ありのままのキミに夢中 ~イケメンはずんどうぽっちゃりに恋をする!~

中村 心響

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☆*:.。. o番外編o .。.:*☆

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「別に──…泊まっても構わないけど俺だって結城さんと同じ男だよ」

「──……」

「どする?」

恐る恐る振り向いた苗に悟は頬杖付きながらニッコリと問い掛けていた。


腰掛けていたベットの隣を悟はぽんぽんと叩く。

まるで隣においでと言うように、悟は苗に満面の作り笑顔を向けた途端、今までに見せたことのない視線で苗を見つめた…

「はっ!──」

兄さんと同じ目だっ…


晴樹が苗におハレンチをしでかす時と同じ危険な香りがしてくる…

苗はその恐怖に思わずプチプチとビニールを潰す手を早めていた。

プチプチプチプチプチプチ
プチプチプチプチプチプチ──

「……苗…わかった…ほんの冗談だから手を止めなさい…」

「──あっ!」

悟が言うのと同時に苗の手からプチプチが乱暴に取り上げられた。

「…っ…どこに行ったかと思えばっ──」

目の前には先程脱出してきたはずの旦那様が仁王立ちで蹲る苗を見下ろしている──

後ろには三匹の密告者達を従えて、晴樹は怒りを露に苗にぶつけた。


「お前の脳ミソは何でデキテル!?あ!?旦那から逃げてしかも隣のっ──…一人暮らしの男の部屋に隠れるとは何事だ!?あ!?なんで俺が披露宴終わった早々こんな馬鹿げた思いしなきゃならん!?」

仕事で疲れてるってのにっ──

飛行機の長旅をしてまでなんでこんな思いをっ──

「…強烈にムカツクッ!!」

晴樹は手にしたプチプチを一気に捻り潰していた。



まだ荷ほどきの終わりそうもない部屋を晴樹は見回す。

コイツが隣に越して来るなんて…

俺は聞いてない──!


分譲マンションの2LDK。造りは晴樹達の部屋と全く同じ。広めに作られた個々の間取りは今流行りのバリアフリーで段差も何もない。
生涯を快適に過ごせるように部屋の壁も自由に作れる可動式の間仕切りが備え付けられていた。

悟の一人暮らしは跡取りとしての自立の準備でもあるのだろう。

1つの部屋には書斎らしい家具が先に運び込まれている。


「苗…帰るぞ…」

晴樹は静かに言った。

蹲り、固まったままの苗の腕を掴んで引っ張り起こし玄関へ向かう。そんな晴樹の背中に悟は穏やかな声を掛けた。

「結城さん、明日改めて引っ越しの挨拶に行きます」

振り返った晴樹に悟はベットに腰を降ろしたまま笑顔を向けた。

晴樹は無表情の視線を返す。

相変わらず嫌みな笑顔だな…

そんなことを思いつつ、晴樹は黙って背を向けた。

チラリと横目で振り返った苗に小さく手を振ると悟は笑顔を崩さず晴樹と苗の後ろ姿をベットから見送った。

段ボールを支えにして開け放たれた玄関には三つ子が脱ぎ散らかした靴が散乱している。

「姉ちゃん!オレら悟兄ちゃんの手伝いして帰るから!」

三つ子はテレビの隅に置かれたゲーム器機に目を付けていた…


晴樹は苗の腕を掴んだままマンションの外へ出た。

「あれ、兄さんどこいくの!?」

苗は黙ったままの晴樹に引っ張られていく。隣の実家の前までくると晴樹はやっと苗を解放した。

「お前今日はここで寝ろっ…」

「………」

晴樹に睨まれたまま苗は無言で返す。

たくっ──マジで冗談じゃないっ…

婚約しても安心できないってどういうことだよ!?

「兄さんはマンションで寝るの?」

「………」

しゅんとした顔を見せる苗に晴樹はため息が出ていた。

「マンションで寝るに決まってるだろ…苗はここでゆっくり休め」


正直クタクタだ…
披露宴に二次会。そして苗の起こしたこの騒動──


苗とゆっくり一晩過ごせてたなら、疲れも返って飛んでっただろうに──


晴樹は微かに下を向いて落ち込む様子の苗を見つめた。


好きって言ったくせに…

肝心なところでお預け。



「苗……」

晴樹は苗の頬に手を添えた。

「おやすみ…」

頬に軽くキスをする。落ち込んでるってことは、さすがに悪いのは自分だと反省したのだろうか?小さく頷く苗の頭を撫でると晴樹は苗に背を向けマンションへと帰っていった。



「はあ…」

部屋に戻って何度目のため息だろうか──

苗が倒して回ったトランクケースを元に戻していくと晴樹はソファに腰掛けて背もたれに頭を預けた。一人になったリビングでふと目をやればテーブルに置いた携帯が点滅している。

苗とこれから、と思った携帯はしっかりとマナーモードに切り替えられていた。
晴樹は電話を取った。

「もしもし」

「お、出やがった!?」

相手は貴志だった。

晴樹が電話を取ったことに驚いたような声が上がる。
「なんの用だよ…」

「あ、やっぱ腰振ってる最中だったか?ハハッ悪りいな!」

「………」

不機嫌な晴樹に対して悪びれた様子は一切感じない──

夫婦の営みを邪魔するための、たんに嫌がらせの電話だったようだ。

「今、ムンライでお前の三次会やってんだよ!ちぃーと邪魔してやっかって話しになってよ!」

「勝手に人の三次会を主役抜きでやるんじゃねえアホッ!」


「ハハッんじゃあ、隣の嫁さんにも宜しく言ってくれ!あんま頑張りすぎんなよっ」

「まて貴志──」

「あ!?」


電話を切ろうとした貴志を晴樹は呼び止めた。



「今から俺も行くっ」

「……もう終わったのか?」

「まだなんもやってねえよっ…」

「………そか」

妙に力んだ声で言う。そんな晴樹に短く返すと貴志は切れた携帯電話を眺めて首を傾げた。


「晴樹さんキレてました?」

良二がニヤニヤしながら聞いてくる。

「ああ…こっち今から来るって」

「え!?」

良二は目を見開いた。

「もしかして──ボコられちゃいますかね…」

「かもな…」

「ヒッ!!」

ビビる良二を貴志は脅す。貴志はそんな良二を笑いながら府に落ちない表情を見せていた…


そして貴志はやって来た晴樹から事情を聞き驚きの後に大爆笑している。

「ブハッ!!…マジでか!?マシュー最高なやつだなっ!」

苗の大脱走劇の結末は貴志の酒の最高のツマミになったようだ。

笑うなっ!て言いたいところだが、今は笑ってもらえたほうが精神的にも楽に感じる。

「んじゃあ、場所変えて飲み直すか?お前の新居で不発祝い!!…ブハッ!」

「……っ…その発言は笑えん!」

晴樹は吹き出す貴志の後頭部をどついた。

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