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幸せにしたい人(2)

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「恋の相談に乗ってほしいの。その……エリック様のことなんだけれど……」

 ポッと顔を染めるシンデレラにソフィーは張り詰めていた緊張感が中途半端に解けて困惑した。
 エリック、とはシンデレラの夫であり、王太子の名だ。

 口端をひくつかせる義姉の反応は気にせず、義妹は可憐な声で王太子との結婚生活について語る。
 それはもう、一部始終を陰からこっそり覗いていたとは言えない舞踏会でダンスを踊ったところから始まり、初めてのハグやキスともう赤裸々に。友人と呼べる間柄の令嬢が皆無だったソフィーだが、まさか初めての恋愛相談が王太子妃になった義妹からだとは思ってもみなかった。
 聞いているソフィーが気恥ずかしさから指先を膝の上で弄ってしまう。
 王室でのマナーを勉強するのが大変だという苦労も交えつつ、話はどんどん過激になっていき、ついに本題に入った。

「――それでね、旦那様ったら、寝所で私に触れようともしないのよ。夫婦がなにをするのかは私だって知ってるわ。興味だってあるもの。それなのに……」

 ボッ、と自分の顔が熱くなる。なぜか想像してしまったのは自分とエルバートが毎晩しているキスのことだ。
 さらりと夫婦でのことだと言われると意識してしまう。
 仮ではあるものの、今、自分はエルバートの婚約者なのだ。

「お義姉様?」
「ぁ……そうなのね。貴女にそういう知識があったのは意外だわ」

 母がシンデレラに閨教育を一言でもしていたとは思えない。王室に入ってから教育されたのだろうか。

「やだ、お義姉様ったら。そのくらいの年頃になればある程度知ってるわよ。本格的なのは王室に入ってからだけど……あ、知ってる? 王室の指南書ってものすごーく過激なのよ! もうすごいの、だいしゅきホールドとか」 
「言わなくていいわ」

 なんだか聞いたことがある単語が飛び出してきて思わず遮ってしまった。
 あれだ。いつかポールから教えられた卑猥な呪文のような言葉。あれのせいで散々な目になったのを重ねて思い出す。あんなことを、この可憐で純粋なシンデレラまでもが知っているだなんて信じられない。

「そう? あ、それでね、旦那様のことなんだけど……お義姉様はどう思う?」
「どうって?」
「私、女性としての魅力がないのかしら。やっぱり舞踏会の時のように魔法使い様の力がないと……」
「……そうだとしたら、私が王子様に選ばれていた可能性だってあったでしょう?」

 ありえない。魔法の力だけだとしたら、エルバートに出会った時に自分に魔法をかけてもらえばいいと思ったはずだ。十年以上も前からいずれ王太子妃になるのはシンデレラなのだと確信し生きることなどなかったはずだ。
 そう確信せずにはいられないほどの魅力と、一点の曇りもない絶対的なヒロインとしての魅力をシンデレラは持っている。
 シンデレラはシンデレラだからこそ、王子様に選ばれたのだ。魔法でのドレスアップは二人が出会うまでのきっかけ作りに過ぎない。
 意地悪な義姉としての役はもうすでにブレブレだと諦めかけているソフィーにシンデレラは驚いた顔を見せた。
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