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2章 恋の修羅場ラバンバ!
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しおりを挟む「醤油って書いてる…っ…」
「こっちは砂糖だってっ…」
「あ、ジャガイモだ……」
カレーに脈絡のない調味料がクジで引かれ、思考が付いていかない生徒達はその場で膝を折っていた。
料理をしたことのない生徒達全員が翻弄される。
苗は呟いた。
「肉……じゃが……?…」
「あ!そうかもっ…」
由美が苗の答えに頷いた背後で、次にクジを引いた生徒が頭を掻いた。
「…長葱……当てちゃった……」
戸惑いながら口にする。
「長葱!?……え!?…てことは……すき焼きっ!?」
苗の答えに由美がそれだ!と指差した。
「もうこの際、ジャガイモの存在は無視しよう!」
由美は言い切る。
調味料が醤油と砂糖なのだ。カレーの確率はかなり低い。
ざわざわとするその中でくじ引きは続いている。
「こっちは味噌当たったけど……」
「あたし達はキャベツだ……」
「俺達、大根……」
「トマト……」
「…っ…なに、何が出来上がるの?もしかして闇鍋食べさせる気かしら」
不安に駆られる生徒を他所に、カレーのルーが読み上げられたのはそのずっと後だった……。
・
「いいかー、各自手に入れる物を把握したら目隠ししろよ」
教師の声掛けに生徒の返事が返ってくる。
チームごとにスタート地点もばらばらだ。おまけに目隠ししたままスタート地点まで誘導される。
古い校舎。軋む廊下──
上の階では早くもゲームが始まったのだろうか。早速壮絶な悲鳴が響いてきていた。
視界を塞がれた今、その絶叫は否応なしに恐怖を煽っていた。
<目隠しを外せ>
くぐもった低い声が何処からともなく聞こえてくる。
<目隠しを外したら矢印の通りに進め……>
苗達のチームは恐る恐る目隠しを外していた。
視界にはジャングルが生い茂るように暗幕の垂れ下がる暗い廊下が映り込む。
そこはもう……別世界だった……。
「やだ怖いっ…」
苗を中心にして、チーム五人皆が苗にしがみつく。
暗い中で、フクフクとした肉付きの柔らかい感触は安心感がある。
皆は苗にぶら下がるようにして歩いていた。
・
途中で脱落する者が居たとしても、チームの一人が最終地点まで到達出来れば割り当てられた食材が手に入る。
その代り、最後に残った者には絶対にリタイヤ出来ないという精神的圧力が課せられる。
「うわあぁぁっやだ苗ちんっ……何か今ペタって顔に貼り付いたっ…」
「イデデでっ…由美わかったから腕に爪を立てないでっ…」
由美の叫び声につられ、周りもギャアギャア喚いてパニックに陥る。
「いやぁぁっ…あたしもう無理っ!…奥になんか変な白いの見えたもん今っ!」
発狂したように一人が訴えた。
そんな状況を繰り返し、離脱者が一人……また一人と人数が減っていく。
気付けば由美と二人連れ……。
「ねえ苗ちん……聞こえる…?」
「うん…聞こえるだよ…っ…」
二人は確認し合うと耳を澄ませた。
緊張仕切った表情で苗のクリ目が驚くほど見開いていく。
二人の耳にはどこからか、ずるずると何か重いものを引きずる音が聞こえてくる。
苗と由美はびくびくしながらそおっと後ろを振り向いた。
・
「──っ…」
真っ暗な廊下の奥深く。
懐中電灯で照らせばオレンジ色の光がボンヤリと浮いていた。
「──…きっ…」
叫ぶ声も出きらずに、由美はその場で白眼を剥くと気を失って倒れていた。
「由美っ……」
廊下の奥から切羽詰まった声で呼び掛けられた。
勢いよく近付いてくる、チカチカと揺れる白い灯り。
慌てて駈けて来たのは夏目と克哉の二人だった。
手には懐中電灯と赤いネットに入った玉葱をぶら下げている。
「なんだ玉葱じゃんっ…」
オレンジに光ったのは懐中電灯の灯りに反射した玉葱の皮だったのだ。
正体が知れて苗はホッと胸を撫で下ろしていた……。克哉は気絶した由美を抱き上げる。
「俺、由美と先に戻るから」
ゴールまで早々と制覇した夏目達は、食材の玉葱を手に入れて帰る途中だったのだ。
「玉葱は俺が持って戻るから由美だけ連れて行けよ」
「ああ、悪いな。頼む」
詫びる克哉を急かすように夏目は手を振る。
小さくなっていく克哉の背中を見届けると、夏目は思わず顔を緩ませた。
やばい…っ…
嬉しくてファイティングポーズ決めちゃいそうだっ…
夏目は脇で拳をぎゅっと握っていた。
苗を偶然に見つけてしかも二人きり。この状況に気持ちが高揚する夏目の表情は、鼻がヒクヒクと膨らんでいる。
「──っ…あいつっ…」
晴樹は一瞬モニターに映った二人を見て呟いた。
・
「直哉……ちょっと席外すから」
「……わかりました」
チッと舌を強く打って腰を上げた晴樹に直哉は頷いて返す。
出ていく晴樹の後ろ姿を見送ると、直哉はモニターを見て動きを止めた。
「これか……」
顎に手を当てて呟くと、その場から移動する苗達をカメラで追った。
見通しの悪い中、懐中電灯を手にして晴樹は古い校舎の廊下を歩く。
ゲームに参加する生徒とカチ合わないように、晴樹は壁際に身を隠しながら苗達が居る場所へ足早に向かった。
「……っ…どいつもこいつもっ…なんで諦めない…っ」
晴樹は暗闇の中で呟いた。
婚約しているにも関わらず、恋敵は引き下がらない。両想いなのに片想いの時と同じようにいつまでも不安が付きまとう。
「……っ…」
晴樹は唇を噛み締めた。
モニター室から苗の所までは結構距離がある。
暗幕で囲われた慣れない渡り廊下を抜けて、急ぎ足で向かう晴樹の表情には焦りが浮かんでいた。
「苗、俺が付いてるから大丈夫だって!」
「うぅあ…っ…でもこの先は行きたくないだよ…っ」
足を突っ張りながら歩く苗の肩を抱き、思いきり密着しながら夏目は苗を誘導していた。
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