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第三章 月夜の少女
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翌日からは事情を知っている父さんたちの協力で、俺は家出していたことで責められることもなく、ごく普通に暮らしていた。
まるで昨日までもこうして宮殿で暮らしていたかのように。
ただ兄貴との関係だけが元に戻らない。
あれ以来、兄貴の俺に対する執着が普通じゃなくて、俺は気の休まるときがない。
それだけじゃなくて締め付けもスゴい。
常に居所を調べられ把握されているし、兄貴は俺がどこでなにをやっているか、気味悪いほど詳しい。
まるで俺が再びいなくなることを懸念しているかのように、兄貴は俺の行動を把握したがった。
これには父さんも度を越していると叱っているらしいが、兄貴は全然言うことを受け入れないらしい。
なにを言われても黙殺で。
母さんは純粋に俺の身を気遣ってくれていた。
兄貴に無理強いされるんじゃないかって。
身内ですらそんな心配をするくらい兄貴の様子は普通じゃなかった。
あまりに兄貴が俺に執着するものだから、父さんも問題を感じているのか、兄貴の見合いの準備を進めている。
俺しか見ないで選ぶことの危険性を父さんは危惧しているらしい。
いくら初恋だとしても、他にだれとも付き合わず知ろうともしないで俺を選ぶ。
それは視野競作とも言える。
だから、兄貴が他に意識を向けるように見合いさせてみると言われていた。
まさかそれが俺に波及するなんて、このときは思ってもみなかった。
「オーギュ」
回廊を歩いていてばったりオーギュストと出会した。
相手は冷めた眼で俺を見ている。
「夜になると姿を消してるんだって?」
開口一番の科白に顔をしかめる。
このことで兄貴と俺は揉めていたから。
父さんたちがそのことを問題にせず、兄貴ひとりが騒いでいるから、兄貴は余計に気に入らないんだ。
父さんたちは俺の姿が夜だけ見えなくても、どこにいてなにをしているか知っている。
だから、問題にしないんだけど、それは兄貴にはわからないことだろう?
そのせいでどうしてだれも騒がないんだとイライラしっぱなし。
実は俺は女性化している間、自室の続き部屋にいる。
父さんから聞いたけど俺の部屋には隠し部屋があるらしい。
母さんの血筋の問題があったので、なにかが起きたとき、俺が周囲を誤魔化せる場所が必要だと、父さんは最初から読んでいたらしいんだ。
それで俺の部屋には父さんと母さんしか知らない隠し部屋が用意されていたってわけ。
当然だけど兄貴は知らされてない。
だから、俺がどこにいるのか父さんたちは知ってても兄貴は知らないんだ。
俺が女性化して姿を消しても、父さんたちは隠し部屋にいるって知ってるし、逢いに行けば俺は確実にそこにいる。
何故って女性化した姿を人目に晒せないからだ。
兄貴やオーギュはノエルを知ってるんだし、以前みたいな勘違いは避けたかった。
だから、女性化している間、俺はどこにも行かない。
それで騒げと問題にしろと言われても、父さんたちも困るだろう。
問い詰められてもどこにいるか言えるわけがない。
この問題で兄貴と俺はかなり深刻に揉めていた。
それはオーギュには関係ないだろうと、言外に瞳に込めて睨み付ける。
「関係ないと言いたそうな顔だな」
そこまで言ってふっと笑うと、オーギュストはいきなり俺の顎に手をかけた。
上向かされて唖然とする。
なに?
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