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20章 恋の片道切符二枚組

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「‥‥なんでそう想うかわかるか?」


「‥‥?‥」

問いかける晴樹に苗はプルプルと首を横に振る。

「──‥‥」

‥だろうな💧

別に期待はしてない…


もう、

腹もくくったし‥




晴樹は覚悟を決めて瞼を伏せる。軽く閉じた瞳を開き、早すぎる鼓動を落ち着かせ深い呼吸をすると揺れる瞳で苗を捕えた…


「なえ…」

見つめながら名を呼び頬に手を伸ばす…


きょとんとしたままの苗の肩を少し引き寄せると、晴樹はゆっくりとした動きで胸の中に抱きしめていた。

「‥‥‥」

‥兄…さん?


晴樹に抱きしめられたまま苗は無言だった。そんな苗の背中に腕を回し晴樹はそっと力を込める。
ゆっくりと息を吐いた晴樹の口から少しずつ…
溜め込んだ想いが溢れていく…

「苗…
なんで嫌なんだと思う?…」

「………」

「…なんでだと思う…ッ…」


抱きしめた苗の肩に顔を預け問いかける晴樹の声は切なくかすれる。


「なえッ………

同じなんだよッ…

苗の気持ちと…ッ…」


抱きしめながら震える晴樹の声。詰まる喉に力を入れて呟く晴樹の胸は、切なく軋み痛みを与える。




「…お…なじ…?」

‥同じ?兄さんの気持ちと?

ん?💧

晴樹に言われ、抱きしめられたまま苗は難しい表情を浮かべた。

眉を潜め苗は考え込む…

晴樹はそんな苗を解放すると顔をぐっと覗き込んだ。

「苗…
そんなに悩むことじゃない…」

晴樹はそう言って苗の柔らかな頬を両手で挟んだ…

見つめる瞳は潤みを増し、品のある唇は優しく笑みを浮かべ軽く開く…

「苗…


…好きだ……」


「──……」


晴樹は整った顔を少し傾けると甘い声で囁いていた…

「なえっ…」

もう、抑えきれなかった──

言葉と同時に熱い息がかかる。吸い込まれるように重ねられた唇。晴樹は今までの想いを吐ききるように甘く溶けるキスを苗に降り注いだ…

「好きだっ……

渡せない…っ…誰にも…っ」

重ねた唇を交差させる度に想いが溢れ身体が熱を持つ。

やっと口にできた想い。

伝わったかどうかを確かめる余裕も無く、晴樹はため息を吐きながら苗の唇を貪る。

「ぅ……ッ…にい//…」

‥//…すき!?

スキって………💧


「なえッ…」

「あぅ…兄さんまっ…」


少しずつ激しくなる晴樹のキスに苗は呼吸も思考も追いつかない。



‥ハゥっ…く、苦しッ…

「兄さん待って!!」



苗は力を込めて抱きしめている晴樹を押し退けた。

「──っ…!?…」

「す……すきって…//💧」


突き放そうとする苗の腕に手を伸ばし、晴樹は聞き返す苗を切なそうに見つめる。

突き放された、たった30センチの距離さえももどかしい…

「苗だって…

…嫌なんだろ?」

「──…」

「俺が他の女と一緒にいると………

嫌だってさっき言ったよな?」


面食らった表情の苗を前にして、晴樹は自分の問いかけた言葉に不安を覚えた‥


もしかして俺の早とちり…か?

──……っ

まさか、本気で兄貴を捕られそうで嫌だったって……だけ…じゃ……



男として意識したんじゃなくまったくのブラコンの気持ちだったんじゃ?イマイチ反応の悪い苗を前に、晴樹の頭の中ではそんな考えが渦を巻く。


「苗…っ」

晴樹は苗に不安気な顔を向けていた…


もし、完全な俺の勘違いだったら茶番もいいとこだ!
‥それはかなり恥ずかしい

恥ずかし過ぎてもう二度と──

苗とは向き合えない気がする…



「なえ……」

晴樹は不安に押し潰されそうになりながら苗を見つめた…



‥だってすきって💧

すき…


…す…き…



女子と書いて好きと説く…その心は──



こんな説き方じゃわからないだよ//…


苗の思考回路は混乱している💧…

自問自答で答えが導き出せずむぅっと考える苗…


‥むぅ
好き💧?


‥うーむ…
兄さんが苗を💧?


──…
苗も兄さんを?


…んん?………💧


ぬぅ……//…


んーむ…//////…💧



考えながらなぜか苗の頬が徐々に赤くなっていった…。


……──ッ!💧//…

そ、……

そう‥かも知れなぃ…//💧



「なえ?…」


難しい顔して黙りこくった苗を晴樹は心配そうに覗き込む。そんな晴樹の問いかけに苗はほんのりと赤らめた顔をゆっくりと逸らしていた…


「苗?…💧」


苗はやっと、自分の想いに気づいたようだ…💧


‥苗…も…
兄さんのことを…//‥

‥う…//

──っ…ぅあぁぁ‥っ///


「に、兄さんっ!!…//」

「なっ…!?💧」


苗はいきなり晴樹の胸元を掴み強引に引き寄せる。そんな行動に晴樹は驚いた表情で苗を見つめていた。

「…な…💧…苗?」



「兄さん!! おっしゃる通りでござんす!! //💧」

「…!?💧」



「ぅあ〰!どうしようっ」


真っ赤に火照った顔で晴樹を一所懸命見つめ、黒いパッチリお目々は興奮しすぎで爛々と揺れ動く…

「なえ💧‥落ち着‥」

「苗もっ‥//…」


「……っ…」

「苗も…っ…//」


「……?💧」


力み過ぎて膨らむ苗の鼻に、晴樹は目を奪われ胸元を掴まれたまま固まっている。


「な…え…💧」

「苗も!!…



…兄さんがッすきぃっ!!」


「…………💧」


「すきっ!!…//」


「……っ…💧」


「すきぃッ!!…///」


「───…っ…////」

‥な、んでコイツは…//💧


「すっ…」

「…っ…わかった!!…

わかったから…//💧」


‥なんでこんなに唐突なんだよ…//💧


興奮したまま晴樹に言葉を遮られ、苗は口をもごもごと動かす…

勢いついて出た言葉はまだ言い足らず、口にすればする程苗の中で想いが膨らみを増していた。

「…ぅぅ…っ」

「な…え、
……なんで泣くんだよ?💧」

「うぅ‥わがらない‥

でも、すき…//
兄さんがすきぃ‥ズズッ」

「…//…っ…」

‥なえ…///

晴樹に止められ溢れた想いに耐えられず苗の目からは大粒の涙が溢れ出している。

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