ありのままのキミに夢中 ~イケメンはずんどうぽっちゃりに恋をする!~

中村 心響

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2章 恋の修羅場ラバンバ!

3

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空は穏やかな天気のままだ。

青く澄んだ空気と海風が香っている。

こんな爽やかな陽気と明るい時間帯に何故に胆試し?
そう思う生徒達を前にして、教師はゆっくりとある位置を指差していた……。


「この学校は昔、戦争で倒れた兵隊を運び治療するために使われた……」

教師は何故か声のトーンを落として話し出していた。生徒達は急に黙って固唾を飲む。

廃校になった校舎。
窓には暗幕がしっかり張られている……。

静まり返ったその場所で、教師は続けた。

「瀕死の兵隊は助からず……この学校の裏の畑で焼かれ……埋められたと言われている……」

教師の声音は坦々と話をしていくと校舎をゆっくりと振り返った。

「昼だろうが……中は真っ暗だ……」

晴樹が耳にしていたヘッドホンから低い声が聴こえていた。

「……中々…っ…上手いな語り方が……」

晴樹はヘッドホンを外して呟いた。

観光のメインスポットになるであろう廃校のお化け屋敷。

シナリオ作家の指導した以上の演技力を見せた生物学の教師に晴樹は感心していた。

校舎の中の一角で、胆試しの説明に聞き入る生徒達の様子を晴樹は伺っている。

校内に取り付けた隠しカメラと音声マイク。

施設に費用が掛からない分、こういった機器に予算を費やせる。

隠し撮りは中々面白い。まるでドッキリの仕掛人の様に、晴樹は心なしかワクワクしながらモニターに食い入っていた。



他の宿泊施設でもリクレーションと称した様々なオプションツアーが開かれている。

町内の到る所に隠された謎解きツアーや、この村の大地主。東郷家の古い屋敷を使っての国盗り合戦ゲームには歴女の生徒達が沢山参加していた。

一日二日では楽しみきれない。

飽き性の現代人には欠かせない“また来たくなる”遊び心。

それを擽る必要があった。

バブル期の商売は何事も最初から設備投資に多額の資金を掛けていた。

だが今はその時の負の財産が溢れている。

在るものを巧く再利用。

リサイクルで利を生む時代だ。

「箱(建物)を作る費用が丸々浮いた分、他に予算をつぎ込めるからいいですね」

「ああ。専門的な人材も集められたしな……不必要な費用はできるだけ削る」

「リサイクル様々ですね」
「だな……」

ツアーに参加せず、一緒にモニターを眺める直哉の言葉に晴樹は頷いた。


「リサイクル……か…」

晴樹は独り言の様に呟く。



“ああっ…兄さんまだ潰したらダメだよそれ…っ…”
“何だよ?空だからいいだろ?”

“ダメだってまだ使えるからっ…”


“………”


「……ぷっ…」

「ん?……どうしたんですか晴樹さん…」

「いや、何でもない……」

晴樹は金銭にゆとりがある今も尚、ペットボトルの容器をミニプランター代わりに再利用し、葉野菜を栽培する苗の姿をふと思い出していた。



広いバルコニーのあるマンションの最上階。そこは陽当たりの悪い田中家とは違い燦々に太陽が降り注ぐ。

苗の小さな自家菜園は日増しに増えていった。

お洒落なデザイナーズマンションの筈なのに何処か貧乏臭さが漂うのは、センスも見た目も気にせずに兎に角色んな空容器で植物栽培を始める苗の色が濃く現れているからだろうか……。

だが、晴樹としてはそのチグハグさも一つの楽しみとなっている。


「あのセンスは苗にしか出せない……」

「……?…」

また何かを呟いた晴樹を直哉は振り向いていた……。

静かな教室で、二人は数台の小さなモニターに集中する。

各ツアーの情景がそこには映し出されていた。






「苗!」

「あ、大ちゃん」

克也を連れた夏目が苗を見つけて声を掛けた。
夏目はキョロキョロと周りを伺う仕草を見せる。

晴樹の姿が何処にも見当たらない。

「あいつは?……」

夏目はコソッと訊ねた。

「あいつ?…兄さんのこと?」

「うん……」

「居ないよ?なんか今回は企画側だから参加できないみたい」

「まじ!?」

夏目の顔が嬉しそうに綻んでいた。



学年混合のレクレーションだ。

アルファベットのチームに別れ、胆試しに挑戦しながらくじ引きで指示された食材を手に入れる。

晴樹は絶対に苗の傍に張り付いている筈だと思ったのにこれは思わぬチャンスだ。

邪魔者が居ない今、チームは違えど何とか苗と一緒に行動を共にしたい。

夏目は苗を見つめる……。





『きゃあっ!大ちゃん苗、怖いだよぅっ…』

『……苗っ大丈夫か!?』

そこは不気味な古びた校舎の中だった……。


怯えた苗は大介にぎゅっとしがみつく。

『苗、大丈夫。俺が守ってやるからな!』

薄暗い廊下で苗は頼もしく微笑む大介にほんのりと頬を染める。そしてうつ向いた。

『……うん…大ちゃん…ありがとう…何だか大ちゃんすごく…カッコいいだよ……』

『苗……』

うつ向いていた顔を上げて見つめる苗に大介はハッとする。そしてゆっくりと互いに顔を傾けていた……。


 О
  ο

「………っ…」

「……ちゃんっ!ねえ大ちゃんてばっ…」

「……っ!?…あ、どうした苗っ」

夏目は我に返り、焦って涎を拭う。

ご存知、夏目の独り妄想タイムだった……。



正気に戻った夏目は取り繕いながら慌てて苗に訊ねた。

「…っ…な、苗のところは何だった」

「人参だって」

「人参?こっちは玉葱だって」

クジで当てた食材を報告し合う。それぞれのチームが材料を手に入れられなければまともな夕食の用意が出来ない。

キャンプの醍醐味は皆で作る料理だ。

「Aチームは牛肉って言ってたよ……」

由美が仕入れた情報を口にすると苗は呟く。

「……て、ことは……カレーライス…」

「だね……」

苗と由美は何故か見つめ合い頷き合った。

そう。キャンプと言えばカレーライス。

誰が作っても美味しいカレーライス。

何か特別な事件が起きない限り、そう簡単には失敗しない“カレーライス”だ。

皆で作って皆で食べるカレーライスは最高だ。

「カレー……いいじゃん!!」

カレーの幻が早速夏目の頭に浮かんでお腹が空いてくる。

美味しいカレーライスに思わず顔が緩む。その時、誰かが叫んだ。

「糸こんにゃくって書いてるぞ!?」

「ええっーー…糸こん!?」

苗は驚いて叫んだ。思わぬ食材の登場に思いきり裏切られた気がする。

食材に糸こんにゃくが含まれる料理ってなんだ?

苗達だけではなく、その言葉に生徒皆が驚きながら料理を考え直していた。

玉葱、牛肉、人参とくれば当然カレーライスだと思い込んだ人がどれだけ居ただろうか。

カレーが頭から離れず皆が悩む中、次々に各チームがクジで食材を引き当てていく。
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