魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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双龍の刺客:ゼルシア

10話

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私は目の前で戦う少年を見る。

「くらえ!剣技、炎一閃!」

少年の攻撃ではビクともしないシルバージラフ。

「ヒヒーン!」

シルバージラフは雄叫びをあげると同時に長い鋼鉄の首で少年を薙ぎ払う。

少年は吹き飛ばされながらも言う。

「このグレン様に勝てると思うなよ!てめぇなんかこの俺一人で十分だって見せつけてやるんだからな!」

グレンは根性で立ち上がっては剣を構える。

「無茶苦茶だ…」

私はポツリと呟く。

私の完全な状態からの上限解放による無理矢理な身体能力の強化があっても、おそらくあれほど綺麗に一撃をもらえば、ほぼ確実に動けなくなるはずだ。

それをグレンはまともに受けて、さらには根性で立ち上がり続ける。

グレンは実力こそ無いものの根性で乗り切る事が出来るバカだった。

まさに根性バカと呼ぶに相応しいバカだろう。

そして何より…

「俺は倒れねぇぜ…俺は倒れねぇぜ…俺は絶対に倒れねぇぜぇ!」

早く逃げなければ、本当にグレンの命が危ない。

だが、あいつは逃げない。

勝てないとわかっていても、無様に吹き飛ばされても、それでも立ち向かう。

「ヒヒーン!」

シルバージラフが再びグレンに対して横薙ぎに首を叩きつける!

「がはぁ!?」

グレンは吹き飛ばされる。

まるでゴミのように惨めに叩きつけられてボロボロになっても、あいつは立ち上がる。

「…どうして?わからない…けど…」

私は立ち上がる。

「あいつに出来て、私に出来ない事は無いはずよ!それに…」

私は頭から流れる血を腕で拭き払う。

剣は粉々に砕けてしまったようだ。

「あいつだけにいい格好させてばっかじゃ居られない!」

私はシルバージラフに向かって、刀を抜いて突撃する。

「マリア?!」

グレンが驚いているのを横目で見ながら言う。

「あんた一人にこいつは荷が重すぎるってんの!バーーーカ!」

私の上段からの真っ直ぐな剣撃がシルバージラフの首に当たる。

キィーン!と激しい火花と共に甲高い音がする。

シルバージラフが首を振って弾き飛ばそうとする勢いを使って、距離を取る。

私は唖然としていたグレンに言う。

「何ボサっとしてんの!あんたも手伝いなさいよ!じゃなけりゃ、こいつは倒せないわよ!」

グレンは立ち上がって剣を構える。

その出で立ちはボロボロで汚れきっていながら、出会った時とは比べ物にならないくらいの力を感じる。

まるで…

「ちょっとびっくりしてただけだ!俺の方がこいつより強ぇってところ見せてやんぜ!」

私は深呼吸する。

そして、魔力を通す事で妖しくも綺麗な紫に輝く刀を再び構える。

妖刀政宗だ。

「いい?まずはあいつの硬くて長い足からへし折るのよ!」

「任せろ!」

私とグレンは同時にシルバージラフに突っ込む。

私は勇者グレンの鼓動を感じる。

「ヒヒーン!」

シルバージラフが首の薙ぎ払いで再び私たちを吹き飛ばそうとする。

「グレン!」

「わかってる!」

私は横薙ぎに合わせて、飛び上がって避ける。
グレンは身を低くして避ける。

「ヒヒーン!?」

シルバージラフは足元まで私たちが来ている事に少しだけ戸惑っている。

「焦がせ!魔法剣ブレイズ!」

私の刀に炎の刃が出来上がる。

「俺の本気を見せてやらぁ!」

グレンの剣に紅蓮の炎が発生する。

「剣技!紅一閃!」
「奥義!大文字!」

私の一閃とグレンの大文字がシルバージラフの鋼鉄の前足にヒットする。

「ヒヒーン!ヒヒヒーン!」

シルバージラフが足に力を入れて押し飛ばそうとする。

「このままぶった斬る!」

私は悲鳴をあげる身体にで無理矢理力を入れながら、シルバージラフの右の前足を切り落とす。

「グレン様はこんな程度じゃやられねぇ!うおらぁ!」

グレンも押し返されまいとする根性だけで力を使い、シルバージラフの左の前足を切り落とす。

「ヒヒーン!」

ドガッシャン!と地響きを鳴らしながら、シルバージラフが倒れる。

「コレでトドメよ!凍てつけ!魔法剣アイシクル!」
「俺の必殺技をくらえー!」

私の全てを凍てつかせる氷の刃とグレンの全てを焦がす様な燃え上がる刃が同時にシルバージラフの首に振り下ろされる!

「世を分かつは我が一太刀よ!我流!半世之太刀はんせのたち!」
「太陽よりも熱い刃が迫り来るぜ!秘伝!煉獄斬れんごくぎりー!」

私の下段からの振り上げとグレンの振り下ろした刃はあっさりと綺麗にシルバージラフの首を斬った。

シルバージラフは首を斬られて動かなくなった。

グレンは口から血を流しながら言う。

「は…はは…ははは!どうだ!俺の力、思い知ったか!」

私は刀をしまいながら言う。

「バカ言うんじゃないの。私が居なかったら、あんた死んでたのよ?全く…オチオチくたばっても居られないじゃない…」

「へへーんだ!マリアが何と言おうと俺の勝ちだもんねー!」

グレンは剣を抜いたままドヤ顔で私を見る。

グレンもだが、私もかなり強くなったように感じる。

多分だけど、私たちはレベルアップしたんだな。

「はいはい。そういう事にしといてあげますよ。今はただ生き残れた事に…」

私の探知に何かがかかる。

「生き残れた事がどうしたんだよ?」

グレンが私の隣に来て言う。

私は刀に手をかける。

グレンはそれを見て剣を構える。

「何か来る…あれは…!」

私は刀から手を離して前方の見覚えのある影に接近する。

「お、おい!」

グレンも慌てた様子で私の後ろをついてくる。

「ゼルシア!」

私は目の前の男に言う。

男は驚いた様子で私たちを見る。

「マリア?!グレンも?!」

私の探知にかかった限りだと、その遥か後方からはヤバそうなオーラを放つモンスターがこちらに向かってきているみたいだ。

私はすぐに二人に言う。

「さすがにあれは今の私たちには無理ですね。」

私たちはシルバージラフを討伐した地点まで走り、そこから右に方向転換をして開けた土地から森の中に隠れる。

ヤバそうなオーラを放つモンスターは地響きを鳴らしながら、ゆっくりと歩いていたが、その巨体の歩幅は非常に大きかった。

巨人族ギガント特有の人間の様な姿をしており、手にはゼルシアが倒した後のギガントバーンの残骸が握られていた。

そいつはギガントバーンを口の中に放り込むと少し先の私たちの倒したシルバージラフを見つける。

「さすがに巨人族だけあって、全てが規格外ですね…」

私は山二ツ分は軽くありそうな巨人族を見る。

シルバージラフやギガントバーンも私たち人間からすると十分に大きいのだが、あの巨人族に至っては口だけでもシルバージラフを軽々と越える大きさなのだ。

前に本で読んだ事があるが、シルバージラフは首も含めると体調は6m以上はある個体が多いのだそう。

ギガントバーンに至っては翼を含めて7mはある大型のモンスターなのだ。

私はこっそりと自分に防塵防臭の魔法を使う。

巨人族が私たちの目の前のシルバージラフをヒョイと持ち上げるとそのまま口の中に放りこんだ。

「うえっ…吐きそう…」

巨人族が近くにいる為、グレンが強烈な臭いに吐き気を催す。

「いや、汚ぇから吐くならあっちで吐けよ!」

ゼルシアがめちゃくちゃ嫌がっていた。

私はゆっくりと歩く背中を見ているとあの巨人族が遠くで生きているモンスターを食べていた。

さすがにシルバージラフやギガントバーンほどの大きさではなかったが、それでも遠目で見るだけで4mほどはあるような大きなクマだった。

巨人族はクマが威嚇した隙に手で捕まえて、そのまま暴れるクマを口の中に放り込んでいた。

これも自然の摂理とは言え、見るに堪えないものだった。

「あいつにだけは見つからないようにしないといけないな…間違っても戦っちゃいけねぇ…近寄るだけでもくせぇし、そのうえあんなくせぇのに食われるとか地獄の方がマシなレベルだぜ…」

ゼルシアは明らかに嫌悪感を抱いていた。

「でも、あいつ、巨人族の割に大きすぎじゃないありません?もしかしたら、固有個体なんでしょうか…」

「確かにいくら巨人族とは言え、あそこまでデカイのはそうそう居ねぇな…だが、あいつは固有個体じゃねぇと思うぜ。稀にだが、同族をも食らうような悪食の巨人族が生まれて、周囲の生き物を生死問わず全て喰らい尽くしながらどんどんデカくなるやつが居るんだ。あれはそう言った個体だと思うな。だが、寿命は短いらしいから、そのうち死ぬと思うぜ。」

なんでも無尽蔵に大きくなり過ぎてエネルギーが不足し、身体を維持出来なくなって死ぬらしい。

デカ過ぎるのも考えもののようだ。

またそう言った固体が現れるのは数の多い群れの中で現れやすく、ほぼ全ての巨人族はいとも容易く食べられてしまうようだ。

「知れば知るほど、謎は深まるばかりですね。悪い事が起こらなければ良いのですが…」

そうして、私たちは周囲を散策しながら、B級モンスターのビッグラヴィトやフォレストベアを狩って、夕飯の食材狩りをしていた。

時々、木になっているベリー系の木の実や野生の野菜の群生地で野菜を沢山とったりして、当分の間は困らないであろう量の食料を手に入れた。

幸いにも冒険者のバッグには時空間魔法がかかっており、中は見た目以上に広く、おおよそ山一つ分は入るようになっているうえに時間停止の効果もあるから、冒険者にはもちろん、街の主婦たちにも欠かせないアイテムなのだ。

まあ、街の主婦たちと言っても、相当名の知れた貴族の産まれのものでも無ければ持ってないんだけどね。

それでも冒険者のバッグと違って、容量は馬車馬一台分くらいだし、時間停止の効果は無いそうだ。

そうこう考えているうちにゼルシアが少し苔の生えた岩の前で立ち止まる。

「この中を土魔法で掘って認識阻害魔法をかければ安全に暮らせそうだな…」

私は岩に手を当てて土魔法を使う。

「ここはこうして…ここはこうかな?」

そして、地下空間に続く道が岩の中に出来る。

地下は外の景色はどうでもいい人用に少しだけ広めに作ったのだ。

ただし、中から見れば空が見えるように外からは何も見えない特殊な魔法をかけたガラスで上を開けているけどね。

まあ、岩の大きさも部屋2つ分くらいしか無かったからね。

私は風通しが良いのが好きなので、地下にいても風を感じられる様に弱めの風魔法で全体に風が行き渡るようにしている。

「さってと…これで一先ずの拠点は完成ですね。後は各自で部屋を決めていいですよ。」

ゼルシア達が入った瞬間に周囲に隠蔽魔法をかける。

「これで少しは安心出来るかな?」

生活魔法や水魔法を駆使して、自室にお風呂場も作成する。

もちろん、これはあくまで私専用なので、男性の二人には自分たちで何とかしてもらう事にする。

「これから楽しい楽しい地獄のサバイバル生活が始まるのね…」

こうして、私たちのサバイバル生活は幕を開ける事となったのである。
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