異世界で子育てはじめます。

夜涙時雨(ヨルシグレ)

文字の大きさ
29 / 43

29.甘いケーキとミルクティー

しおりを挟む
 夕食を食べて一休みした後、今日買ったケーキが入った箱を取り出す。

 「2人ともご飯いっぱい食べたけど、ケーキは食べれそう?」

 リビングに置いてあるソファに仲良く並んで座っていた2人に声をかけた。
 ちなみに2人が今座っているソファも今日購入したものだ。ふかふかしていてとても座り心地が良いものを選んだ。

「うーん…らいじょぶ!」
「ん。たべれる」

 2人とも頷いたので、食器棚から皿とフォークを取り出して準備する。箱からケーキを取り出そうとしたところで、一度手を止めた。
 飲み物も欲しいよなぁ…。ケーキに合うもの……うーん。ケーキといったら俺は紅茶とかコーヒーなんだけど、ノワールとルーチェはまだ子どもだからカフェインはあまり取らない方がいいだろうし。
 あ、でも、確か大体4歳以上位からならカフェインが含まれてても少しなら飲んでも大丈夫だったはず。
 苦味や渋味がないものといえば……ミルクティーなら飲みやすいかな。
 茶葉にもよるけど、渋味が少ないものもあるし。ちょうどぴったりな茶葉もある。
 うん。ミルクティーにしよう。
 異空間から必要な茶葉を取り出す。取り出した茶葉はキーマン。キーマンは渋味がなく、マイルドで程よいコクのある飲みごたえだ。ただ、少し個性的なので好みは別れる。
 この世界には地球にあった茶葉と同じ名前で同じ味や香りのする茶葉がある。理由は分からないけど、日本にいた時に好んで紅茶を飲んでいた身としてはありがたかった。
 確かキーマンは地球だと世界三大銘茶のひとつだったはず。他の2つはダージリンとウヴァだったかな。
 日本では手頃に買えた紅茶だったけど、この世界では紅茶は貴族の嗜みとされていて、高級品に分類される。だから、一般の民間人はなかなか飲むことができない。まあ、茶葉の品質の悪いものであれば少し安めに売られてはいるんだけど、だからといって手軽に買える値段ではない。
 俺も最初に値段を聞いた時にはびっくりした。それでも、紅茶はどうしても飲みたかったので買える機会があれば買っている。金銭的に余裕もあるからね。


 茶葉を取り出した後、小さい鍋に水を入れて火にかける。お湯が沸いたら弱火にして茶葉を入れて2分ほどにかける。この時に沸騰させないことがポイントだ。
 2分経過したらミルクを鍋に入れて、弱火で数分程火にかけて沸騰する直前で火からおろす。茶葉をこしながらカップに注げば完成!
 もし甘さが足りない時には好みで砂糖か蜂蜜を加えれば大丈夫。
 ミルクティーが完成したところで、ケーキも箱から取り出してお皿に乗せる。ケーキが乗った皿とフォーク、カップをトレーに乗せて、さっき夕食を食べたテーブルではなく、ノワールとルーチェが座っているソファの前にあるソファのサイズに合わせた低めのテーブルへと持っていく。
 それぞれの前にケーキが乗った皿とミルクティーが入っているカップ、フォークを並べた。
 俺はノワールとルーチェの隣に座ってもよかったが、そちらではなく2人の斜め右側にあるソファへ座った。
 ケーキは買った時に2人とも見ているけど、ミルクティーは初めてだ。好き嫌いはあるだろうから、もし苦手なようだったら飲み物は別の物を用意しよう。
 
 「こえなあに?」

 ノワールが気になったのか、テーブルの上に置いたミルクティーを覗き込みながら聞いてきた。ルーチェも鼻をひくひくさせて香りを嗅いでいる。

「これはね、ミルクティーだよ。俺が好きな紅茶っていうお茶の中の1つなんだ」
「ふーん…おいしいの?」
「うーん…俺は美味しいと思うけど、苦手って人もいるかな。もし、2人が嫌だったら別の物に変えるよ」

 2人はカップを手に取って香りを嗅いだり、じっと見つめている。俺はそんな2人を気にかけながら、自分のカップを手に持ち、ゴクリとミルクティーを飲んだ。
 うん。香りも味も美味しい。
 思わず口角が上がってしまう。
 そんな俺の様子をじっと見つめていたルーチェが、ノワールよりも先に「ふー、ふー」と息を吹きかけてからカップを傾けてミルクティーを一口飲んだ。
 隣に座っているノワールも自分のはまだ飲まず、ルーチェが飲んでいるところを見ていた。

「るー?」
「……おいしい」
「よかった。ルーチェの口には合ったみたいだね。苦くはなかった?」
「だいじょうぶ」
「蜂蜜も入れてみる?これを入れるとね、甘みが増してもっと美味しくなるよ」

 試しに俺がスプーンで容器に入った蜂蜜を掬って、ミルクティーに入れて混ぜる。
 ルーチェも俺の真似をするように、蜂蜜を掬ってミルクティーに混ぜ入れた。そして、ミルクティーを一口飲む。すると、耳と尻尾がピンッと立ち上がった。
 お?
 ルーチェは両手でカップを持ったまま、少し上目遣いで俺の方を見てきた。
 何かな?と思っていると「はちみつもっといれてもいい?」と聞いてきた。

 「蜂蜜気に入った?」
「うん」
「甘くて美味しいもんね。入れすぎなければ好きなだけ混ぜて大丈夫だよ」

 ルーチェは余程蜂蜜が気に入ったのかスプーンで追加で3杯位蜂蜜を掬ってミルクティーに入れていた。
 もしかして、ルーチェは甘い物が好きなのかな。それならケーキも好きになってくれそうだ。
 ルーチェはミルクティーを飲むと口角がほんの少しだけ上がり、頬を染めてほわぁ~と周りに花が飛んでいるような雰囲気で、尻尾もゆらゆらと左右に揺れてリラックスしているみたいだ。
 そんなルーチェを隣で見ていたノワールも「ふー、ふー」と息を吹きかけてからミルクティーを口にしていた。

「ノワールも蜂蜜入れてみる?」

 そう声をかけると「うん!」と、返事をした後に蜂蜜をスプーン1杯掬ってミルクティーに混ぜ、また一口飲んだ。

「わあ!おいちい!!」

 ノワールもお気に召したみたい。
 目をキラキラさせてニコニコしている。
 2人の口にあったみたいでよかった。
 ただ、ルーチェがごくごくと飲んでいるので、このままだとケーキを食べる前にミルクティーがなくなってしまいそうだったので、ミルクティーの次はケーキを食べることにした。
 ケーキはフラーゴラやミルティッロ、ランポーニ、ぺスカなどのたくさんの果物が飾り付けられスポンジの間にもクリームと一緒に小さく刻まれた果物が挟まっている。可愛らしい見た目だ。
 因みに、名前は違うが日本で例えるとフラーゴラはいちご、ミルティッロはブルーベリー、ランポーニはラズベリー、ぺスカは桃といった感じだ。見た目も味も似ている。

 「ケーキも甘くて美味しいだろうから2人とも食べてみて」

 2人にケーキを食べるように促しながらも自分も一口分をフォークに刺して口へと運んだ。果物がクリームの甘さとマッチしていて美味しい。果物の甘さがクリームの甘さとはまた違っていて、果物の酸味があることで甘すぎず、さっぱりしていて食べやすい。
 ノワールとルーチェも美味しそうにケーキを食べている。
 ミルクティーとの相性もいい感じだ。
 3人ともあっという間に食べ終わってしまった。

「おいちかったー!もうおにゃかいっぱい~」
「もうはいらない…」
「ふふ、そうだね。今日はいっぱい食べたもんね。ただ、2人とも……」

 ソファの背もたれに背中を預けてダランとしているノワールとお腹に手を当てているルーチェ。そんな2人の顔、正確にいうと口周りには髭のように白いクリームが付いている。
 子どもっぽく、可愛らしい顔に思わず笑ってしまう。
 きっと幼い頃のあるあるだね。
 皿やカップを片付けるのにキッチンへ行き、布を水で濡らしてから2人の元へ戻り、口周りに付いたクリームを綺麗に拭き取った。




「ゆづる、あしたものみたい」

 2人をお風呂に入れて、髪を乾かしているとルーチェがそう言ってきた。
 ルーチェが自分から何かを欲しがるなんて珍しいなと思うと同時に、気持ちを伝えてくれたことが嬉しい。

「ミルクティーのこと?」
「ん」
「いいよ。ただ、飲みすぎないようにね」
「ぼくものむー!」
「ノワールも気に入ったの?」
「うん!だって、ゆづにいとおんなじいろだもん!」
「同じ色?」
「うん!ゆづにいのかみのきぇとおしょろい!ね!るー!」
「ん。いっしょ」

 ああ、なるほど。
 確かに俺の髪の毛はミルクティー色をしている。それで、同じと言ったのか。

「この色が好きなの?」
「うん!だって、ゆづにいのいろだもん!」
「やさしいいろ」
「そっか…」

 俺の色……優しい、か。
 まさか2人がそんなことを思ってくれてるとは思わなかった。
 今までも髪の毛を褒めてくれる人はいたけど、それとはまた違う…。
 2人が心から好きだと思っていることが、2人の目を見れば伝わってきた。
 俺たち3人は出会ってまだ日が浅い。初めて会った時と比べたら、ずっと一緒にいたから仲良くはなれたと思っていた。
 俺が触れても警戒はしなくなったし、自ら話しかけてきて、笑顔も見せてくれるようになった。
 それでも、まだお互いに知らないことはあるし、2人が心の底から俺のことを信頼してくれたとは限らない。
 表では平気な顔をしていても心の奥底では、まだ怖いと思っている部分もあるだろう。
 それでも、俺を頼ろうとしてくれる。
 いつか、本当に心から信頼してくれるようになったのならば、それはきっと血が繋がってなくても本当の家族だといえる。そんな日が来たら、俺は———


「ゆづにい?」
「ゆづる?」

 ノワールとルーチェが俺の手を握ってきた。
 2人の温かい小さな手を握り返して、誓う。
 俺はこの2人に愛情をたくさん与えようと。例え、何があろうとも俺はずっとノワールとルーチェを守り続ける。
 俺は2人の手を引き、ぎゅっと2人を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...