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13章 海外からの来訪者

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‥はあ‥っ‥


自分のベッドに腰掛けると晴樹は顔を歪め、感情を押し殺す。

怒りなのか何なのか‥
やりきれない思いに押し潰されそうになるのを堪え歯を食いしばると、晴樹は自分の髪を鷲掴み頭を抱え込んだ。


‥予定通りなら…っ……俺は今すごく楽しそうに笑っていたはずなのにっ…なんだ、この状況は…っ

「‥‥っなんでアイツと行くんだよ!」


知らずのうちに抑えきれない思いが口をついて漏れる


‥なんで邪魔をする!?

なんでっ‥みんなして俺と苗の間に割り込む!?


自分の命を賭けてでも一緒に居たいくらい大好きなのに‥

なんで一緒に居させてくれないっ…


もどかしさで胸が裂けそうだ

この数日間、デートのことで頭の中がいっぱいだった‥
苗を好きになってから、自分のほとんどの時間が苗でいっぱいだった‥


一緒にいたいと言えば苗は簡単に返事を返してくれる

今までだって何度となく想いを伝えたつもりでいても苗は何も考えず簡単に返事を返す‥


“俺は苗とずっと一緒に居たい”

“うん!苗も兄さんとはずっと仲良くしたいだよ”



俺の気持ちも知らずやりたい放題して回る苗に想いを知って欲しくて言った言葉‥


その言葉に、苗はあっさりと満面の笑みを浮かべそう返してきた。


夏目の気持ちはすぐに伝わったのになんで俺の想いは伝わらない!?



夏目は告ってすぐに付き合うことができたのにっ…

だったら‥‥

それなら‥‥俺の気持ち…にも……?



晴樹は何かに気づいたようにゆっくりと顔をあげた。

…っ……もしかして‥もうとっくに俺の気持ちには気づいてるんじゃ……

気づいてて、‥敢えて気づかないふりして……っ


今までを振り返り、少しずつ表情を引きつらせる。そして次第に口元を緩ませ笑みを浮かべた‥


‥は、なんだ‥
笑える!‥
鈍感なのは俺の方か?

そうだよな‥あまりにもおかし過ぎるもんな…。
これだけ気持ちを口にして何度と迫ってんのに見事にかわされてんだから…



‥‥クスッ‥すげーな‥

アイツ全然俺より上手‥‥恋愛の先生なんて必要ねえじゃん‥




晴樹は今までの苗の言動と行動を思い出し、それに振り回されてきた自分を笑っていた。
そして思う‥


確かに下手に俺の気持ちに答えを返して完全にフルよりは‥
気づかない振りして兄さんとして援助して貰う方がいいもんな‥



そのためだけにアイツは‥

苗は…っ
俺の側にいるんだから!!


結局、俺は完全な対象外ってことだ……


「なんだ‥っ

やっぱ無理なんじゃん‥」

いろんな事を考え込んだ晴樹の心は次第にショートしはじめる‥


‥っ‥俺がッ‥

俺が傍に居たいって思っても無理だろそれじゃ…っ…

俺がどんなに好きで傍に居たくても‥っ



晴樹は再び頭を抱え伏せぎ込む

始めから無理な話しだった‥
どんなにキスをしても想いを伝えても‥命を賭けたって苗には伝わらない‥

だって俺の気持ちはとっくに苗に伝わってる‥
伝わってるのに敢えてそれをはぐらかされてるんだから…っ




だったら別にそれでいい‥
もう、援助をすることでしか傍にいることが出来ないなら‥
それしか他に方法がないならっ‥


苗の気持ちが手に入らなくても‥俺には苗が必要だから‥

苗が居ないと生きてはいけないのは俺の方だから‥
それは十分、あの事件の時に身にしみたっ…




頭を抱えながら晴樹の肩は小刻みに震え始める



後は‥っ‥
俺が耐えればいいだけ‥


苗に彼氏が出来たって‥
っ‥俺が耐えればいい…



切なく苦しい胸の痛みを流すように、晴樹の瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ出す。

じりじりと燃えていた晴樹の切なく熱い苗ヘの想いはぷつりと音を立てるように切断されてしまっていた‥

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