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20章 恋の片道切符二枚組
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しおりを挟む赤い顔をして涙をポロポロ溢す苗…
ずっと望んでた言葉。
それを惜し気もなく連続投球してくる。
相変わらず酷い泣き顔。
でもすごく可愛い…
歪む小さな唇で好きだと繰り返す苗…
晴樹は胸が熱くて…
息が苦しくて…
嬉しくて我慢できなかった……
「…っ……なえ」
苗の泣き顔につられ晴樹の表情も一気に崩れる。
ずっと…抑えてきた…。
想っても妬いても気づいてくれない苗に苛立ち何度となく泣けた日々…。
苦しくて息ができず、むせびながら声を殺し続けたのだって昨日、今日だけのことじゃない…
今だって同じくらい胸が苦しい…
溢れる想いに息がつまるっ
ただ、あの時の辛さとは全然違う。
痛くて苦しいだけだった胸の痛み。今は熱くて心地いい甘い疼きだけを与えてくれる…
「なえ…っ
‥なえ──っ…」
晴樹はなんの戸惑いもなく、苗の唇を塞いでいた…
強引でいて、優しく包み込む晴樹の手。苗はその手に素直に頭を預ける…
泣きながらのキスに苦しさを覚え急に息が荒ぐ。
晴樹の胸元を掴んだままの苗の手から力が抜け、晴樹はやっと自由になった…
・
「っ…す…き…」
──…!…//
「…苗っ…」
呼吸の合間に聞こえてくる、小さく囁く苗の言葉。晴樹は心が痺れ吐息を震わせる…
高級車のゆとりある車内を疎ましく思いながら、晴樹は苗を絡み合うようにしっかりと抱き寄せた。
晴樹の行為に苗はぎゅっとしがみ返して応えてくれる…
交差する大人のキスに必死についてくる苗に晴樹は身体が熱くて堪らなかった。
小さな唇を食み、泣いたせいで熱を持つ口内に優しく舌を這わす…
キスの不慣れな苗の舌先がツツくように晴樹の舌をせがんでくる。
「──…ッ…なえ…」
「んっ……//…」
…なえ…っ
晴樹は苗の舌先に応え舌を絡める…
気持ちを伝えるように…
熱い想いを通わせ合うように…苗のおぼつかない舌を掬い絡めとる…
車内に響くキスの音色。
ハミングのように奏でられる吐息…
何重奏にも重なる二人の呼吸…
互いの想いが込もった初めての…キス…。
「苗…」
「……//…」
唇を離し見つめる晴樹の瞳に苗が映る。息を乱し互いの熱で赤く濡れた唇をぽかんと開けた可愛い苗…
・
初めて恋を知った少女の揺らめく色香に晴樹の男が反応する…
色づいた白い首筋に晴樹はそっと唇を這わせ、濡れた舌で熱を計るとピクリと苗の肌に緊張が走った。
「ぁッッ…//…うっ…」
慌てる苗の手に力が入る。
‥我慢できない…
でもまだ早い…。
苗の反応を見ながら晴樹は葛藤を繰り返す。
「苗ッ…//」
晴樹は苗をぎゅっと抱きしめた。
‥せっかく想いが通じたのに…っ
明日には苗と離れ離れ…
どっかが上手く噛み合わないっ──
運命の歯車の悪戯に晴樹は苛立ちを覚えていた。
上手く行かなきゃ好都合だったはずの渡米も、苗とこうなってしまった今は…
ただの厄介事でしかない💧
泣き出す程に、自分を好きだと言ってくれた苗…
晴樹はそんな苗に賭けてみた。
「なえ…//」
抱きしめた腕に力を込めては緩める…
ちょっと言い出しにくい…
でも、
それを越えなきゃ…//…💧
「兄さん…?」
呼び掛けたまま躊躇する晴樹に苗は催促した。
「苗…っ…」
「…なに?」
「…明日は…日本を発つから…」
「──…ぁ…
あぁ…そう、だよね…」
思い出したようにがっかりとした口調で苗は返す。
・
「ニューヨークかぁ…
遠いだね……」
「……そうだな…。」
晴樹の腕に抱きしめられながら苗はへへっと寂しく笑う。
遠いよ…
遠いうえに、行ったらそう簡単には戻って来れない…
だから…
「だから…なえ…」
晴樹は苗の耳元に唇を寄せる
熱い胸の疼き…
苗にしか抑えられないから…
「だから、
なえ…
朝まで一緒にいたい……」
「………」
「いたい…//」
「……っ」
「苗と二人で…
朝までいたいっ…//」
「…ぇ……💧…//」
「ぇ?…じゃなくて💧
二人で一緒にいたい!…//」
‥そ……れは…//
兄さん………💧
朝まで一緒に…
その言葉がいったい何を意味するのか──
さすがの鈍感苗でもそのくらいのことは読める💧
「なえ…//…?」
返事をしない苗に晴樹は抱きしめたまま呼び掛ける。
「ぅ…💧
あ…あの…!…
明日はっ大ちゃんの試合に持ってくお弁当をっ…!!💧」
「──…💧
大ちゃん!?…っ」
いい案が浮かんだとばかりに巻くしたてる苗の言葉に晴樹は目を剥いて苗を睨む!
‥なんでコイツはこんな時に夏目を出すんだ!?…
・
男心をわからない相変わらずな苗に晴樹は怒れた。
「だ、だって約束しちゃったしっ…」
「だからって今、アイツを理由に引き出すなよ!!」
こいつ俺が言ったことひとつもわかってねえな!?
そう…
晴樹は確かに言った…。
『苗が夏目と一緒に居るのだって耐えられないっ』
…と💧
はっきりと夏目に対しての感情を伝えている。
「で、でも…っ」
「いい…」
「え💧?」
「わかった!…もういい…」
これ以上粘っても腹が立つことを聞かされるだけだ…クソッ…
晴樹は苗との夜を諦めていた💧
想いが通じただけで十分…今はそれで良しとしよう💧
せっかく高まった想いも夏目の名前を聞いたお陰で瞬く間に萎んでいる。
苗とは両想いになれた…//焦る必要はないんだし…
……クソッ
そう自分に言い聞かせながら口惜しさが残ってしまう💧…
「あ、あの兄さんっ…」
苗はふて気味の晴樹に声を掛ける
「なに?」
今夜の望みが叶えられないとわかった晴樹は車のエンジンを掛け始めていた。
「あ……
朝までは無理だけど…
もうちょっと…一緒に…//」
「……💧…//」
・
「もうちょっと一緒に居たいかなぁ~…って」
苗はモジモジしながらうつ向いた。
人一倍鈍ちんではあるが、素直さも人一倍。
苗はささやかな想いもちゃんと伝えてくる。
……なえ…//💧
一緒に居たい想いは晴樹も同じ。だが、一緒に居るだけで違う欲求が膨らむのはわかりきったこと💧
「苗…
やっぱり明日早いから…💧今日は帰ろう」
押し倒すわけにはいかない💧
苗にまた、好きなんて言われたら絶対に我慢出来ない…
『もうちょっと一緒に居たい…』
今、言われた言葉でも萎えた想いが再び膨らみ始めてるってのに💧
ほんとに男心のわかんないヤツだな…//
もしかして弄ばれてんのか俺は?💧
そんな気さえしてくる…
「なるべく…
早く帰ってこれるようにするから…」
家の前まで送り、しゅんと落ち込む苗の頭を別れ際に撫でながら晴樹も胸が痛んだ。
「苗!」
寂しそうに玄関に向かう苗に晴樹は声を掛ける。
「あっちに行ってもメールするからっ」
「…//」
晴樹の言葉に苗は笑顔で頷き返す。ほころんだ苗の笑顔を胸に焼き付け、晴樹も微笑みながら手を振る…
もう暫くはお預け…か…
晴樹は幸せそうな溜め息を零していた──。
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