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17章 距離…
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しおりを挟む『なんだって?』
晴樹はもう一度聞き返す。
「うん。あのね‥
お迎え、いいだから。
兄さん来なくてだいじょびだから。」
『───‥‥』
苗はそんな言葉を返していた…
『いいって‥
おじさんが言ったのか?』
‥おかしい…
おじさんからはさっき連絡が入ったばかり。
“昼に退院だから、じゃあ頼むなっ”
満作からはそんな連絡が入ったばかりだった‥
『誰か迎えに来てくれることになったのか?』
おじさんからは何も聞いてないのに‥
晴樹はそう思い問いかける。
「うん。あのね、大ちゃん来てくれるって‥」
『・・・
──…っ!‥はっ!?』
‥大ちゃん!?
『大ちゃん!?
大ちゃんって何言ってんだお前?アイツは学校だろ!?』
そう平日の昼と言えば学生はまだ、学校に居て当たり前。
学園に席は置いてるものの、理事長の身内であり高校、大学の卒業資格を持ってる晴樹だからこそ、車通勤したり登校の多少の自由が許されているのだ‥
‥大会を前にしてまさか学校サボる気じゃねえよな?またアイツの邪魔が入るのか!?
苗の口から出た夏目の名前に晴樹は少しずつ冷静が保てなくなっていく‥
・
『なんでアイツが来るんだよ!?
苗が頼んだのか!?』
問いただす晴樹の口調は無意識に強くなり、苗はその声を遠くで聞くかのように頭で捉える‥
苗はぼうっと晴樹の声を聞きながら応えていた。
「うん。あのね、
兄さん忙しいからと思って大ちゃんにお願いしただょ。したら大ちゃん来てくれるって言ったから‥」
苗は大嘘をついていた…
勿論、夏目にお願いしていなければ夏目自身、苗が救急車で運ばれたことも今日学校を休んでいることも知らされていない。
ランチタイムに由美と顔を合わさない限り、夏目は現時点で苗が入院していることも知るよしはないのだから
『苗、俺が迎え断るから夏目の番号教えろ…』
「‥‥‥」
声音の低くなった晴樹に苗は無言で返す
『苗!‥』
‥頼むから言うこと聞いてくれっ!
怒鳴りそうな自分がいるッ
自分よりライバルの夏目を選ぶ苗に感情のままあたり散らしそうな自分が‥
携帯を持つ手に力が入りミシッと機体が軋む音が聞こえた。
『苗、
‥夏目は大事な大会控えてんだから、こんなことで振り回すなよ…な、
俺だってそんなに忙しいって訳じゃ‥』
・
切ない
すごく、切なさが込みあげる
晴樹は自分をなんとか落ち着けながら唇を噛み締め苗に言い聞かせる
リディが現れたことで苗がどんどん遠ざかって行く‥
妙によそよそしい他人行儀な苗の態度がすごく悲しく思えてならなかった
『苗‥
夏目には大会に集中して貰わなきゃ学園も困るから‥な、‥今日だってアイツは大会までの追い込みで部活がある筈だろ?』
学園にかこつけてでもなんとか夏目を引き離したい
晴樹は苗の様子を伺いながら話掛ける…
『苗、聞いてる?』
「うん‥
わかっただょ…
大ちゃんに断る‥」
覇気のない返事がボソッと聞こえた
『そうか‥
じゃあ、少し早めに迎えに行くから…』
苗の返事に安堵しながらも元気のない声が気に掛かる‥
約束を取り付け電話を切ると晴樹は重いため息を溢しソファに腰掛けた‥
〃兄さん忙しいから‥〃
苗の言葉が乗し掛り胸が詰まる
「一緒に居たいんだよ‥」
ソファの背もたれに頭を預け天井を見上げながら言葉を洩らす
‥俺は‥っ
出来ればずっと一緒に居たいんだよッ!!
叫びそうな想いを噛み締め瞼を覆う
苗のせいですっかり弱くなってしまった涙腺を恨みながら晴樹は目頭に力を込めた
◇◇◇
「じゃあ、田中さん。
相談事があったらいつでも来てくださいね!
悩み多き年頃なんだから独りで悩んじゃ駄目ですよ?」
「‥‥‥はぃ?💧」
約束通り、昼前迎えに来た晴樹の車に乗り込んだ苗にドクターは病室で見せたあの怪しい笑みを浮かべ助手席の苗を覗き込む‥
その笑みは隣の晴樹にも注がれていた💧
意味深な含み笑いを溢すドクターに会釈を返し車を発進させる‥
「まだ、体調悪いか?」
晴樹は隣で静かにしてる苗を心配して話かけた。
「だいじょびだょ‥」
「‥‥」
全然だいじょびそうじゃない‥
晴樹は前を向いたまま無表情でそう返す、いつもと全く違う雰囲気の苗を気に掛けながらハンドルをきる
無言の続く車内で空気だけが静かに張り詰めていく‥
「な‥」
「はい、もすもす!
あ、大ちゃんっ?」
重い空気を換えようと晴樹が苗に呼び掛けた時だった。
さっきとはまったく違ういつもの苗。
そんな苗が携帯を手にし、呼びかけた相手の名は夏目だった
‥夏目?
・
「うんうんっ
だいじょびだってば!
ぶはっ‥そうなんだよ!
明日は学校行けるからさっ」
‥‥‥
──っ‥なんでこんなに態度が違う!?
晴樹はご機嫌に受け答えする苗を横目に見ながらみる間に不機嫌になっていく
「うん、じゃあまたね」
「───…夏目からか?
なんだって?」
「ん?べつに。
ただ、大丈夫か?ってだけ。」
「‥‥‥」
携帯を切って直ぐに問いかける晴樹に苗は真顔で返した
晴樹はそのテンションの違いが気にいらない。
淡々とした会話が途切れ車内は再び静かになる。
「苗―――」
「‥?」
その沈黙を晴樹が破った。車を道路脇に停車させ、晴樹は苗の方を向き直る。
「なに?」
「‥‥‥夏目に迎えに来てもらった方がよかったのか?」
穏やかな口調を崩さぬよう自分に言い聞かせ晴樹は口を開く
息苦しい
ざわつく胸がきしみ出す
なんで毎回こんな想いをしなきゃなんねぇ!?
苗以外を望んだ訳でもない──
苗だけ居れば‥
苗だけ傍に居てくれればいい!!
そう言ってるのに──
なんで‥っ‥‥
応援ありがとうございます!
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