美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい

戌葉

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3年目 スフラル編

4. 入団試験の違い

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 屋台でチョモを堪能した翌朝、昨夜参加していた冒険者と騎士さん二人がギルドに集まっている。手に入れた薬草の分配について、前回も行った通称「契約」と呼ばれているけれど契約魔法は使わない約束をギルド職員立会いのもとでして、このまま山へと向かう。

「私たちも連れていってもらえませんか?」
「荷物を持ちますので、お願いします!」
「悪いが今回はなしだ。また今度な」
「迷惑はかけないのでお願いします!」

 いろんなグループが一緒に連れていってくれと売り込んでくるので、ギルドでちょっとした騒動になっている。
 二年前は初心者チームを一緒に連れていって指導したし、オレたちはどっちでもいいんだけど、今回はベテランだけで行くことになっている。そう説明しているのに、いろんなチームが必死に食い下がっている。

「昨日断っていったん引き下がったんだよ。だけど騎士様も一緒に行くと知って、朝からみんなすげー必死なんだ」
「昨日は初心者ばっかりだったんだが、今日は中堅ランクが多いな」

 目当ては現役騎士様らしい。なるほど。騎士と伝手を作るチャンスなんてめったにないからね。もしかして、騎士様に目をかけられたら、騎士団に入れてもらえるとかあるのかな。

『騎士の推薦で騎士になることってあるの?』
「オルデキアではないな。入団試験を勧めることはあるが、試験を飛ばして入れることはない」
「もしかして騎士の入団試験の話か?」
「ああ。この国では騎士の推薦で騎士になれるのか?」
「なれるぞ。詳しいことは現役の騎士様に聞けよ。せっかくいるんだし」

 そうなんだけど、オレに遠慮しているのか、騎士さんが近寄ってこないんだよ。
 昨夜の屋台で、ウィオと騎士さんで話して、お互い冒険者として参加するってことで合意したのだ。だから普通に接してほしいんだけど、なんとなく避けられている。
 冒険者の「たいちょー、銀のが騎士団の入団試験について聞きたいらしいですよ」という呼びかけに、さすがに逃げ切れないと思ったのか、騎士さんが寄ってきてくれた。
 この騎士さん、部下から隊長と呼ばれているので、冒険者たちからも「隊長」と呼ばれている。部下は「弓使い」だ。
 冒険者たちは、目につく特徴で呼び合うことが多い。一時的に複数グループで組んで行動するときなどに、いちいち名前を覚えていられないので、そういう習慣になったらしい。だからウィオは「銀」とか「銀の」と呼ばれ、オレはまんま「狐」だ。他に狐がいないから、それで十分オレのことだと分かる。

「入団試験は、年に二回行われる。参加するには現役の騎士か、引退した騎士の推薦が必要だ。オルデキアは違うのか?」
「誰でも受けられる」
「所属部隊も自由なのか?」
「第三まであって、第一は貴族のみだ。新人はだいたい街中の警備の第二に配属される」

 騎士団の詳しいことは国防の観点から機密情報だけど、今二人が話しているのは公開されている情報で誰でも知っていることだから、他の国の人に話しても問題ないそうだ。
 この国では、騎士の入団試験を受けたい人は、引退した騎士に指導を受けて推薦してもらうのが一般的らしい。きっとその指導者になるのが引退した騎士のセカンドキャリアなんだな。その指導を受けるにはお金がかかるから、この騎士さんたちに能力を売り込んで推薦を取り付けたい冒険者が必死になっているらしい。

 間口を広くとっているオルデキアのほうが優秀な人材を集めることができる気もするけど、元騎士の指導を受けているスフラルのほうが騎士の育成に時間とお金がかからない。スフラルは小さな国だから、元騎士が野にいる優秀な人を拾い上げることができて、取りこぼしが少ないのかもしれない。

「推薦はしないのか」
「冒険者の治癒術師に、騎士団の医務官を紹介したことはある」

 治癒術師ってところで、騎士さんがオレを見た。フェゴの王子様が、オレが治癒魔法が使えるのは広く知られているって言ってたから、この騎士さんも知っているんだろう。でも去年の春にオルデキア南部で出会ったあの新人治癒術師くんに、オレは関わっていない。
 あの治癒術師くんは、護衛依頼で王都に戻ったときに、ウィオの渡した紹介状を持って騎士団を訪ねたそうだ。去年の冬にオルデキアに帰ったときに教えてもらった。本人は騎士団の医務官になることに前向きだけど、せっかく新米冒険者として面倒を見てもらえる環境にあるので、しばらく冒険者として修行することになっている。後方支援だけど遠征についていくこともあるので、冒険者としての経験が役に立つ場面もあるだろう。騎士団に入るとポーションを作ったりと敷地から出ない勉強と訓練が中心になるので、貴重な治癒術師をゆっくり育てていく方針だそうだ。
 そしてあの幼馴染の剣士の女の子も、騎士を目指している。こっちは治癒術師くんの付き添いで騎士団に行ったところで、女性騎士が足りないからと熱心に勧誘されたのだ。王族の女性の警護で女性騎士の需要はあるのに、なり手がいなくて困っているらしい。騎士って男社会だから、その中に入るのは大変だろうなあ。
 騎士団に入る入らないにかかわらず、若い才能はつぶされずに育ってほしいね。

 そんな国による騎士団の入団試験の違いを話している間に、契約と参加希望者の追い払いは済んでいた。ギルド長が出てきて「これ以上しつこくすると降格させる」という最終兵器をちらつかせたので、みんな大人しく引き下がった。そういえば、ここのギルド長、オレの正体知ってたね。硬い表情でちらちらとオレを見ているけど、こんなことで怒ったりしないから。
 騎士さんもギルド長の視線に気付いて苦笑している。もしかして、騎士さんが同行することになったのは、ギルド長の意向だったりするのかな。
 そういえば、オレたちに強引に依頼を受けさせた受付が見当たらないから、辞めさせられたのかもしれないな。

 そのとき、騒々しいギルドの扉が開いて、いい香りが漂ってきた。

「ファラと焼きチョモ、買ってきたぞー」
「狐、お待ちかねのものが届いたぞ」
『キャン!』
「狐の分はこれと、これがタレなしの焼きチョモだな」

 昨日の宴会中に、今日からのご飯を注文してくれて、今朝代表がまとめて受け取りに行くことになっていたんだけど、それが届いた。二年前にも山に持っていった豆のパンだけじゃなく、ちびチョモを焼いて「焼きちびチョモ」も作ってもらったのだ。
 わーい、ありがとう。ウィオ、リュックに詰めてください!

「狐、チョモを背負ってんのか」
「本当に好きなんだなあ」
『キュオーン』

 遠吠えしちゃうくらい好きだよ。美味しいご飯が食べられるって、幸せだね。
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