ありのままのキミに夢中 ~イケメンはずんどうぽっちゃりに恋をする!~

中村 心響

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2章 恋の修羅場ラバンバ!

5

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所詮は肝試しゲーム。
人が作ったお遊びだ。暗くて薄気味悪いだけで他に害は何もない。

「俺が居るからこんなのなんでもないって!」

目の前に垂れ下がるボロボロの布切れを避けながら、夏目は苗の肩をもっと自分の方へと引寄せた。

脇腹には苗のささやかなAカップの胸が当たってくる。

夏目はその感触についムフッと鼻から息が漏れていた。
嫌らしくニヤけてしまう口許を夏目は手で隠す。


肝試し最高っ!

今、この場でそう叫んでやりたい。

夏目はそんな邪な想いが溢れた表情をキリッと引き締める。
先へ進むことを拒む苗を宥め、夏目はウキウキ気分を悟られないように廊下の突き当たりを目指した。


「ひっ……」

奥まできて、壁に貼られた矢印を確認した苗は更に怯えた声を短くあげた。

矢印を目で追うと、その先には土間が見える。土間の引き戸の向こうは幕で覆われていた。

「あ、こっちに行けばいいみたい。苗、行くぞ!」

夏目の言葉に苗の顔が在らん限りに恐怖に歪んだ。

暗がりでその表情は夏目にはよくわからない。強張る苗の肩を夏目はガシッと抱く。

そんな苗の体がスルッと夏目の腕から抜けていった。

素早く人の気配が横切る。風を切ったその感触に夏目は慌てて周りを見渡した。

「な、……っ…苗っ!?」

懐中電灯で周囲を照らして苗を捜す。

「え……うそっ…まじ!?…苗が──消えたっ…」

夏目は目を見開いて呟くと、唾をゴクリと飲み込んでいた……。



「苗っ!?…なえーっ…くそっ!どこに消えたんだっ!?」

懐中電灯であちこち照してみれど、苗どころか人気も見当たらない。
走り去るような足音は確かに聞こえた。


やばいっ…嫌がるのを無理に引っ張ったから逃げたのかも……っ…とにかく捜そうっ!…何処かに隠れてるかも知れないしっ──

「苗ーっ、ごめん悪かった!もう人参は諦めてリタイアしようっ…な!だから出ておいでー…」

苗の名前を呼びながら、夏目の足音が遠ざかって行く──


夏目の居なくなったその場所で、壁際に掛けられた暗幕のカーテンが不自然に揺れ動いていた。

「……っ…ふ…ふぐっ…」

口を塞がれて声が隠る。
慌ててじたばたとする身体を後ろから羽交い締めにされながら、耳に誰かが囁いた。

「苗……俺だから安心して……」

「……ンムッ!?…むっ?……ん!」

聞き覚えのある声に気付き、もがいていた苗の動きが静かになる。

「──……っ…悟ちゃ」

「しっ……」

口を塞いだ手を放すと悟は声の大きな苗に静かにするよう指を当てた。



「どしてここに!?ゲームは?」

「同じグループの人は早くに皆リタイアした……ここは庭みたいなもんだから俺一人でも余裕だし……」

悟はそう言いながら手に入れた食材を苗にほら、と見せていた。

「苗のグループのやつもほら……」

「ああっ…こ、これはっ…」

目の前に人参をぶらさげられ、苗は大きなクリ眼に涙を溜める。

まるで秘宝でも見つけたように、苗は潤んだ瞳を輝かせていた。

悟はそんな苗をくすりと笑う。

「苗はあの土間の奥、昔から苦手だったろ?……だから捕っておいてやった」

「ううぁ…っ…ざとるぢゃんっ…あ、ありがどうぅっ…」

感謝で涙が溢れ、言葉にならない。苗は悟の言葉にうんうん頷きながら一生懸命に礼を言った。

ここは単純な造りの二階建て木造校舎だ。横に広いだけで悟にとっては小さな頃から遊びなれた秘密基地のようなものだった。

壁を伝えば目隠ししても出口がわかるくらいだ。

そして、夏休みに帰省した苗と遊んだ場所でもある。
悟の祖父が卒業してまもなく閉校したこの小学校には色んな噂が絶えず出回っていた。

その噂の一つ。

“開かずの土間”

学校の近くに建てられた地蔵の小さな社の傍らに、いつも腰掛けて一休みしていた村一番の物知り。

ヨネ婆さんから聞かされた噂話はずっと苗の記憶に残っていた……。




.。o○.。o○.。o○



「あーっ…さとるちゃん! 見てこれ! ミカンにカビが生えて草餅になってるだよ!」

「なえ…っ…あんまり走ったらまた熱が出るぞ…」

蝉が一斉に合唱する八月。
暑さはまだまだこれからだ。

幼少の頃に預けられていた田舎に帰省した小学四年生の苗は、夏休みに小学校の裏山に続く小路で、小さなお地蔵さんに供えてあった腐った夏ミカンを見つけて喜んでいた。

「中、どうなってるだかね?」

とても気になる……


苗はしゃがみ込むと棒きれで恐る恐るミカンを刺した。

「うわぁ…ぐにゅってなった…」

「やめろよ苗…バチ当たるぞ」

棒に圧されて皮がへこみ汁がぐちゅっと滲み出る。
気持ち悪がりながらも苗は悟の言うことを聞かず、その手を止める気配がない。

「これっ!」

「……っ…」

急に聞こえた大きな声に、苗と悟はビクッとなった。

「それは喉が渇いて渇いて苦しい思いをしながら死んじまった兵隊さんのためのお供え物だねっ…遊んじゃだみだ」

振り返った苗と悟は腰の曲がったお婆さんにそう叱られた。



頭に白い布巾を被ったシワくちゃな婆様は持っていた杖を振り、そこに座れと指図する。

苗達はお地蔵さんの隣にあった、とても低く平たい石に腰掛けた。

戦時中、アメリカ軍の攻撃が激しさを増す中。火傷や怪我に苦しむ兵隊達は飲み水を一番に欲しがった。

その水を汲みに行くことさえ困難な状況下で、唯一無事であった学校の庭の夏ミカンを兵隊さんの口に入れてやった女学院の娘が居たという……。

婆様は苗達にそれを語ると声を低く潜める。

「腐っててもいいからミカンに似た丸いもんをそこに置いとかんと……」

「……っ…」

「喉を渇らした兵隊さんが毎晩出て来るど……」

「……ひっ…」

「わかったか」

ずいっと寄って念を押す婆さんに、苗は泣きそうな顔で沢山頷いていた。

婆さんはあっちへ行けと杖を振る。

「イタズラはしちゃなんねえど。遊ぶなら学校の庭で遊べ」

苗と悟はそう追い払われて一目散に家路を走った。
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