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14 side T

4.

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何年振りかな、ここに来るの

そう思いながら、花が咲き乱れる庭を見つめた。

祥子さんの一家がパリに移り住んだのは14年前。
香緒にストーカーが現れて、その被害から逃れるために、祥子さんの実家のあるパリにやって来た。
何度かここに来たが、すっかり足も遠のき、もう数年訪れてはいない。

今朝、パリに着いてホテルに荷物を預け、借りた車でパリの街を走った。パリ自体には年に何度かは来ているから、特に久しぶりと言う気はしない。

時間を見計らって祥子さんに連絡を入れると、快く訪問を許してくれた。

様々な花の香りが漂う庭を通り抜け、趣のある飴色の扉の前に立つと、横にあるチャイムを鳴らす。

ややあって、扉がゆっくりと開いた。

「司君。いらっしゃい」

ずっと変わらない、花のような微笑みで祥子さんは俺を迎えてくれた。


「紅茶で良かったかしら?」

2階にある解放感のあるテラスのテーブルで、祥子さんがそう言いながらティーカップを差し出す。

「あぁ。ありがとう」

祥子さんは俺の向かいに座ると、ニコニコと笑いながらこちらを見た。

「それにしても驚いたわ。司君が来てくれるなんて。活躍は聞いているわよ?」
「祥子さんの耳にも入るなんて光栄だ」

俺はそう言って紅茶を口に含むと、ふんわりと花の香りがした。

「司君は日本に戻ったんでしょう?香緒にはもう会ったのかしら?明日久しぶりに帰ってくるのよ?」
「一度一緒に仕事したよ。そうか、香緒もこっち帰ってくるんだな」
「えぇ。紹介したいお友達がいるからって、連れてくるんですって」
「へぇ……」

その友達とやらが誰なのか分かっているが、祥子さんに紹介するなんてよっぽどだな、と俺は思った。

それから2人で穏やかに近況を話し合ったり、俺の仕事の話を聞いて貰ったりした。

懐かしい2人だけの時間。幼い頃もこんな風に過ごす事があった。

そして思う。

俺は祥子さんに、理想の母親像を求めていただけで、恋愛感情だと思っていたものは、ただのガキ臭い思い込みだったということを。

祥子さんの顔を見ても、何の劣情も抱くことはない。まるで、聖母を前にしているような、そんな貴い感情しか湧かなかった。

しばらくすると、祥子さんの夫で香緒の父である修志しゅうじさんが帰って来た。
まあ、こっちには相変わらず複雑な感情しか湧かないが、まあ悪い人でないことは確かだ。
俺達は、久しぶりに昔話に花を咲かせた。

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