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11 side 香緒 2.
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結局、日本に戻って来たのに武琉についての何の手掛かりもなく、僕はただ自堕落な生活をするだけだった。
希海は実家から独立していて、親から譲られたビルに移り住んでいた。もちろん日本に帰る事が決まってすぐに、『部屋はいくらでも空いているから一緒に暮らそう』と言ってくれた。
でも僕はそれを断り一人暮らしを始めた。それからは見捨てられても仕方がないと言う位に希海からの連絡を放置した。
『ちゃんと飯食ってるか?気が向いたら連絡してくれ』
そんな短い内容だけど、本当はかなり心配してくれているのは分かっている。
高校を卒業してからの希海は、仕事を選ぶ司の代わりに撮影に入る事が多く、忙しくしている。なかなか時間を割いて僕に様子を見にくる事が出来ないから余計に気になっているのだろう。
一つだけ、僕と希海を繋げているものがあるとすれば、この部屋の合鍵を渡している事だ。
ここに越してきた時に『お前が本当に嫌でなければ貸して欲しい』そう言われ渡した。ここで渡さなかったら希海とも二度と会えなくなりそうだったから。
希海はホッとしたような顔で鍵を受け取り、『ありがとう。勝手には使わない』と大切そうに自分のキーケースにしまっていた。
それから何度かうちに来たが、ちゃんと事前に連絡を入れてくれていた。
どうしても遅くなりそうな時だけ、夜中にそっとやって来て、僕を起こす事なく食べものを補充して帰って行くこともあった。
その日はすっかり油断していた。
もともと訪ねてくるのは希海だけだったし、朝方にようやく眠りについて、まだ2時間程しか寝ていない朦朧とした意識の中だったから。
部屋のインターフォンがなっているな……と思っていけど、希海ならそのうち入ってくるだろうと目を閉じたまま考える。
でも意に反して、しつこい位にインターフォンが鳴り続けた。仕方なく僕はヨロヨロと布団から抜け出し玄関に向かう。相手が誰かも確かめず。
「……希海。……煩い」
玄関を開け、そう言いながら相手を見上げる。
「……!!」
相手は希海ではなかった。
品のいいブランドもののスーツを着こなしているその男に、腕を取られて引き寄せられる。
「よぉ!元気だったか~?俺の天使」
昔から変わらない嗅ぎ慣れたコロンの香りがフワッと漂ったと思うと、あっという間に抱き抱えられていた。
「何で……。司……ここにいるの?」
司にはここを教えていない。
それに、希海より忙しいはずの司がわざわざやって来るなんて思いもしていなかった。
それなのに、驚いている僕の顔を見て「心外だなぁ」と明るく笑っている。
色素の薄い茶色のカールした髪、背は希海より高く、年齢よりかなり若く見られるその顔は、ギリシャ彫刻を思わせるように整っている。
いつも撮る側より撮られる側に間違われるが、本人は撮る側の方が断然楽しいと言っているのを聞いた事がある。
そんな司に撮られたがる人間は世の中にたくさんいるが、本人は気に入らなければ途中でも平気で撮影を打ち切る程難しい男だ。それでも撮って欲しくて司の周りには男女問わず群がってくると希海は言っていた。
「お前、ちゃんと飯食ってるか~?相変わらず軽いな」
「ほっといて」
そう言って抱えられたまま顔を逸らす。
司は、我関せずといった感じでそのまま僕を寝室へ運びベッドに下ろした。
そして、当たり前のように僕にのしかかり、頰にキスを落とす。
幼い頃から挨拶のようにされていたキスを僕は抵抗することなく受け入れた。
なんの感情も湧かないまま、僕は宙を見つめる。そんな僕を司は上から見つめていた。
「お前、死にたいのか?」
ただ淡々と、司は僕に尋ねた。
希海は実家から独立していて、親から譲られたビルに移り住んでいた。もちろん日本に帰る事が決まってすぐに、『部屋はいくらでも空いているから一緒に暮らそう』と言ってくれた。
でも僕はそれを断り一人暮らしを始めた。それからは見捨てられても仕方がないと言う位に希海からの連絡を放置した。
『ちゃんと飯食ってるか?気が向いたら連絡してくれ』
そんな短い内容だけど、本当はかなり心配してくれているのは分かっている。
高校を卒業してからの希海は、仕事を選ぶ司の代わりに撮影に入る事が多く、忙しくしている。なかなか時間を割いて僕に様子を見にくる事が出来ないから余計に気になっているのだろう。
一つだけ、僕と希海を繋げているものがあるとすれば、この部屋の合鍵を渡している事だ。
ここに越してきた時に『お前が本当に嫌でなければ貸して欲しい』そう言われ渡した。ここで渡さなかったら希海とも二度と会えなくなりそうだったから。
希海はホッとしたような顔で鍵を受け取り、『ありがとう。勝手には使わない』と大切そうに自分のキーケースにしまっていた。
それから何度かうちに来たが、ちゃんと事前に連絡を入れてくれていた。
どうしても遅くなりそうな時だけ、夜中にそっとやって来て、僕を起こす事なく食べものを補充して帰って行くこともあった。
その日はすっかり油断していた。
もともと訪ねてくるのは希海だけだったし、朝方にようやく眠りについて、まだ2時間程しか寝ていない朦朧とした意識の中だったから。
部屋のインターフォンがなっているな……と思っていけど、希海ならそのうち入ってくるだろうと目を閉じたまま考える。
でも意に反して、しつこい位にインターフォンが鳴り続けた。仕方なく僕はヨロヨロと布団から抜け出し玄関に向かう。相手が誰かも確かめず。
「……希海。……煩い」
玄関を開け、そう言いながら相手を見上げる。
「……!!」
相手は希海ではなかった。
品のいいブランドもののスーツを着こなしているその男に、腕を取られて引き寄せられる。
「よぉ!元気だったか~?俺の天使」
昔から変わらない嗅ぎ慣れたコロンの香りがフワッと漂ったと思うと、あっという間に抱き抱えられていた。
「何で……。司……ここにいるの?」
司にはここを教えていない。
それに、希海より忙しいはずの司がわざわざやって来るなんて思いもしていなかった。
それなのに、驚いている僕の顔を見て「心外だなぁ」と明るく笑っている。
色素の薄い茶色のカールした髪、背は希海より高く、年齢よりかなり若く見られるその顔は、ギリシャ彫刻を思わせるように整っている。
いつも撮る側より撮られる側に間違われるが、本人は撮る側の方が断然楽しいと言っているのを聞いた事がある。
そんな司に撮られたがる人間は世の中にたくさんいるが、本人は気に入らなければ途中でも平気で撮影を打ち切る程難しい男だ。それでも撮って欲しくて司の周りには男女問わず群がってくると希海は言っていた。
「お前、ちゃんと飯食ってるか~?相変わらず軽いな」
「ほっといて」
そう言って抱えられたまま顔を逸らす。
司は、我関せずといった感じでそのまま僕を寝室へ運びベッドに下ろした。
そして、当たり前のように僕にのしかかり、頰にキスを落とす。
幼い頃から挨拶のようにされていたキスを僕は抵抗することなく受け入れた。
なんの感情も湧かないまま、僕は宙を見つめる。そんな僕を司は上から見つめていた。
「お前、死にたいのか?」
ただ淡々と、司は僕に尋ねた。
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