞘も錆びだらけだし…これじゃ剣も錆び付いてるかもな…」
柄の部分には胡桃くらいの大きさの、そこらにいくらでも転がっていそうな石が埋め込まれている。確かに宝剣らしかぬ見栄えをしていた。
ジャックはそう言いながら剣を手にしようと柄を持ってみたのだが──
「くっ!・・・はぁー
なんだこれっ?全然っ持てないぞっ!?
ティムっ お前も持ってみろよ」
ジャックが必死で祭壇から剣を取ろうとしている姿をティムは疑った。
“信じられないっ”そういう表情でティムも言われるまま剣を持ってみる。
「ううっ…はぁっ、重いよこれ。オイラにはムリだよっ……」
力を入れ過ぎたせいでティムの掌が痺れて熱くなる。
「いや‥これは重いとかそんなモンじゃないっ!
まるで祭壇そのものにくっついてるみたいだ」
どんなに二人で力を合わせても、びくともしない。
不思議な宝剣に魅入る二人。
そんな二人をきつい獣臭が襲った。
「ねぇ…ジャック……なんか、臭わない?」
先に感づいたのはティムだった。
・
「確かに少し臭うな……」
なんとなく生臭さが漂う。ジャック達は後ろを振り返ると、少し放れた暗闇の物陰から不気味に光る鋭利な視線が二人の姿をしっかりと捕らえていた。
グゥ‥グルルルル‥‥
荒い息使いの唸り声と、地面の砂利を踏み締める不気味な音がゆっくり、ゆっくりと近づき、威圧感を増しながらジャック達の恐怖感を否応なく煽る。
その頃村では祠に子供達が入り込んだと大騒ぎになっていた。
― おいっ一体誰なんだっ祠に行ったのはっ?
― ジャックとティムらしいっ!
― なんでまた、今頃になって祠なんかにっ!?
―わからんっ!しかし早く連れ戻しにいかないとっ…
― ああ!あそこは今、“ビッグマウンテンベアー”の住家になってるはずだ!かち会ってなきゃいいが…
祠には森の主(ヌシ)とも恐れられ立ち上がった姿は4メートルを超える、山のような大熊。ビックマウンテンベアーが住み着いていることをティム達はまったく知らずにいた。
騒ぎを聞き、村の者達が武器を手に祠へ向かったが、ここ何年と使われる事のなかった祠への道は行く手を遮るかのように草木が生い茂り、大の男達が先へ進み行くことを容赦なく拒んだ。
・
だが、ただ一人。その中をなんの抵抗も無しに駆け抜ける少女がいた…
当時、13才のアルだった。
アルは無我夢中で生い茂る草木を素手で払いのけ突き進んだ。
自分の手や肌が草木で切り裂かれようとそんなことは構いはしなかった…
ただ、助けたい。誰ひとり失いたくはない。アルの心はそのことでいっぱいだった。
― ゥ-グルルルルルル‥‥‥
ジャリっと地面を踏み締める音が聞こえる。
地鳴りような低い唸り声にジャック達はただならぬ恐怖に見舞われ、そして少しずつ暗闇から近寄ってくる巨大な陰は次第にはっきりとその原形をジャック達の眼の前に現した。
「で、でかっ──…なんなんだよっこいつ!?」
ジャックはあまりにも巨大な大熊の出現に度肝をぬかれた。
「オ、オイラ知ってる!
こいつ‥主だよっ。
森の主だっっ!」
ティムはとっさに父親から誕生日にもらったダガーを手に構えた。
そして恐怖で立ちすくむジャックを目掛け、大熊の太く鋭利な爪を持つ前脚が振り上げられる。
途端にグアアアァーーっと獣のけたたましい呻き声が祠全体に雷鳴の如く響いていた。
よく見ると大熊の硬い尻にティムのダガーが深々と刺さっていた。
・
呻く大熊はゆっくりと目線をジャックからティムに移し、巨体を揺らしながら近づく。
「ティムっ!逃げろっ!!」
「…わ…っ…わかってるけどっ…体が動かない…っ…」
ティムの体は恐怖と、後悔で声も出せずカチコチになっていた。
逃げることの出来ないティムにゆっくりと荒い息使いが近付き生臭さを増していく。
ティムの近くまでくると、大熊は強さを誇示するかのように後ろ足で立ち上がり、ティムを威嚇した。
「ジャックっ!ティム!居たら返事してっっ!!」
祠の入口の方で声がした。
その声はアルだった。
アルの声を聞いて緊張感のとけたティムはとっさに叫んだ。
「アルーーっ!!」
―グオオオオオーーーッ!!
ティムが突然上げた大声に驚き興奮した大熊が、けたたましい雄叫びをあげてティムを太い前足で払い飛ばした。
「ティムっ…」
ハラハラしながらジャックが声を発する。
軽々と岩の壁に打ち付けられ、気を失いかけたティムになおも大熊は近づいた。
ジャックは必死で目線を自分に向けさせようと石を投げる。だが、興奮している今の大熊にはティムしか目に入らなかった。
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