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14 side T
3.
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コール音が何度か聞こえ、ようやくその音が途切れると、瑤子の声が聞こえた。
「あ、の、私……だけど」
なんでだか恐る恐ると言った感じで瑤子は電話でた。
家じゃないのか?どうも外にいる気配がする。
まさかとは思うが、誰かと一緒……なんてことないよな?
尋ねると、今家に帰ったところと返って来て、鍵を出す音やドアが開く音が聞こえきて、嘘じゃない事が分かる。
そこからは何となく、たわいもない話を始めた。
笑いながら答えるその声に、呼べばすぐ来てくれるんじゃないかなんて錯覚する。
でも現実は、飛行機で半日以上の距離。気軽に今から来いと言える距離ではない。だが、上手い具合に話の流れもそういう方に進んで、もし来てくれるなら今すぐ航空券用意する、くらい気持ちが上がったのに、すぐに落とされた。
パスポート持ってないってなんだよ……?そんな奴周りにいなかったから想像すらした事ねーよ
がっくり肩を落とすって、こう言うことかと思うくらいに、大きく肩を落として息を吐き出した。
そうしているうちに睦月が帰って来て、ギャーギャー言い出す。
俺達の会話を聞いて、電話の向こうで瑤子は笑っている。作りものではない素の声で。
『目の前でその会話見たかったな』
なんて瑤子は言うが、俺はその笑っている顔を目の前で見たい。
でもそんな事を言えるはずもなく、俺は黙る。
今すぐ会いたいと言ったところで、お互い困るのは目に見えている。
俺はまだ残っている仕事を放り出してまで日本には帰れないし、瑤子もきっと仕事を放り出してまで俺に会いにくるなんてしないだろう。
また電話していいか確認すると、『いいわよ?どうせずっと暇だし』と明るく返ってくる。
『仕事、頑張ってね』
空港の展望デッキで飛行機を眺めていた瑤子の顔が浮かんで、
キスしてーな
なんて思いながら、唇の代わりに画面にキスを落として電話を切った。
……?何だ……?
妙な気配がして振り返ると、開きっぱなしのドアの向こうに腹を抱えて蹲る睦月の姿。
「無理っ!もー無理っ!」
笑いを噛み殺していたのか、ようやく解放されてヒーヒー笑い出す。
「勝手に見てんじゃねーよ!」
俺は、ばつが悪い思いをしながら睦月を睨みつけた。
◆◆
──9月1日
俺と睦月は同じ空港にいた。
睦月は日本へ、俺はパリに向かう。
ニューヨークから無事送られた俺の荷物を、日本で引き取り新居に入れる手配も全て睦月に丸投げした。
「じゃ、後は頼む」
「おー!任せろ。ま、この見返りは……彼女に会わせてくれればいいからさ」
「だから彼女じゃねーって」
「あんなに毎日電話してたのに⁈」
「……うっせーよ」
確かに、時間を見つけては俺は瑤子に電話した。アイツが休みの間は特に。
話す内容はお互い取り留めもない内容。
今日は何してたとか、下手すりゃ今日の天気はどうだったとか。
こんなしょうもない話をダラダラ電話でするなんて初めてだった。
だが、瑤子はそんな会話を楽しんでいるかのように、声を弾ませていた……ような気がする。
全ては俺の気のせいで、渋々話を合わせてくれていただけかも知れないが、それでも俺は嬉しかった。
「後はパリでもう一仕事か。大変だね、司も」
何となく憐むような目で俺を見て、睦月はそう言う。
まあ、その予定組んだのは他でもない自分自身だから仕方がない。
それに今回は……ずっと足を遠ざけていた場所に向かうつもりだった。
搭乗のアナウンスが流れ、睦月は日本へ向かう飛行機へ乗り込んで行った。
今度は自分の乗る飛行機の搭乗口へ向かう。まだ案内までは少し時間があった。
日本はまだ早朝と言っていい時間。
こんな時間に!って怒るかな、アイツ
そう思いながら、すっかり同じ名前ばかり並んだ履歴を開けて、そのままタップした。
『んー?何~?』
電話の向こうから、寝ぼけたような声が聞こえて来た。
「悪い。朝早くから。もう少ししたらパリへ経つから今のうちにと思って」
『うーん。わかったぁ……』
完全には起きてないな、これ…
「瑤子?起きてるか?」
『………ん?何か……言った?』
まだ半分夢の中か、とふっと俺は息を漏らした。
まだ向こうは5時過ぎだし無理もないか、とすうすうと息遣いの聞こえる電話に耳をすませた。
「俺は……早くお前に会いたいよ」
きっと聞いてないだろうと、俺はそう囁いた。
『……ん……私も。会いたい……』
そう聞こえてきて、俺は電話を落としそうになった。
「はっ?瑤子?」
だが、その呼びかけに瑤子は答えず、規則的な寝息だけが聞こえてきた。
なんつー破壊力のある寝言だよっ!
俺はしばらくその寝息を聞いてから電話を切った。
「あ、の、私……だけど」
なんでだか恐る恐ると言った感じで瑤子は電話でた。
家じゃないのか?どうも外にいる気配がする。
まさかとは思うが、誰かと一緒……なんてことないよな?
尋ねると、今家に帰ったところと返って来て、鍵を出す音やドアが開く音が聞こえきて、嘘じゃない事が分かる。
そこからは何となく、たわいもない話を始めた。
笑いながら答えるその声に、呼べばすぐ来てくれるんじゃないかなんて錯覚する。
でも現実は、飛行機で半日以上の距離。気軽に今から来いと言える距離ではない。だが、上手い具合に話の流れもそういう方に進んで、もし来てくれるなら今すぐ航空券用意する、くらい気持ちが上がったのに、すぐに落とされた。
パスポート持ってないってなんだよ……?そんな奴周りにいなかったから想像すらした事ねーよ
がっくり肩を落とすって、こう言うことかと思うくらいに、大きく肩を落として息を吐き出した。
そうしているうちに睦月が帰って来て、ギャーギャー言い出す。
俺達の会話を聞いて、電話の向こうで瑤子は笑っている。作りものではない素の声で。
『目の前でその会話見たかったな』
なんて瑤子は言うが、俺はその笑っている顔を目の前で見たい。
でもそんな事を言えるはずもなく、俺は黙る。
今すぐ会いたいと言ったところで、お互い困るのは目に見えている。
俺はまだ残っている仕事を放り出してまで日本には帰れないし、瑤子もきっと仕事を放り出してまで俺に会いにくるなんてしないだろう。
また電話していいか確認すると、『いいわよ?どうせずっと暇だし』と明るく返ってくる。
『仕事、頑張ってね』
空港の展望デッキで飛行機を眺めていた瑤子の顔が浮かんで、
キスしてーな
なんて思いながら、唇の代わりに画面にキスを落として電話を切った。
……?何だ……?
妙な気配がして振り返ると、開きっぱなしのドアの向こうに腹を抱えて蹲る睦月の姿。
「無理っ!もー無理っ!」
笑いを噛み殺していたのか、ようやく解放されてヒーヒー笑い出す。
「勝手に見てんじゃねーよ!」
俺は、ばつが悪い思いをしながら睦月を睨みつけた。
◆◆
──9月1日
俺と睦月は同じ空港にいた。
睦月は日本へ、俺はパリに向かう。
ニューヨークから無事送られた俺の荷物を、日本で引き取り新居に入れる手配も全て睦月に丸投げした。
「じゃ、後は頼む」
「おー!任せろ。ま、この見返りは……彼女に会わせてくれればいいからさ」
「だから彼女じゃねーって」
「あんなに毎日電話してたのに⁈」
「……うっせーよ」
確かに、時間を見つけては俺は瑤子に電話した。アイツが休みの間は特に。
話す内容はお互い取り留めもない内容。
今日は何してたとか、下手すりゃ今日の天気はどうだったとか。
こんなしょうもない話をダラダラ電話でするなんて初めてだった。
だが、瑤子はそんな会話を楽しんでいるかのように、声を弾ませていた……ような気がする。
全ては俺の気のせいで、渋々話を合わせてくれていただけかも知れないが、それでも俺は嬉しかった。
「後はパリでもう一仕事か。大変だね、司も」
何となく憐むような目で俺を見て、睦月はそう言う。
まあ、その予定組んだのは他でもない自分自身だから仕方がない。
それに今回は……ずっと足を遠ざけていた場所に向かうつもりだった。
搭乗のアナウンスが流れ、睦月は日本へ向かう飛行機へ乗り込んで行った。
今度は自分の乗る飛行機の搭乗口へ向かう。まだ案内までは少し時間があった。
日本はまだ早朝と言っていい時間。
こんな時間に!って怒るかな、アイツ
そう思いながら、すっかり同じ名前ばかり並んだ履歴を開けて、そのままタップした。
『んー?何~?』
電話の向こうから、寝ぼけたような声が聞こえて来た。
「悪い。朝早くから。もう少ししたらパリへ経つから今のうちにと思って」
『うーん。わかったぁ……』
完全には起きてないな、これ…
「瑤子?起きてるか?」
『………ん?何か……言った?』
まだ半分夢の中か、とふっと俺は息を漏らした。
まだ向こうは5時過ぎだし無理もないか、とすうすうと息遣いの聞こえる電話に耳をすませた。
「俺は……早くお前に会いたいよ」
きっと聞いてないだろうと、俺はそう囁いた。
『……ん……私も。会いたい……』
そう聞こえてきて、俺は電話を落としそうになった。
「はっ?瑤子?」
だが、その呼びかけに瑤子は答えず、規則的な寝息だけが聞こえてきた。
なんつー破壊力のある寝言だよっ!
俺はしばらくその寝息を聞いてから電話を切った。
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