ありのままのキミに夢中 ~イケメンはずんどうぽっちゃりに恋をする!~

中村 心響

文字の大きさ
253 / 255
2章 恋の修羅場ラバンバ!

6

しおりを挟む


「はあっ…お、おばちゃん!…っ…み、水を」

「まあまあ、そんな走ったら苗ちゃんまた咳が…」

「俺もみずっ…」

苗は学校から近い、悟の家に逃げ込んだ。
開放間溢れる広い庭から縁側に周り、そこにいた家政婦のおばちゃんに水を求める。

おばちゃんは苗の息の荒さを気にしながら言った。

「水より丁度今、大旦那様がスイカを切るって言うから居間に」

「……スイカを? よし!苗、行くぞ」

「うん!」

こんなに暑い真夏だ。水より甘くて冷たいスイカがデリシャスに決まってる!

さっきまでの恐怖は物の数秒で忘れ、表情を輝かせた苗は、居間に辿り着くと悟と共に切りたてのスイカを頬張った。

「悟!苗ちゃん、こっち向いて。写真とるから」

悟の父がカメラを構える。

毎年恒例。苗が帰省して東郷家に来る度に行う写真撮影だ。

この年もまた、楽しい思い出となってアルバムに治められる。

悟は三角に切られた大きなスイカを持ってピースをする。その隙を狙った苗が悟のスイカの一番甘いてっぺんにかじりついていた……。



美味しい思い出。

楽しい思い出。

それが増えるのはいいことだ。

苗は夕食を悟のお屋敷で御馳走になりながら、東郷家の当主である大旦那。

悟の祖父の話に笑っていた表情を急に固めた。

「……そういや、じいちゃん達が廃校になった小学校に通ってた頃裏山の小道にある地蔵の隣に婆さんがいつも座ってたなぁ……」


まるで懐かしむように語るじいちゃんに、刺し身を摘んだ苗の手がピタリと止まる。

苗と悟はゆっくり顔を見合わせた。

「ヨネ婆って言ってな、地蔵に供えた夏ミカンを小学校の悪坊主達が食うから見張ってる。つってな?…はは、いやぁ!あの婆さんは足が速かったなぁ!…杖なんてぜんぜん必要なかったな!」

大笑いするじいちゃんと共に悟の父も一緒に声を立てた。
杯の酒を揺らしながら、じいちゃんはぽつりと口にする。

「100は越して長生きすると思ったが……100才を前にして死んじまったな」


「──…っ…」

「お? どうしたどうした?悟と苗ちゃん?揺れてるように見えるけが、今日はじいちゃん酔ったかな?…ははは!」

ガタガタと手が震え出す。そんな悟と苗を見て、じいちゃんは酔いの回った目を何度となく瞬いていた──。


その晩だった──、


腐った夏ミカンを杖に刺したヨネ婆さんに、苗は延々と追い掛けられる夢を見てうなされ続けたのだった…。



.。o○.。o○.。o○




人参を手に入れた喜びと、あの土間の向こう側に足を踏み入れる必要が無くなったことで、泣き崩した顔に笑みを浮かべた苗を見て悟は笑った。

「嬉しい?」

首を傾げ、覗き込むようにして聞く悟に苗は鼻を啜りながら頷く。

「最高だよ悟ぢゃんっ…ううっ…」

「ふふ…」

素直に褒めてくれる苗がすごく可愛く思えてくる。
悟は嬉しそうに笑うと苗の手を握った。

「それ持ってやる」

「うん」

悟は苗の人参の袋を自分の荷物と一緒に片手で持つと肩に背負う。

「まだ時間があるから久し振りに見て回ろうか」

「うん」

もはや、苗にとって、悟は神様仏様と共に拝みたい部類の人だ。

赤い目をゴシゴシ擦りながら、苗は悟の言うことすべてに返事一つで頷き返す。

土間の向こう側以外なら何も怖くはない。
一階にある教室は、村おこしの為の史料館として昔から使用されている。

悟とよく遊んだ場所だ。
暗い暗幕の布を捲ると明るい昼間の陽射しが二人を照らしていた。

「ほら、苗。これ見て」

悟は史料館の中にあった埃まみれの村の模型(ジオラマ)を指差していた。

苗は悟の指先を見て声をあげる。

「あー!」

農家の模型の傍に苗が勝手に置いた、ドングリで作った馬が昔のままになっていた。



苗は懐かしそうにそれを手にして眺める。

夏休みの度に帰郷して悟と過ごした日々──

苗はゆっくりとその時を思い返していた。

「たしか、あそこにも置いた覚えがあるだよっ…」

はしゃいだ苗は、模型とにらめっこをすると「あった!」そう言って手を伸ばした。

顔をマジックで描いたドングリが、二個。駅の模型のベンチにちょこんと置いてある。

二個のドングリには片仮名で“ナ”と“サ”の文字が書かれていた。

それは毎年駅のホームで見送りをする悟と苗の代わりだった。
手にしたそれを暫く眺め、苗はまたベンチに戻す。

「だめだよ苗」

「ん?」

悟は苗の背後から腕を伸ばした。
少し離れ気味になった二つのドングリをぴったりと寄り添わせ、悟は置き直す。

「……ちゃんと元に戻さないと……」

そう言って悟は振り返った苗を意味ありげに見つめた。

ボブの真っ黒で艶やかな髪。昔はそれをヘルメットみたいで嫌だと言っていた苗。

でも悟はそれを笑いながらもはっきりとカワイイと褒めてあげていた。

面白くて可愛くて
一緒に居るのが当たり前だと思い込んでいた幼い日──

苗が親の元に帰ると知って人知れず倉庫で隠れて泣きじゃくった──

大人になったら連れ戻すはずだった。

しっかりとした大人になったら──

苗をお嫁さんにもらうつもりでずっと計画を立てていた……


はずだったのに──

悟は苗を見つめ、微かに唇を噛み締める。


「苗……もう手遅れなんて…言わないよね……」

「……っ…」

その言葉に苗の大きなくりくりの瞳が悟を見つめ返した。とても近い距離。真後ろに立った悟の腰が苗に覆い被さるように少しだけ前に屈んだ──。



「…うあ…っ…さと…」

何かを言い掛けた苗の口が開く。それと同時にぎゅっと強く瞼は閉じている。

そんな苗の耳元にくすっと笑う声が聞こえた。

「何もしないよ」

「え?」

驚いて目を開けば近距離にいる悟の腕が苗の後ろに伸びていた。

「倒れたから起こさないと」

そう言った悟の指先が模型のベンチに腰掛けさせたドングリを立て直している。

苗はそれを見てホッとした表情を覗かせながらもムッと口を尖らせていた。

「なに?なんで怒ってるの?」

「怒ってないだよ!べつに……」

言いながらプッと頬が膨らんでいる。微かに顔を赤くして、苗はプイッと横を向いた。

「なんかもうほんとに…」

ブツブツとそんな言葉が聞こえる。

高校生になった悟は何だか接しにくくなった気がする。

背丈は当たり前に伸びて、骨格もかなり太くなり、その上変な色気も出てきている。

“もう悟「ちゃん」なんて呼べないわね”

そう言ったオカンの言葉が苗の記憶に甦っていた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
恋愛
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...