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漣の少女
37話
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「…終わり?」
リリアが纏っていた覇気を放って土煙を吹き飛ばす。
「そんな…どうして?完璧にぶっ殺したはず…」
リリーフィルが明らかな動揺をみせる。
それもそのはず、エーテルバーストは全ての魔法の中で最も難しく、最も消費魔力が大きく、最も攻撃力のあるまさに最強の魔法なのだ。
それを覇気を纏っていたとは言え、まともに受けて傷一つなく立っているリリアが異質な存在に見えるのも頷ける。
それどころか、ずっと傍で成長を見てきたアリスから見てもリリアのあまりに早過ぎる成長速度に異質なものを感じていた。
「…つまんない。」
リリアは言葉通りに心底つまらなそうに言うとそのまま一瞬でリリーフィルの懐に移動し、腹部への左ストレートからの顔への右ストレートでリリーフィルを戦闘不能にさせる。
リリーフィルは戦意喪失した様子ではあったが、腫れ上がった顔で地に伏したまま悔しそうにリリアを睨みつけていた。
リリアは軽く自分を癒してリリーフィルに言う。
「アリスへの思いなら負けない…リリアはその思いだけでここまで来たもの…」
リリアはリリーフィルの身体を完全に回復させる。
リリーフィルは自身の怪我も全て戦いが始まる前と同じ様に完治している事に気づく。
「…何をやっているのです?」
リリーフィルが訝しげにリリアを見る。
「…?怪我…治した…」
リリアが首を傾げながら当然の様に言う。
リリーフィルはよろめきながら身体を持ち上げ、膝を立ててリリアに言う。
「アナタ、先程までの私の態度をお忘れで?あんなに酷い言い草して、さらには本気で殺そうとしてきた相手の怪我を治して…私がまたアナタを殺そうとしないとは限らないでしょう?」
リリアは気にする様子もなく言う。
「貴方はそこまで愚かじゃない…」
リリーフィルはリリアの言葉にショックを受けたように俯き涙を流す。
「フフッ…完敗ね…実力も心も…何もかも…一時の嫉妬に身を任せて、アリスお姉様の仲間を殺そうとして…本当に私って、バカな女ね…そんな事に意味なんて無いのに…」
リリアはリリーフィルの顔を両手で上げさせると目線を合わせて、持っていたハンカチでリリーフィルの涙を拭く。
「間違いは誰にでもある…貴方は間違いに気づいた…大事なのはこれから何をするか…」
リリーフィルはポツリとこぼす。
「お人好しね…」
リリーフィルはそのまま立ち上がって茉莉の元へ歩く。
リリアはそっと私の隣に戻ってきていた。
「さっきは酷い態度をとってごめんなさい…」
リリーフィルが頭を下げると茉莉が楽しそうに笑う。
「あはは!そんなの今更気にしなくて良いのに律儀だねぇ!」
茉莉はリリーフィルの頭をヨシヨシと撫でて言う。
「茉莉も売り言葉に買い言葉でごめんね?これからはアリスの仲間同士、仲良くしましょ!」
リリーフィルは勢いよく顔をあげて言う。
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「あはは!元気でよろしい。」
リリーフィルはリリアの方に向かう。
「貴方にも謝らないといけませんね。散々、平民のくせにとか侮辱して、あんなに横暴な態度をとったんだもの…許してもらえるとは思わないけど…」
リリーフィルは頭を下げる。
「本当にごめんなさい!」
「気にしない…」
リリアは少しだけ優しげに微笑む。
「一時はどうなるかと思ったけど、和解出来たみたいで良かったよ…」
思わず私がそう言うと茉莉が楽しそうに笑う。
「うん…良かった…」
リリアはボソッとそう言う。
「アリスお姉様にも謝らないといけませんね。大切なアリスお姉様の仲間に対して酷い態度や酷い言葉を言ってしまいました。ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした!」
リリーフィルが頭を下げて謝罪する。
「まあまあ、頭を上げてよ。ちゃんと和解出来たんだからさ。」
リリーフィルが頭を上げると、その瞳にキラキラとした笑顔が映る。
「おーい!こっちは避難がおわ…って、なんだなんだ?なんか、良い感じの雰囲気じゃないか」
カレンはそう言うと近くに放置されていたヘルグレアの死体を見て、目を丸くしていた。
「カレンさん、被害は出てる?」
「いや、幸いにも軽い怪我をしたやつがちらほら居るだけだな。あの野郎が手抜きしてたのと、リリアやお前たち三人のおかげだ!礼を言う。」
リリアは首を傾げながら言う。
「リリア…そんなに役に立ったかな…」
カレンは嬉しそうに頷きながら言う。
「もちろんだ!リリアが居なければ、皆死んでたかもしれねぇからな!あの時、お前が炎を無力化してくれなれば、骨すら残ってなかっただろうと思うとゾッとするぜ。」
「そう…」
リリアはそれだけを言うと少し嬉しそうに私の後ろで小さく鼻歌を歌っていた。
「あ、そうだ。報告が遅れたが、私たちの担当の候補隊は街に帰還させておいたぜ。合否は後で伝えると言ってあるが、合格で良いよな?」
カレンが思い出したように私に言う。
リリアが私の顔を見る。
茉莉は特に何も言うこと無く、暇そうにヘルグレアの解体をしていた。
「はい。合格でよいかとおm…」
(どごおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
突然、近くでとてつもない轟音が響き渡る。
それと同時に全身に針が刺さった冥王獣へルビーストが遥か彼方から飛ばされてきて、大地を揺らす。
目が開かれて、身体をビクビクとさせていた。
私はあの針に何かあると思い、針を鑑定する。
「これは…!」
別名、終焉をもたらす針の王とも呼ばれるインフィニティニードルの針だった。
インフィニティニードルは大災害級モンスターLv.5に分類される大災害級モンスターの中でも特に別格の扱いを受けるほどの強さを誇る龍種モンスターで体長はおよそ20~30m程であり、龍種だとされていながらも見た目は尻尾以外は大きい蛇って感じのモンスターなのだ。
尻尾にはおびただしい量の針が生えており、この針はダイヤモンドより硬いオリハルコンですら、簡単に貫く程の鋭さを持っており、さらには即効性のある強力な麻痺毒があり、刺されば最後、麻痺で動けない中、ただただ呑まれるのを待つ身になると言われている。
さらには触れれば一瞬で身体が溶けてしまうほどの強力な酸の息を扱う事もあり、討伐するにはかなりおおががりな兵器を総動員させなければならないとされるほどに討伐難易度も高かった。
「嘘だろ…あの冥王獣が…こんなアッサリと…」
カレンが絶望の表情を浮かべる。
「アリスさん、これはインフィニティニードルの仕業ですよね?」
茉莉が解体後のヘルグレアの処理を止めて、真剣な表情をして言う。
「そうだね…これはこのまま撤退した方が良いかも…この辺から離れてくれるまでは絶対に門の外に出られなくなるし、内側に居ても殺される可能性すらあるわね。」
私がそう言うとリリーフィルが何かを感じた様子で言う。
「危険感知…皆さん、すぐに逃げましょう!インフィニティニードルがこちらに来てます!」
私たちは即断で門の方へと走って逃げる。
「あっ…」
リリアが躓いて転ける。
私はリリアを助け起こす為にリリアのところまで戻る。
「アリス…」
私は後ろで冥王獣がインフィニティニードルに呑み込まれるのを見てしまった。
「やば…」
そう思った時にはもう遅かった。
インフィニティニードルは私とリリアを見つけると針を飛ばす体勢に入る。
そのまま無数の針を飛ばされて、絶体絶命の状況で死を覚悟したその時だった。
「穿て!フェイルノート!」
無数の白い魔力の矢が私たちを護りながら、インフィニティニードルを襲う。
インフィニティニードルはその矢に驚いたのかすぐに逃げ出した。
「ふぅ…危なかったですね。」
アメジストの様に美しい紫色の長髪の輝く様な白色の長いスリットのあるドレス姿の白銀の弓を持った少女が現れる。
少女が持っているのは白神弓フェイルノートであり、白魔法と言う特殊な魔法を操れる様になる魔力を有しており、白い矢を発射する。
さらには悪魔等の魔性生物に対する特攻が極大クラスである。
世界樹の神が作った武具としては珍しく、2つの対になる存在を総称したものがフェイルノートであり、その存在は二人のヒトをさしており、その存在が神弓フェイルノートなのである。
もう片方は黒神弓フェイルノートと呼ばれている。
こちらは白神弓とは違い、黒属性と言う正体不明の魔力を有しており、黒い矢を発射する。
この世界で一般的に知られるフェイルノートの伝承は白神弓フェイルノートの事であり、もう一つの黒神弓の伝承についてはアルフェノーツの神弓の後継者となる者にのみ伝承が伝えられていると言う非常に謎の多い武器なのだ。
もちろん、私もアルフェノーツの名を持つ通りに黒神弓の後継者として、黒神弓の伝承を教わった。
「お二人ともお怪我はありませんでしたか?」
少女は優しく微笑みながらリリアに手を差し伸べる。
リリアは少女の手を取って立ち上がる。
「あの…ありがとう…ございます…」
リリアが手をモジモジとさせながら言う。
「いえいえ、お二人がご無事なら良いのですよ。」
少女が私の顔をマジマジと見る。
「あ、あの…」
私が困惑しながら言うと少女は「ハッ」とした様子で言う。
「す、すみません!私の家族に似てたもので…」
少女が目を逸らしながら、頬を掻く。
私が知っている人にも心当たりのある人物がいる。
「あの…もしかしてなんですけど、アイフェットお姉様だったりしますか?」
少女は驚いた表情で私を見る。
「もしかして、貴方、アリスちゃん?!」
私たちは互いに互いを見る。
「アリスちゃん…立派になりましたね!」
「アリスもアイフェットお姉様も冒険者をやっていらしたなんて驚いたよ!」
私たちは数年ぶりに姉妹が再開した事を喜び合う。
「ところでアリスちゃん、そちらの娘はどなたですの?」
アイフェットがリリアを見て言う。
「この子はリリアだよ!私がリーダーのパーティーの一人で今は依頼で別行動してるんだけど、他にもマリアとかクレアみたいに何人か居るんだよ!」
私がそう言うとアイフェットは嬉しそうに言う。
「まあ!アリスちゃんがパーティーリーダーだなんて凄いですね!皆で暮らしてた時のアリスちゃんからだと想像出来ないくらい成長しましたね。」
「えっへへ…恥ずかしいや…」
「うふふ…そうですね。」
アイフェットは私の後ろで隠れてるリリアに言う。
「リリアちゃん、はじめまして!私はアリスの姉、アイフェットです。姉妹ともどもよろしくお願いしますね。」
アイフェットの天使の様な微笑みにリリアも思わずつられて微笑む。
「リリアです…よろしく…お願いします…」
私たちはインフィニティニードルが戻ってこないうちに速やかに門に帰還する。
カレンが驚いた様子でアイフェットを見る。
「ア、アイフェット大隊長様?!なぜこんなところにいらっしゃるのです?」
「あら?カレンもいらっしゃったのですね。私は大災害級モンスターの気配を感じて来たのですよ。」
アイフェットは少し困った様子で言う。
「アイフェットお姉様、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」
私が改まって言うとアイフェットを含めた全員が私を見る。
「こう言う時のアリスちゃんはとても重大な事を言いますから、少し場所を変えましょうか。」
私達は砦の中の会議室を借りる。
全員が移動し終わって、落ち着いたところで私は言う。
「確証が取れるまでは余計な騒ぎにならない様にと思い黙っていたのですが、現在、この世界で邪神が復活しているみたいです。お父s…じゃなくて、妖精王様も同じ事をおっしゃられていた事ですので、情報としては間違いないかと思われます。既に私も大災害級クラスの力を持った数体の強化された災害級モンスターと遭遇しており、こちらも証明となるかと思われます。」
私がそう言うとリリアとアイフェット以外の全員が驚いた声をあげる。
「アリスちゃん、情報ありがとうございます。私たちの方でも調査はしていたのですが、原因が分からずでしたので、とても助かります。邪神が復活したとなれば、ここ最近の異常なまでの大災害級モンスターの発生も頷けます。本来であれば、早くても数百年周期でしか出ないはずのモンスターがここ数ヶ月で20件以上の報告がありましたし、数十年周期でしか発生しないとされている強化個体の発生もかなりの頻度で報告されています。その為、邪神だけでなく魔神もいるかもしれません。急ぎ、国王様に報告をし、対策を練りましょう。」
アイフェットはそう言うと一緒にいた自らの部下たちに速やかに指示を出す。
アイフェットは騎士隊候補の面々を見る。
「今は私から貴方たちに出せる指示はありません。でも、焦らなくても大丈夫ですよ。必ず貴方たちの力も必要となります。それまでに日々の鍛錬を忘れず、もっと力をつけておいてください。か弱き民を護るのが国防騎士隊の役目です。モンスターの討伐は専門家である冒険者に任せなさい。」
アイフェットがカレンに言う。
「カレンさん、この子たちのお世話は貴方に任せます。後輩を立派な騎士に育てる重要な役目です。出来ますね?」
カレンは敬礼をして言う。
「ハッ!おまかせください!国防騎士隊特別隊の名に恥じぬよう、全力で育ててまいります!」
カレンはそう言うと候補生達を正式に国防騎士隊に入隊させる為の手続きをする為に候補生達と共に騎士隊の基地に帰る。
最後にアイフェットが私たちを見る。
「アリスちゃん、邪神の事を国王様に報告する為に力を貸してもらえませんか?もちろん、報酬は弾みますよ。」
リリアは相変わらず私の顔を見ていた。
「当然だよ!大好きなお姉様の頼みだもの、報酬が無くても力を貸すよ!」
私がそう言うと、アイフェットは嬉しそうに言う。
「ありがとうございます。では、早速行きましょう!」
私たちは国王に会いに行くためにお城へ向かう。
リリアが纏っていた覇気を放って土煙を吹き飛ばす。
「そんな…どうして?完璧にぶっ殺したはず…」
リリーフィルが明らかな動揺をみせる。
それもそのはず、エーテルバーストは全ての魔法の中で最も難しく、最も消費魔力が大きく、最も攻撃力のあるまさに最強の魔法なのだ。
それを覇気を纏っていたとは言え、まともに受けて傷一つなく立っているリリアが異質な存在に見えるのも頷ける。
それどころか、ずっと傍で成長を見てきたアリスから見てもリリアのあまりに早過ぎる成長速度に異質なものを感じていた。
「…つまんない。」
リリアは言葉通りに心底つまらなそうに言うとそのまま一瞬でリリーフィルの懐に移動し、腹部への左ストレートからの顔への右ストレートでリリーフィルを戦闘不能にさせる。
リリーフィルは戦意喪失した様子ではあったが、腫れ上がった顔で地に伏したまま悔しそうにリリアを睨みつけていた。
リリアは軽く自分を癒してリリーフィルに言う。
「アリスへの思いなら負けない…リリアはその思いだけでここまで来たもの…」
リリアはリリーフィルの身体を完全に回復させる。
リリーフィルは自身の怪我も全て戦いが始まる前と同じ様に完治している事に気づく。
「…何をやっているのです?」
リリーフィルが訝しげにリリアを見る。
「…?怪我…治した…」
リリアが首を傾げながら当然の様に言う。
リリーフィルはよろめきながら身体を持ち上げ、膝を立ててリリアに言う。
「アナタ、先程までの私の態度をお忘れで?あんなに酷い言い草して、さらには本気で殺そうとしてきた相手の怪我を治して…私がまたアナタを殺そうとしないとは限らないでしょう?」
リリアは気にする様子もなく言う。
「貴方はそこまで愚かじゃない…」
リリーフィルはリリアの言葉にショックを受けたように俯き涙を流す。
「フフッ…完敗ね…実力も心も…何もかも…一時の嫉妬に身を任せて、アリスお姉様の仲間を殺そうとして…本当に私って、バカな女ね…そんな事に意味なんて無いのに…」
リリアはリリーフィルの顔を両手で上げさせると目線を合わせて、持っていたハンカチでリリーフィルの涙を拭く。
「間違いは誰にでもある…貴方は間違いに気づいた…大事なのはこれから何をするか…」
リリーフィルはポツリとこぼす。
「お人好しね…」
リリーフィルはそのまま立ち上がって茉莉の元へ歩く。
リリアはそっと私の隣に戻ってきていた。
「さっきは酷い態度をとってごめんなさい…」
リリーフィルが頭を下げると茉莉が楽しそうに笑う。
「あはは!そんなの今更気にしなくて良いのに律儀だねぇ!」
茉莉はリリーフィルの頭をヨシヨシと撫でて言う。
「茉莉も売り言葉に買い言葉でごめんね?これからはアリスの仲間同士、仲良くしましょ!」
リリーフィルは勢いよく顔をあげて言う。
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「あはは!元気でよろしい。」
リリーフィルはリリアの方に向かう。
「貴方にも謝らないといけませんね。散々、平民のくせにとか侮辱して、あんなに横暴な態度をとったんだもの…許してもらえるとは思わないけど…」
リリーフィルは頭を下げる。
「本当にごめんなさい!」
「気にしない…」
リリアは少しだけ優しげに微笑む。
「一時はどうなるかと思ったけど、和解出来たみたいで良かったよ…」
思わず私がそう言うと茉莉が楽しそうに笑う。
「うん…良かった…」
リリアはボソッとそう言う。
「アリスお姉様にも謝らないといけませんね。大切なアリスお姉様の仲間に対して酷い態度や酷い言葉を言ってしまいました。ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした!」
リリーフィルが頭を下げて謝罪する。
「まあまあ、頭を上げてよ。ちゃんと和解出来たんだからさ。」
リリーフィルが頭を上げると、その瞳にキラキラとした笑顔が映る。
「おーい!こっちは避難がおわ…って、なんだなんだ?なんか、良い感じの雰囲気じゃないか」
カレンはそう言うと近くに放置されていたヘルグレアの死体を見て、目を丸くしていた。
「カレンさん、被害は出てる?」
「いや、幸いにも軽い怪我をしたやつがちらほら居るだけだな。あの野郎が手抜きしてたのと、リリアやお前たち三人のおかげだ!礼を言う。」
リリアは首を傾げながら言う。
「リリア…そんなに役に立ったかな…」
カレンは嬉しそうに頷きながら言う。
「もちろんだ!リリアが居なければ、皆死んでたかもしれねぇからな!あの時、お前が炎を無力化してくれなれば、骨すら残ってなかっただろうと思うとゾッとするぜ。」
「そう…」
リリアはそれだけを言うと少し嬉しそうに私の後ろで小さく鼻歌を歌っていた。
「あ、そうだ。報告が遅れたが、私たちの担当の候補隊は街に帰還させておいたぜ。合否は後で伝えると言ってあるが、合格で良いよな?」
カレンが思い出したように私に言う。
リリアが私の顔を見る。
茉莉は特に何も言うこと無く、暇そうにヘルグレアの解体をしていた。
「はい。合格でよいかとおm…」
(どごおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
突然、近くでとてつもない轟音が響き渡る。
それと同時に全身に針が刺さった冥王獣へルビーストが遥か彼方から飛ばされてきて、大地を揺らす。
目が開かれて、身体をビクビクとさせていた。
私はあの針に何かあると思い、針を鑑定する。
「これは…!」
別名、終焉をもたらす針の王とも呼ばれるインフィニティニードルの針だった。
インフィニティニードルは大災害級モンスターLv.5に分類される大災害級モンスターの中でも特に別格の扱いを受けるほどの強さを誇る龍種モンスターで体長はおよそ20~30m程であり、龍種だとされていながらも見た目は尻尾以外は大きい蛇って感じのモンスターなのだ。
尻尾にはおびただしい量の針が生えており、この針はダイヤモンドより硬いオリハルコンですら、簡単に貫く程の鋭さを持っており、さらには即効性のある強力な麻痺毒があり、刺されば最後、麻痺で動けない中、ただただ呑まれるのを待つ身になると言われている。
さらには触れれば一瞬で身体が溶けてしまうほどの強力な酸の息を扱う事もあり、討伐するにはかなりおおががりな兵器を総動員させなければならないとされるほどに討伐難易度も高かった。
「嘘だろ…あの冥王獣が…こんなアッサリと…」
カレンが絶望の表情を浮かべる。
「アリスさん、これはインフィニティニードルの仕業ですよね?」
茉莉が解体後のヘルグレアの処理を止めて、真剣な表情をして言う。
「そうだね…これはこのまま撤退した方が良いかも…この辺から離れてくれるまでは絶対に門の外に出られなくなるし、内側に居ても殺される可能性すらあるわね。」
私がそう言うとリリーフィルが何かを感じた様子で言う。
「危険感知…皆さん、すぐに逃げましょう!インフィニティニードルがこちらに来てます!」
私たちは即断で門の方へと走って逃げる。
「あっ…」
リリアが躓いて転ける。
私はリリアを助け起こす為にリリアのところまで戻る。
「アリス…」
私は後ろで冥王獣がインフィニティニードルに呑み込まれるのを見てしまった。
「やば…」
そう思った時にはもう遅かった。
インフィニティニードルは私とリリアを見つけると針を飛ばす体勢に入る。
そのまま無数の針を飛ばされて、絶体絶命の状況で死を覚悟したその時だった。
「穿て!フェイルノート!」
無数の白い魔力の矢が私たちを護りながら、インフィニティニードルを襲う。
インフィニティニードルはその矢に驚いたのかすぐに逃げ出した。
「ふぅ…危なかったですね。」
アメジストの様に美しい紫色の長髪の輝く様な白色の長いスリットのあるドレス姿の白銀の弓を持った少女が現れる。
少女が持っているのは白神弓フェイルノートであり、白魔法と言う特殊な魔法を操れる様になる魔力を有しており、白い矢を発射する。
さらには悪魔等の魔性生物に対する特攻が極大クラスである。
世界樹の神が作った武具としては珍しく、2つの対になる存在を総称したものがフェイルノートであり、その存在は二人のヒトをさしており、その存在が神弓フェイルノートなのである。
もう片方は黒神弓フェイルノートと呼ばれている。
こちらは白神弓とは違い、黒属性と言う正体不明の魔力を有しており、黒い矢を発射する。
この世界で一般的に知られるフェイルノートの伝承は白神弓フェイルノートの事であり、もう一つの黒神弓の伝承についてはアルフェノーツの神弓の後継者となる者にのみ伝承が伝えられていると言う非常に謎の多い武器なのだ。
もちろん、私もアルフェノーツの名を持つ通りに黒神弓の後継者として、黒神弓の伝承を教わった。
「お二人ともお怪我はありませんでしたか?」
少女は優しく微笑みながらリリアに手を差し伸べる。
リリアは少女の手を取って立ち上がる。
「あの…ありがとう…ございます…」
リリアが手をモジモジとさせながら言う。
「いえいえ、お二人がご無事なら良いのですよ。」
少女が私の顔をマジマジと見る。
「あ、あの…」
私が困惑しながら言うと少女は「ハッ」とした様子で言う。
「す、すみません!私の家族に似てたもので…」
少女が目を逸らしながら、頬を掻く。
私が知っている人にも心当たりのある人物がいる。
「あの…もしかしてなんですけど、アイフェットお姉様だったりしますか?」
少女は驚いた表情で私を見る。
「もしかして、貴方、アリスちゃん?!」
私たちは互いに互いを見る。
「アリスちゃん…立派になりましたね!」
「アリスもアイフェットお姉様も冒険者をやっていらしたなんて驚いたよ!」
私たちは数年ぶりに姉妹が再開した事を喜び合う。
「ところでアリスちゃん、そちらの娘はどなたですの?」
アイフェットがリリアを見て言う。
「この子はリリアだよ!私がリーダーのパーティーの一人で今は依頼で別行動してるんだけど、他にもマリアとかクレアみたいに何人か居るんだよ!」
私がそう言うとアイフェットは嬉しそうに言う。
「まあ!アリスちゃんがパーティーリーダーだなんて凄いですね!皆で暮らしてた時のアリスちゃんからだと想像出来ないくらい成長しましたね。」
「えっへへ…恥ずかしいや…」
「うふふ…そうですね。」
アイフェットは私の後ろで隠れてるリリアに言う。
「リリアちゃん、はじめまして!私はアリスの姉、アイフェットです。姉妹ともどもよろしくお願いしますね。」
アイフェットの天使の様な微笑みにリリアも思わずつられて微笑む。
「リリアです…よろしく…お願いします…」
私たちはインフィニティニードルが戻ってこないうちに速やかに門に帰還する。
カレンが驚いた様子でアイフェットを見る。
「ア、アイフェット大隊長様?!なぜこんなところにいらっしゃるのです?」
「あら?カレンもいらっしゃったのですね。私は大災害級モンスターの気配を感じて来たのですよ。」
アイフェットは少し困った様子で言う。
「アイフェットお姉様、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」
私が改まって言うとアイフェットを含めた全員が私を見る。
「こう言う時のアリスちゃんはとても重大な事を言いますから、少し場所を変えましょうか。」
私達は砦の中の会議室を借りる。
全員が移動し終わって、落ち着いたところで私は言う。
「確証が取れるまでは余計な騒ぎにならない様にと思い黙っていたのですが、現在、この世界で邪神が復活しているみたいです。お父s…じゃなくて、妖精王様も同じ事をおっしゃられていた事ですので、情報としては間違いないかと思われます。既に私も大災害級クラスの力を持った数体の強化された災害級モンスターと遭遇しており、こちらも証明となるかと思われます。」
私がそう言うとリリアとアイフェット以外の全員が驚いた声をあげる。
「アリスちゃん、情報ありがとうございます。私たちの方でも調査はしていたのですが、原因が分からずでしたので、とても助かります。邪神が復活したとなれば、ここ最近の異常なまでの大災害級モンスターの発生も頷けます。本来であれば、早くても数百年周期でしか出ないはずのモンスターがここ数ヶ月で20件以上の報告がありましたし、数十年周期でしか発生しないとされている強化個体の発生もかなりの頻度で報告されています。その為、邪神だけでなく魔神もいるかもしれません。急ぎ、国王様に報告をし、対策を練りましょう。」
アイフェットはそう言うと一緒にいた自らの部下たちに速やかに指示を出す。
アイフェットは騎士隊候補の面々を見る。
「今は私から貴方たちに出せる指示はありません。でも、焦らなくても大丈夫ですよ。必ず貴方たちの力も必要となります。それまでに日々の鍛錬を忘れず、もっと力をつけておいてください。か弱き民を護るのが国防騎士隊の役目です。モンスターの討伐は専門家である冒険者に任せなさい。」
アイフェットがカレンに言う。
「カレンさん、この子たちのお世話は貴方に任せます。後輩を立派な騎士に育てる重要な役目です。出来ますね?」
カレンは敬礼をして言う。
「ハッ!おまかせください!国防騎士隊特別隊の名に恥じぬよう、全力で育ててまいります!」
カレンはそう言うと候補生達を正式に国防騎士隊に入隊させる為の手続きをする為に候補生達と共に騎士隊の基地に帰る。
最後にアイフェットが私たちを見る。
「アリスちゃん、邪神の事を国王様に報告する為に力を貸してもらえませんか?もちろん、報酬は弾みますよ。」
リリアは相変わらず私の顔を見ていた。
「当然だよ!大好きなお姉様の頼みだもの、報酬が無くても力を貸すよ!」
私がそう言うと、アイフェットは嬉しそうに言う。
「ありがとうございます。では、早速行きましょう!」
私たちは国王に会いに行くためにお城へ向かう。
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帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
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異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
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とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
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