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3章 ランチ
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「えっアタシもいいの?」
苗の突然の語りかけに由美も驚く。
「え、なんで?由美は行かないの?」
「……いや、行きたいけど…」
わたし、誘われてないし…っ…
由美は戸惑いを見せる。
「行こうよ!お勧めはパスタだけじゃないんだよ!ねっ、兄さん!!」
「あ、ああ…」
「え…でも…」
口隠(ごも)る由美に晴樹も誘いをかけてくれた。
「君もおいで。美味しいのはパスタだけじゃないかっ‥」
遠慮のしまくる由美の傍らでガタガタッと慌てて中島が席を立っていた。
「あたしも!!
あたしも行きたいっ!」
中島が出遅れちゃまずい、とばかりに勢いよく立候補していた。
人数が少しずつ増える状況を晴樹は眺め、隣を見る。
「‥お前も来るか?」
「いや……俺は遠慮しときます」
声を掛けられたお兄ぃは気の毒そうに身を引いていた。
そして日曜の予定を決めながら、皆でコーヒータイムを楽しんでいると学食の入り口が何かを反射してぎらぎら光を放ち出す。
それを見て晴樹は表情を曇らせた。
大きく巻いた長い髪をかき上げて、ちらりと手首に覗いた高そうなブレスレットとピアスが嫌味な程にキラキラしている。
最新ブランドのお洒落なポーチを手して近付いたその襟元には、三年生であるえんじ色の校章バッチが見えていた。
「ねえ、晴樹……この子達誰?」
「……お前らに関係ない…」
座っている晴樹の肩に腕をかけ、向いにいた苗達に流し目を送る。
晴樹は後ろを見ないまま、肩に巻き付いた腕をうざったそうにほどいた。
… おぉ、いかにもお嬢様だ…
苗は晴樹に絡んできた女子を見てそう思った。
・
そのお嬢様達の登場に中島と由美は露骨に嫌な顔をする。
晴樹にほどかれた手をまた肩に乗せ、そのお嬢様は喰い下がった。
「何よっ晴樹ったら!?
最近冷たくない!?」
…チッ‥
うるさいのが来やがった‥
舌を打つ晴樹の苛立ちにも気づかずに、お嬢様は自分を嫌そうな目付きで見る中島達を一瞥すると、小バカにしたように鼻で笑った。
「ねぇ晴樹、この子達…二ノ宮の子よね?……制服…すごくお洒落ね‥プッ」
中島と由美は顔を赤くしてムッとした。
古き伝統を背負い込んだ古風なデザインのブレザーの制服は、どんなに小細工してもお洒落な結城学園の制服には勝ちようがない。
お嬢の嫌味に由美と中島は嫌悪を露に見せる。
そして……
「そう思いますか?
いやぁ、結城の制服も中々ですよ~
あたしも、金銭に余裕あったら買いたかったんですけどねぇ、まぁ、破けない限り買い替えは出来ないから我慢するしかナッシングですよ、あは!」
苗はご機嫌に答えながら賑やかに笑った。
晴樹は明るく返す苗に呆気にとられ、お嬢は顔を引きつらせる。
晴樹は我慢出来ずに吹き出した。
「‥ぷっ‥ぶはっ‥笑えるっ!苗っお前やっぱ最高!」
中島達の不満をよそに、苗は気分良く饒舌にお嬢の嫌味をかわし、苗の見事なボケッぷりに晴樹は再びハマってしまったようだ。
・
何事にも動じない苗に感心しつつ晴樹はお嬢達に釘を刺す。
「二ノ宮は今はない──
この子達はもうウチの生徒だろ?お前らも歓迎しろよ。
くだらない事で鼻高くしてると結城の生徒は心が狭いって思われだろ?」
庇ってくれた晴樹の言葉に中島達は微かに顔を弛める。
そして、晴樹は言った。
「この子達は妹みたいなもんだから、お前らにもよろしく頼むよ」
「妹?……そ、そうよね…」
‥考えてみたらこんな子達と晴樹が吊り合う訳ないし!
晴樹の妹発言に急に機嫌をよくしたお嬢はにっこり微笑み手を差し出した。
「じゃあ、何か困ったことがあったら相談にのるから、これからヨロシクね」
その変わり様に顔をしかめた中島達の横からすっと手が伸びる。
「こちらこそ兄さんがいつもお世話になってます!
何かありましたら是非ともお力添えをよろしくお願い致します!」
しっかりと手を握り締める苗の選挙活動のような仕草と言葉に晴樹はまた笑っていた。
・
ただ、この妹発言も苗達がお嬢軍団のイビリに合わないようにとの晴樹なりの配慮ではあったのだが、この配慮が後々に晴樹を苦しめる事になるのだった‥‥
晴樹は苗にとって完全に
“兄さん”になってしまった‥‥‥
そして晴樹はまだ、その事に気づいていない…
あからさまに嫌な顔をする中島達をお嬢は見ながら思いを巡らす…
‥この、妙に愛想のいい子は別として‥‥‥
後の二人は要注意ね‥‥
絶対に晴樹狙いだわっ!
そして、お嬢達もこの読みが浅はかだったことに気づかずにいた………
「じゃあもうすぐ、午後の授業が始まるんで。
んじゃ兄さんゴチになりやしたぁ?!!」
苗は勝手に仕切って席をたった。
その後に続き中島達も席を立つ…
そして帰り際に晴樹が声をかけた。
「じゃあ明後日の日曜な!」
晴樹の言葉に三人共手を振り答える‥
そしてお嬢は晴樹の言った事に目を向いて詰め寄った!
「晴樹!!
今のどーいうこと!?
日曜にあの子達と何か約束したの!?」
「ああ、グラシアスでランチご馳走するって話‥」
「ランチご馳走っ…」
晴樹の言葉にお嬢の顔色が変わり始めた…
・
「あたしの誘いは断っておいて何それっ!」
「………」
‥あ、そ~言えば‥
晴樹は何となく思い出した。
だいぶ前からお嬢達にデートの誘いを受けていた晴樹は暇がないと言っては断って逃げていたのだ。
「許せないっ!」
… ただでさえ、中々デートしてくれないのになんであの子達と!?
怒りでぷるぷる震えているお嬢に晴樹は面倒くさそうに額を掻いた。
「別に俺が誰と約束してもお前に関係ないだろ?
また、暇な時に遊んでやるからもう向こうに行けよ」
… たくっ、毎回ぎゃーぎゃーうるさいたらねえな‥
お嬢軍団に囲まれ晴樹は息苦しさを覚え眉間を寄せた。
邪険にされながらもお嬢は食い下がる。
「じゃ、いつ時間作ってくれるの」
「そーよ!あたし達とは最近全然遊んでくれないじゃない?今日、予定決めてよ」
取り巻きのお嬢達も不満を口にしはじめる。
晴樹は大きなため息を吐き出した。
「お前らが行かないなら俺が行く!行こうぜ直哉」
晴樹は苛立ちも露に席を立ち、お兄ぃに声をかけるとお嬢達を残して食堂を後にした。
「あいつ等毎回、やること話すこと一緒っ…いーかげん飽きるっつーの!」
吐き捨てるように口にする。険しい表情のまま歩く晴樹を見てお兄いモテるのも大変そうだと深く思っていた。
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