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3章 ランチ
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◇◇◇
「んじゃ、行ってくる!」
「おう、姉ちゃん!お持ち帰り楽しみにしてるからな」
太陽も明るく照りだした日曜の午前中。
苗はお持ち帰り用のタッパーを手提げ袋に入れると育ち盛りの弟達に見送られ、由美達との待ち合わせ場所に向かった。
「あっなえちん!こっち!!」
「…二人とも気合い入っちゃってるね‥」
そう、無頓着な苗に比べて二人の服装はとても気合いが入っている。
「苗こそせっかくの日曜になんで制服?」
苗はせっかくの休日に今は無き二ノ宮高校の制服で現れた。
「だってさ、あそこ一応高級レストランじゃん!
あんなとこにジーンズとスニーカーで行くよりは制服が一番かと思って…おかしい?」
苗は一応店の雰囲気を気にして気を使ったつもりだったのだ。
由美達は可愛いワンピース姿だったが苗は普段着にTシャツとジーンズしか持っていない。
従って学校の制服は苗にとって一番のお洒落着だった。
冠婚葬祭等にはまさに必需品である。
「まあ、確かにジーンズでくるよりはいいけど……」
中島は言いながら然り気無く苗の手元に視線を向ける。
…その手に下げてる袋の中身はもしや…
「…と、取り合えず行こっか?晴樹さんはもう店に着いてるって」
中島は嫌な予感を胸に抱え、レストランに足を向けた。
・
“ いらっしゃいませ。”
店に着くとウェイターが苗達を席まで案内する。
そこには優雅な物腰で苗達を迎える晴樹がいた――
「…はぁ……やっぱり洗練されてる……」
由美はそんな晴樹に目を細めた。
そして、苗は晴樹を見るなり失礼をこく
「あっ兄さん!
今日も背中に花ぁ背負ってご機嫌だねぇ」
「…花?」
「あっ、
何でもないんです!
この子たまに意味わかんないから気にしないで下さい!!」
‥も??なえちんたらっなんてこと言うの!?
由美は慌てて苗の口を塞いだ。
「…花、ね。……まあいいや、じゃあ席に座って」
晴樹は席を進めながら首の後ろを掻く。
…相変わらず突拍子もない発言するな…
晴樹はこの場に似合わない大きめの手提げを持っていた苗を気にしながら、座った苗達にメニューを勧めた。
オススメを晴樹が選び、苗は運ばれてきた料理を口にしては感動している。
そしてお目当てのパスタがきた瞬間、苗の顔が嬉しさで一気にほころんでいた。
「──……っ…」
晴樹はその表情に無意識に息を飲む。
たぶんこの時からかも知れない。苗を追う晴樹の瞳に特別な想いが重なり始めたのは。
ただ、晴樹自身もその想いにまだ気づいちゃいなかった。
・
晴樹は由美に料理の感想を語りながらパスタを一生懸命頬張る苗をじっと見つめた。
…相変わらず旨そうに食べるな‥‥‥
晴樹は苗のこの食べっぷりを結構気に入っていた。
美味しいと口にしながらも今まで周りにいた女子は、気取ってちびちびと食べるばかりでとても旨そうには見えなかった。
「晴樹さん、なんだか嬉しそうですね‥‥」
「え、そう?」
「さっきから顔が笑ってますよ…」
中島は苗を眺め、密かに微笑む晴樹をずっと観察していた。
「俺、笑ってた?」
晴樹自身も中島に指摘されて戸惑っている。
苗は食べる手を休め、ふいに晴樹を見た。
「ねえ、ところで兄さん。この余った料理を‥」
苗がテーブルの上にある料理を眺めて何かを言いかける。
「わかってるからそれ以上いうな…」
苗に口止めし晴樹は言った。
「さすが兄さん!」
「ただし、周りの客の目があるから悪いけどこの料理は持って帰れないよ」
「──…っ……な、なんとっ…」
苗はガタガタと椅子から立ち上がり、あまりのショックに顔を強張らせて固まっていた。
前回は貸し切りだったために苗のご乱行を黙認したが、今回は普通の営業日ということもあって周りは一般客で埋め尽されている…
・
「りょ…料理を持って帰れない……っ…」
「まあ、待て。そのかわり別の持ち帰りを用意してるからそれで勘弁してくれ」
「え……そうなの?ほんとに!?」
「ああ、だから頼むから座ってくれ」
勢いよく立ち上がった苗は周りの視線を一身に受けている。
晴樹の言葉に安心した苗は言われるまま椅子にぽすんと腰掛ける。そして強張った表情を再びぱあっとほころばせていた。
「なあんだ……そっか……よかったあ!いやあ、実は弟達が持ち帰りすごく楽しみにしてたからさっ」
苗は、安心しながらニコッと晴樹に笑いかけた。
そして再び晴樹はその表情に目を奪われる。
「──……っ…」
食後のコーヒーを飲んでいた晴樹は味わうのも忘れ、口に含んだそれをゴクリと喉に流し込みながら苗から目が離せなかった。
「あの…晴樹さん……」
「え……何?…」
「顔が……赤いです」
「へ……赤い?……っ…マジでっ?……熱っぽいのかな…」
中島に再び指摘され、晴樹は何故か狼狽えた。
‥言われてみれば何だか顔が熱いような気がするかも……
自分の首に手を当てて体温を確認する。
晴樹は自分の心の変化に気付かずに首を傾げていた。
・
食事も終わり帰り際に晴樹はみんなに包みを渡す
「え!?あたし達も頂いていいんですか!?」
包みを受け取り由美が言った
「あぁ、構わないよ。
冷凍保存して食べる時に温めてくれたらいいから…」
「これは何でござんしょ?」
包みの中を目を細めて覗きながら苗が聞く
「パニーニってやつだよ‥
ウチの販売商品だから食べたら感想でも聞かせて!
ホットサンドだから温めてから食べてくれたらいいから。」
晴樹は苗に家族分の持ち帰りを渡すと、みんなをビルの外までわざわざお見送りしてくれた‥‥
「はぁ~‥‥‥
やっぱり晴樹サン洗練されてる‥‥‥
だってさ!今時の高2って結構子供っぽいのに、な~んか大人な感じするんだよねぇ‥‥」
由美はポゥっとなりながら語り始めた。
「‥うん‥‥‥」
「…あれ中ちゃん?
何だかトークに乗り気じゃないね?あんたも晴樹サン狙ってると思ってたけど‥‥‥」
「えぇっ!?
中ちゃんも兄さん狙いなの!?
かぁっ!!由美と二人で取り合っちゃうのかぁ!?
恋愛バトルだね!
って、えぇ!?じゃあ、あたしは板挟み!?」
言葉少ない中島に由美が突っ込んだが苗が一人で勝手にボケ始めた
・
「あちゃ?
あたしはどっちの味方につけばいいの!?
これじゃ、まるで嫁姑問題に挟まれた気弱な旦那みたいじゃん!!」
…まだゆーか!お前っ!?
一人で頭を抱え悩む苗を見て二人とも思った
勝手に想像を膨らませいつの間にか嫁姑問題の話しを語り始める苗に由美はしきりにツッコミをいれている‥
そして、その隣では考え込む中島がいた‥‥‥
‥晴樹サンのあの表情って‥
‥‥まさか、よね‥?
そう、中島は食事をしている合間からいつ晴樹に話しかけようかと模索していたため、ずっと晴樹の様子を伺っていた‥‥‥
たぶん、晴樹の心の変化に気づくのは当の本人よりも中島の方が先だろう…
中島は苗を見つめた‥‥
「んでさぁ~そんな嫁と母親がバトってる家に帰りたくなくて、スナックに通い詰めちゃうんだよ!!」
「あんたがスナック通い詰めてどないするん!?」
由美は間髪開けずにツッコミを入れた…
話題はまだ、嫁姑問題のままのようである
‥もう少し様子を見てみないとわかんないわね‥
千里眼の中島にも今の状況を見ての判断は難しかった…。
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