138 / 183
35
2
しおりを挟む
「実はね。ここ、ペット連れて来れるんだよね」
睦月さんが私にそう言うと、担当さんが続けた。
「こちらのお庭では、ペット連れでパーティを楽しんでいただくことができます。多少制限はありますが、ご相談いただければ柔軟に対応させていただいています」
私はそれを聞いて思わず睦月さんを見上げた。
「もしかして……今まで見たところも?」
今まであえてそんな話は聞かなかった。たぶん、私の反応がそんなに良いとは思えなかったからかも知れない。
睦月さんは「実はそうなんだ。でも、イマイチしっくりこなくて」と決まりの悪そうな顔を見せた。
私がそう思っていたように、睦月さんも同じように思っていたみたいだ。睦月さんに縁があるからって言うわけじゃないけど、ここが一番しっくりくる。
「かんちゃんも……参加してもらえるの?」
「もちろん。かんちゃんも俺達の大事な家族だしね」
睦月さんはそう言って笑う。私はそんな睦月さんを見上げたまま、つくづく思っていた。睦月さんと出会えて良かったって。
「うん。私もかんちゃんだけ留守番なんて寂しい。一緒に祝ってもらいたいな」
かんちゃんだって縁あって出会ったんだから、私達の新たな門出を一緒に過ごしたい。私はそんなことを思っていた。
「よろしければ次をご案内いたします」
私達はそれに従い建物の中に入り担当さんの後ろを付いて歩いた。
「こちらには、この春から取り扱っている新ブランドのドレスを展示しております」
そこは広めの宴会場で、トルソーに飾られたウエディングドレスがたくさん置かれているのが見えた。もちろん他のお客さんもたくさんいて、それぞれが自由にそれを眺めていた。
「また後ほど参りますので、しばらく自由にご覧になってください」
そう言って担当さんは去る。
私が睦月さんを見上げると、睦月さんは私じゃなく、全く違うところに視線を送っていた。私もそれにつられるように振り返ると、この部屋の角に3人程立ち話をしている人たちが見えた。そのうち2人は式場の人。もう1人は背中しか見えないが、背が高くてスタイルのいい髪の長い女性。もしかして知り合いのモデルさん?と私はその様子を眺めた。
「さっちゃん、ちょっと来てくれる?知り合いかも」
緊張しながらついて行くと、睦月さんはまだ話しをしているその輪の様子を伺うように立ち止まった。そしてその気配を感じたのか、背中を向けていた女性がこちらに振り返った。
その人は、オリエンタルな雰囲気を醸し出している、予想以上の美女だった。
その人は私達の姿を見るとニッコリと微笑み口を開いた。
「あら、睦月。奇遇ね」
さして驚いた様子もなく、落ち着いた低めの声でその人は言う。
睦月さんのほうは「百合ちゃん、久しぶり!」と柔かに笑いかけている。どう見ても仕事の間柄じゃない親密そうな様子に、いったい何者なのかとドキドキしてしまう。でも、どこかで会ったことある気がするのは気のせい?私はそんなことを思いながらその人を眺めていた。
百合さんは式場の人から離れ、こちらに歩み寄ると私に視線を送った。
「貴女が噂の彼女ね?初めまして。藤原百合です。デザイナーをしているの。よろしくね」
そう言って微笑む百合さんは、仕事でモデルさん達を見慣れている私でさえ見惚れてしまう。
「……あ。綿貫咲月です」
我に返って慌てて名前だけ言うとお辞儀をする。睦月さんは隣から百合さんに話しかけた。
「噂って、いったい誰に何聞いたのさ」
「最初は紫音でしょう。最近は司かしら?睦月に可愛い彼女が出来て浮かれてるって」
そう言うと百合さんは、ふふっと声を漏らして笑った。そこでようやく私はこの人が誰か何者なのか気がついた。
「え……と。紫音さんのお母様?」
睦月さんに小さく尋ねると、「正解!」と笑顔が返ってくる。そしてまた睦月さんは百合さんに向いた。
「司のほうが浮かれてそうなのにさ。最近百合ちゃんに連絡あったってことは……もしかして?」
ニコニコしながら睦月さんは百合さんに尋ねると、百合さんは穏やかな表情で微笑んだ。
「まさか、司のお嫁さんにドレスを用意する日が来るなんて、夢にも思わなかったわ」
「俺も。司のウエディングフォトを撮る日が来るなんて思ってなかったよ」
2人ともなんだか感慨深そうだ。
「そうそう。さっちゃんが当日のヘアメイク担当なんだよね。事前にドレス見せてもらえると助かる。よね?さっちゃん」
睦月さんは百合さんに先に言ってから私に振る。
「はい。先に考えておきたいので」
「それならここに似たものはあるわ。当日着てもらうのはまだ出来上がってないの。また見に来て貰えるかしら」
「はい。よろしくお願いします」
式場の新ブランド、と言うのはもちろん百合さんのお店のもので、今日は様子を見に訪れたらしい。私達は百合さんに案内されて、一番目立つ場所に飾られたドレスの前に連れられた。
「……。綺麗……」
見ただけで、それを着た瑤子さんの姿が思い浮かんでしまう。途端に私は、どんなヘアメイクにしようかと、ワクワクしていた。
睦月さんが私にそう言うと、担当さんが続けた。
「こちらのお庭では、ペット連れでパーティを楽しんでいただくことができます。多少制限はありますが、ご相談いただければ柔軟に対応させていただいています」
私はそれを聞いて思わず睦月さんを見上げた。
「もしかして……今まで見たところも?」
今まであえてそんな話は聞かなかった。たぶん、私の反応がそんなに良いとは思えなかったからかも知れない。
睦月さんは「実はそうなんだ。でも、イマイチしっくりこなくて」と決まりの悪そうな顔を見せた。
私がそう思っていたように、睦月さんも同じように思っていたみたいだ。睦月さんに縁があるからって言うわけじゃないけど、ここが一番しっくりくる。
「かんちゃんも……参加してもらえるの?」
「もちろん。かんちゃんも俺達の大事な家族だしね」
睦月さんはそう言って笑う。私はそんな睦月さんを見上げたまま、つくづく思っていた。睦月さんと出会えて良かったって。
「うん。私もかんちゃんだけ留守番なんて寂しい。一緒に祝ってもらいたいな」
かんちゃんだって縁あって出会ったんだから、私達の新たな門出を一緒に過ごしたい。私はそんなことを思っていた。
「よろしければ次をご案内いたします」
私達はそれに従い建物の中に入り担当さんの後ろを付いて歩いた。
「こちらには、この春から取り扱っている新ブランドのドレスを展示しております」
そこは広めの宴会場で、トルソーに飾られたウエディングドレスがたくさん置かれているのが見えた。もちろん他のお客さんもたくさんいて、それぞれが自由にそれを眺めていた。
「また後ほど参りますので、しばらく自由にご覧になってください」
そう言って担当さんは去る。
私が睦月さんを見上げると、睦月さんは私じゃなく、全く違うところに視線を送っていた。私もそれにつられるように振り返ると、この部屋の角に3人程立ち話をしている人たちが見えた。そのうち2人は式場の人。もう1人は背中しか見えないが、背が高くてスタイルのいい髪の長い女性。もしかして知り合いのモデルさん?と私はその様子を眺めた。
「さっちゃん、ちょっと来てくれる?知り合いかも」
緊張しながらついて行くと、睦月さんはまだ話しをしているその輪の様子を伺うように立ち止まった。そしてその気配を感じたのか、背中を向けていた女性がこちらに振り返った。
その人は、オリエンタルな雰囲気を醸し出している、予想以上の美女だった。
その人は私達の姿を見るとニッコリと微笑み口を開いた。
「あら、睦月。奇遇ね」
さして驚いた様子もなく、落ち着いた低めの声でその人は言う。
睦月さんのほうは「百合ちゃん、久しぶり!」と柔かに笑いかけている。どう見ても仕事の間柄じゃない親密そうな様子に、いったい何者なのかとドキドキしてしまう。でも、どこかで会ったことある気がするのは気のせい?私はそんなことを思いながらその人を眺めていた。
百合さんは式場の人から離れ、こちらに歩み寄ると私に視線を送った。
「貴女が噂の彼女ね?初めまして。藤原百合です。デザイナーをしているの。よろしくね」
そう言って微笑む百合さんは、仕事でモデルさん達を見慣れている私でさえ見惚れてしまう。
「……あ。綿貫咲月です」
我に返って慌てて名前だけ言うとお辞儀をする。睦月さんは隣から百合さんに話しかけた。
「噂って、いったい誰に何聞いたのさ」
「最初は紫音でしょう。最近は司かしら?睦月に可愛い彼女が出来て浮かれてるって」
そう言うと百合さんは、ふふっと声を漏らして笑った。そこでようやく私はこの人が誰か何者なのか気がついた。
「え……と。紫音さんのお母様?」
睦月さんに小さく尋ねると、「正解!」と笑顔が返ってくる。そしてまた睦月さんは百合さんに向いた。
「司のほうが浮かれてそうなのにさ。最近百合ちゃんに連絡あったってことは……もしかして?」
ニコニコしながら睦月さんは百合さんに尋ねると、百合さんは穏やかな表情で微笑んだ。
「まさか、司のお嫁さんにドレスを用意する日が来るなんて、夢にも思わなかったわ」
「俺も。司のウエディングフォトを撮る日が来るなんて思ってなかったよ」
2人ともなんだか感慨深そうだ。
「そうそう。さっちゃんが当日のヘアメイク担当なんだよね。事前にドレス見せてもらえると助かる。よね?さっちゃん」
睦月さんは百合さんに先に言ってから私に振る。
「はい。先に考えておきたいので」
「それならここに似たものはあるわ。当日着てもらうのはまだ出来上がってないの。また見に来て貰えるかしら」
「はい。よろしくお願いします」
式場の新ブランド、と言うのはもちろん百合さんのお店のもので、今日は様子を見に訪れたらしい。私達は百合さんに案内されて、一番目立つ場所に飾られたドレスの前に連れられた。
「……。綺麗……」
見ただけで、それを着た瑤子さんの姿が思い浮かんでしまう。途端に私は、どんなヘアメイクにしようかと、ワクワクしていた。
0
あなたにおすすめの小説
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。
雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。
「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」
琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。
白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。
清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる