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16章 すれ違い
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しおりを挟む青い目のお嬢様はブティックで大人買いした洋服を何着も着替えては晴樹の部屋にお披露目にやってきていた💧
「リディ、頼む‥
俺、もう疲れたからゆっくりさせてくれ💧な?‥」
「もう、なんで晴樹はそんなにおじさんなの!?」
愚痴を言うリディを晴樹は無理矢理部屋から追い出していると、小さな小競り合いの声の合間をぬって、ささやかな携帯の着信音が耳に届く‥
──!?
‥苗からだっ
「あ、ちょっ…晴樹!?…」
バタンとドアが勢いよく閉まる。
晴樹は押し出し寄り切りの相撲技でリディを部屋から追い出すと慌てて携帯を手にした。
「もしもし?苗!?
大丈夫か!?」
『大丈夫じゃないけど大丈夫だったよ‥💧』
「―――?‥空?」
電話の主が誰かに気づき晴樹は空に確認をとる
「苗は?‥やっぱり、具合が悪かったのか?」
『うん、大丈夫みたい。
とりあえず救急車で運んでもらって点滴‥』
「―――!‥は!?
救急車!??」
‥救急車って‥
―――なんだよそれ!?
空の説明を最後まで聞かず晴樹は質問を繰り返す!
「救急車でって、そんなに悪かったのか!?
どこの病院にいるんだ!?」
・
‥やばいっ‥落ち着け…
晴樹は早打ちしてくる鼓動を落ち着けるように自分自身に言い聞かせる
『兄ちゃん落ち着いて💧
姉ちゃんは大丈夫だから、今、熱を下げるように点滴してるからさ。
今日は安静の為に病院に泊まって明日帰るって‥』
「熱?熱って風邪だったのか?‥」
‥風邪引いてたようには見えなかった‥
晴樹はそう思いながら問いかける
『違うよ、持病だってさ。』
「持病?」
‥持病‥‥‥あぁ‥
空の説明に晴樹は前にオカンから聞いた苗の持病の話しを思い出す。
“体が疲れやすくてね、すぐに高熱が出ちゃうの。だから、晴樹クン達みたいに頼りになるひとが居てくれて安心だわ!”
‥疲れやすくて高熱が‥
晴樹はその言葉を頭の中で繰り返す‥
そして、歯をギリっと喰い縛った―――
「俺のせいじゃねぇかよ!!!」
携帯を握りしめたまま自分自身に吐き捨てる!
‥俺のせいだ!
全然気づいてやれなかった!!
悔しさと腹立たしさ、そしてどうしようもない怒りが沸き騰がる
自分に対しての苛立ちに晴樹は瞳を強く閉じていた‥
『兄ちゃん?聞こえてるか?』
・
「あ‥、
‥空、どこの病院か教えてくれるか‥っ‥」
電話の向こう側の晴樹の様子を伺うように問いかける空に晴樹は声をしぼりながら聞き返す
ソファにゆっくりと腰掛け肩を落として頭を抱え、晴樹は無意識に髪をくしゃくしゃと掻き乱していた。
晴樹の質問に空が電話口でゴソゴソしながら病院名を教えてくれている
『〇〇大学総合病院だよ。でも、明日の昼前には退院すると思うよ。』
「ああ、わかった‥
おばさんも一緒だろ?
ちょっと代われるか?」
晴樹に言われ空はオカンと電話を代わった
『晴樹クン?ごめんなさいね、心配かけちゃって‥
熱が下がったら退院するから気にしなくて大丈夫よ』
「いえ‥
連れ回したのも俺だし‥
疲れてるなんて、全然気づいてやれなくて‥おばさんも大変な時に、こんなことになって…。
すいません、ほんとに‥
明日、迎えに行きます。」
晴樹は電話口でオカンに詫びると自分の唇を噛み締めた
‥ほんとに、なにやってんだ俺!‥
自分が一緒に居たいばかりに疲れて帰ると言う苗を無理やり引き止めようとした‥
・
あの節約が命の苗がタクシー使ってまで帰るって言った時に気づいてやるべきだったのに──
不覚にも自分自身が苗を疲れさせ、自ら苗を引き止めてこんなことになってしまった‥
高熱があったなら食欲がなくて当然‥
おかしいと感じる場面はいくらでもあった!‥
なのに、俺は自分の気持ちだけを優先させてしまった…
ほんの少しの時間でも苗と‥
そんな自分だけの気持ちで苗を辛い目に合わせた
これじゃどんなに困った時には頼れなんて苗に言っても、結局俺は金で解決出来ることしかしてやれてないのと同じじゃねぇか!?
「すいません‥ッ‥んとに‥」
震える声で息を切るように何度もその言葉を呟く
晴樹は自分の腑甲斐無さをこの時、嫌というほど味わっていたのだ
『‥‥いいのよ晴樹クン
まあ、どうしてまた持病が出たか後で精神科の先生に相談しなきゃ解らないんだけど‥』
―――?‥
「え‥!?
精神科!?‥」
『ええ、』
‥精神科って‥
オカンの発言に晴樹は驚きながら聞き返していた‥
‥疲れで高熱が出る突発性の病気‥確か前にそう聞いた気が…
・
電話口で戸惑う晴樹にオカンは事情を説明してくれた
『 小さい時はどのお医者に連れて行っても原因がわからなくてね‥
で、ちょうどお父ちゃんが働いてた建設会社が倒産した時で私達夫婦も生活が大変で💧
あの娘にかまってあげられなかったのよね。
それでしょっちゅう高熱が出るからもしっ‥て時に責任取れないからって保育所の受け入れも断られちゃってそれで田舎に預けたんだけど‥‥
たまたま、大きな病院の医療カウンセリングしてた先生が退職して田舎に帰ってきた時に婆ちゃんが相談したら、「心の病気」じゃないか?って‥』
「心の病気?
苗が‥ですか?…」
オカンの口にした病名を晴樹は繰り返す
『そう、‥でその先生に詳しく話しをきいたらね
なんとなく、当てはまることだらけで‥』
「当てはまるって‥」
『その先生が言うには‥
“お嬢さんは今まで
寂しい。とか何らかの我が侭を言ったことがありますか?
もし言ったことがないのならストレスが原因ですよ。小学校にも上がらない小さな子供が両親と離れて寂しくない筈がありません。
我が侭を言って当たり前。そうやって自己主張しながら怒られていろいろと学んでいくんです。
・
お宅のお嬢さんはそれを口に出す前に我慢してしまうんでしょう‥
我が侭を言っちゃいけないと思って‥寂しいって言えば我が侭になる。だから言わない‥でも、本音はすごく寂しい…
何度かお喋りしたんですがあれだけ、口が達者なのにそう言う感情面を口に出さないってのはやっぱり問題ですよ‥
ただ、本人自体がその寂しいって感情に気づいていないんでしょうね‥
だから、精神にくるまえに身体が先に警笛を鳴らすんです。よくあるでしょ?
指しゃぶりの癖がぬけないとか、爪を噛んでボロボロにするとか‥
口に出せない分、気づいて欲しくて身体がそうやって知らせるんですよ‥
なんで、風邪以外で思いあたらないようだったら高熱が出た時はなるべく我が侭を聞いてあげて下さい。
大人になったらいずれ治ると思いますから。”
‥って、それでこっちに戻って来た時に大学病院の方を紹介してもらって、かかりつけになったんだけど‥
だから、疲れのせいじゃないのよ💧
説明が面倒くさいから前はそう言ったけど‥//』
オカンは長い説明の後に、ホホっと誤魔化し笑いをしていた。
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