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5章 田中家
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しおりを挟む照り焼きソースを塗ったように日焼けした顔。不精髭を伸ばし、苗に似たクッキリの目で小指を立て豪快に笑う‥
まるで島国の人を思い出させる…
‥すっげ‥想像通りだ──
晴樹は生唾を飲んだ
「父ちゃん何言ってんの!?
あっ兄さんはこっち座って!」
満作父さんに出会えた喜びを噛み締めながら晴樹は苗の後についていく
8畳間に敷き詰められたテーブルを股ぎながら歩くと苗は我が家の大事なお客さんだ!と皆に紹介し、うすっぺらい座布団を三枚重ねて晴樹を上座に座らせた。
「食事の用意するからテレビでも観てて!」
苗は晴樹にそれだけ言うと台所に消えて行く
取りあえず晴樹はテレビに目を向けニュース番組を見た
「……?」
そして妙な視線に気づき斜め隣に座っていたばあちゃんと目が合う‥
ばあちゃんは晴樹にそっとミカンを差し出した
「あ、ありがとうございます…」
そして、しばらく経つと三つ子が狭い場所でドタバタと暴れ出しプロレスを始めた。
暴れ回る三つ子の足が時折晴樹のケツに蹴りを入れる…
晴樹はその度にお茶を吹き溢し口を拭った。
‥こんな環境で育ったのかあいつは…
小さく尊敬してしまう。
そして、台所の方から苗が出てくるとテーブルに手際よく、ホットプレートを二つセットして食器を並べていく‥
「もぅご飯出来たから!」
……………………………
苗は晴樹にそう伝えながら台所に戻り、再び戻ってくると手には大きな中華鍋を抱えてきた。
「ハイハイー 危ないから下がっててよ~」
苗は温めたプレートに鍋の中身を移し変える!
部屋の中は濃厚なソースの香りが充満し空腹のお腹をいっそう唸らせていた。
二つのプレートには塩味とソース味の二種類が用意されている‥‥‥
そう、今夜の夕飯は焼きそばだった…
てんこ盛りの焼きそばも、育ち盛りの三つ子達‥そしてじいちゃんばあちゃん達にみるみる間に片付けられていく!
「兄さん!!ボーっとしてたら喰いっぱぐれちゃうよ!!」
「えっ?あ、あぁ…」
呆気に取られていた晴樹は苗に急かされ慌てて焼きそばを頬張り始めた!
まさに弱肉強食。
そんな、言葉がぴったりの田中家の食卓だった‥‥
「ぐっ‥ぶほっ…ゲホッ!」
慣れない早食いに晴樹は咳こむ。
真っ赤に息詰まる晴樹に苗は水を差し出した。
‥飯を食うのにこんな苦しい思いをしたのは初めてだ──
晴樹はそう実感しながら水を飲んだ。
カルキ臭い水道水も今は命の水に思える‥‥‥
ただ、考えてみたらこんなに必死で食べなくても家に帰れば食うものはいくらでもあるはずなのに…
・
晴樹はそう思いながらも咳が落ち着くと再び箸を動かし始めた
苗は食事の“シメ”に岩のりのお吸い物を出す
「あー‥‥‥旨ぇ‥‥」
一口すすると自然と晴樹の口から声が出た…
本気で旨いと思った‥‥
戦いのような食事の後にこのホッとする汁物は最高だと初めて感じた瞬間だった。
旨い物はたくさん食べてきたが、今まで感じた旨さとは全然違う‥‥‥
どんなに有名な料理人が作っても晴樹は軽く箸を付けるだけが多かった…
だから、あまり食べる事に興味を持つこともなかったのだが‥‥‥
‥食事の雰囲気ってのも味に左右するのかもな‥‥‥
晴樹はキレイに完食した
「じゃぁ、ご馳走様!
制服できたら学校に持ってくから‥‥」
「うん、兄さん今日はホントにありがと!!
時間なかったから大した物は作れなかったけど、今度はちゃんと招待していっぱいご馳走準備するからまた来てね!」
苗の言葉に晴樹は自然と顔がほころぶ‥‥
「あぁ‥楽しみにしてる…」
晴樹はそう返すと車に乗り込み家路に向かった
‥はぁ‥疲れたな今日は…
「晴樹サンお帰りなさい。」
「ああ、村井‥…」
……………………………
晴樹が家に帰り着くと晴樹の専属。執事兼秘書の村井が声をかけてきた
「お食事は済まれましたか?」
「あぁ、ちょっと食事に招待されてさ…
色々驚くことばかりでちょっと疲れたよ」
「疲れた?」
村井は不思議そうに聞き返した。
「あぁ‥‥」
リビングのソファに座りそう返事する晴樹に村井は言った
「‥‥‥疲れたと言うより…楽しかった!‥じゃないですか?
晴樹サンは帰って来てからずっとニコニコされてますよ」
「‥‥‥そうか?」
‥そうか‥‥‥
そういえば、最近‥退屈だと感じることが無くなった気が…
晴樹はソファに横になり目を閉じた…
‥親父は遅くまで仕事…
家で食事なんてした試しがない。
お袋も親父の部下の奥様連中と食事会だなんだで家で料理なんて作ったこともない‥‥
家族揃って食事って…記憶にないな?
忙しいのはわかってるし、それが、当たり前で一人での食事を不満に思った事もなかったけど‥‥
食事をしてるって実感したのは今日が初めてかもしれない‥‥
「クスッ‥」
晴樹は田中家での出来事を振り返り小さな笑い声を漏らした。
……………………………
Aカップのブラを頭に巻いてプロレスする三つ子…
焼きそばをツマミ代わりにして、一升瓶の芋焼酎を片手に晩酌しはじめる満作父さん‥‥
確か一升瓶には1日の呑む量が決められ一目で解るようにマジックで印がつけられてたな…
『父ちゃん!!
その印より焼酎減ったら明日の弁当一品減らすよ!!』
『冷てぇなあ、お前…
客人が来たときくらい豪勢にやらせてくれょ・・・』
満作父さんはごねたが苗にあっさり却下された。
仕方なしに焼酎を薄めまくって量を増やしてたっけ
『ちっ! 味も芋の香りもしやしねぇ…』
苗をチラッと見ながら最後の一滴を飲み干してたな…
晴樹はフフッと笑いを溢した。
そして、思い出したように晴樹はブレザーのポケットを探る‥‥
ポケットから取り出されたそれは、シワくちゃのばあちゃんが晴樹にそっと差し出したミカンだった‥
「食後のデザートだな」
晴樹は独り言をゆうとソファから起き上がりミカンを剥いた‥‥
酸味のある甘い香りがリビングにひろがり始める
「おゃ!ミカンですか?」
「あぁ、貰ったんだ……」
「晴樹サンがミカンを食べるなんて珍しい‥‥
今まで果物は勧めても食べなかったじゃないですか?」
「あぁ、‥‥‥このミカンは特別だから‥‥‥」
村井に言われ晴樹はそう答えると一粒口に放り込む。
「特別に美味しいんですか?」
「〰〰〰っ!…特別に酸っぱいっ…!!」
ミカンを口にした晴樹の表情を見る村井の顔も酸ッパマンになっていた…
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