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19 side 香緒 2.
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「着いたぞ」
そう言って連れてこられたのは、海沿いにあるラグジュアリーなホテルだった。周りは雨の降った様子もなく、そこには青空が広がっていた。
「まさかここに泊まってるなんて事ないよね?」
嫌味を込めて司に尋ねると、「お前が泊まりたいなら部屋取るけど?」と、わざわざ耳打ちされる。
「そんなわけないでしょ。付き合うのは食事だけだから」
素っ気なくそう返すと、「つれないなぁ」とにこやかに司は笑った。
通されたのは、高層階にあるレストラン。平日ではあるがそれなりに混み合っているのを横目に、案内された個室に入る。
全面ガラス張りの窓からは、港を行き来する船や水平線の向こうに白い雲が浮かんでいるのが見えた。
武琉に見せたらきっと目を輝かせて喜んでくれるんだろうな……
そう思うと無性に武琉に会いたくなる。ほんの少しだけ離れているだけなのに、長い間会えていないような、今はそんな気分だ。
ずっと一緒にいようと約束したけど、本当は不安に思っている。武琉に好きな人ができていつか去って行くのではないかと。
けれど、今日交わしたキスで、もしかしたら武琉も同じ気持ちでいてくれているのかも知れないと期待してしまう。
武琉にもっともっと触れたくて、彼の全て欲しいと希う僕の気持ちと。
「お前、何考えてる?」
窓際で景色を眺めて立っていた僕のそばで司は尋ねる。
「何も?」
視線を外に向けたまま答えるが、司に肩を抱かれ向きを変えられる。
「俺に隠したって無駄だろ。お前のこと、生まれた時から見てるのに」
顎を持ち上げ顔を近づけてくる司の腕を払うと、僕は顔を背けた。
「そんなことするんだったら帰る」
その言葉に、あっさりと降参したかのように司は両手を上げ、「何もしねーよ」とテーブルに向かい椅子を引く。
「ほら、座れ。香緒」
僕はそれに素直に従いテーブルに着いた。
しばらくして運ばれて来たのはランチのコース料理。もちろん見栄え良く盛り付けられ、いかにもSNS映えしそうな料理の数々だが、さほど食欲は沸かなかった。
「酒飲みてぇけど、さすがに車だから無理だな。お前はどうする?」
「僕も車で帰るからいらない。帰りはちゃんと送ってよね」
「わかってるよ」
素っ気なく答える僕を気に留める様子もなく、司は無言で食事を続けたが、しばらくすると口を開いた。
「ちゃんと食べるようになったんだな」
「僕も一応プロだしね。身体も鍛えてる」
「昔は折れそうな程細かったもんな。今の方が抱き心地は良さそうだ」
頬杖をついてニコニコこちらを見ている司を無視して僕は食事を続けた。
「ほんと、つれねぇなぁ」
司は諦めたように残りの食事を口に運んでいる。
「そう言えばお前、フランスには帰ってんのか?」
「最近は帰れてないけど、心配しなくても連絡はしてる。司こそ母さん達には会ってないの?」
僕の母は希海の母と幼なじみで、もちろん司も幼い頃から知っている仲だ。
僕がフランスにいる頃も何度かうちに訪れた事がある。今は海外に拠点を置いている司が、フランスへ全く立ち寄る事がないとは思えなかった。
「そうだなー……。しばらく顔出してないわ。だいたいアイツの顔なんて見たくねぇしな」
「相変わらず父さんのこと苦手なんだ」
「苦手じゃない、嫌いだ。お前がアイツに1ミリも似てなくて本当に良かったわ」
大嫌いな野菜でも食べた子供のようなしかめっ面で司は答える。司が父さんの事を苦手なのは態度で分かっていたが、これ程とは思っていなかった。
まあ、元々人の好き嫌いははっきりしていたから、単にウマが合わないだけなのかも知れないけれど。
でもそれだけじゃない、僕の知らない確執のようなものがあるのだろうかと僕はなんとなく思った。
そう言って連れてこられたのは、海沿いにあるラグジュアリーなホテルだった。周りは雨の降った様子もなく、そこには青空が広がっていた。
「まさかここに泊まってるなんて事ないよね?」
嫌味を込めて司に尋ねると、「お前が泊まりたいなら部屋取るけど?」と、わざわざ耳打ちされる。
「そんなわけないでしょ。付き合うのは食事だけだから」
素っ気なくそう返すと、「つれないなぁ」とにこやかに司は笑った。
通されたのは、高層階にあるレストラン。平日ではあるがそれなりに混み合っているのを横目に、案内された個室に入る。
全面ガラス張りの窓からは、港を行き来する船や水平線の向こうに白い雲が浮かんでいるのが見えた。
武琉に見せたらきっと目を輝かせて喜んでくれるんだろうな……
そう思うと無性に武琉に会いたくなる。ほんの少しだけ離れているだけなのに、長い間会えていないような、今はそんな気分だ。
ずっと一緒にいようと約束したけど、本当は不安に思っている。武琉に好きな人ができていつか去って行くのではないかと。
けれど、今日交わしたキスで、もしかしたら武琉も同じ気持ちでいてくれているのかも知れないと期待してしまう。
武琉にもっともっと触れたくて、彼の全て欲しいと希う僕の気持ちと。
「お前、何考えてる?」
窓際で景色を眺めて立っていた僕のそばで司は尋ねる。
「何も?」
視線を外に向けたまま答えるが、司に肩を抱かれ向きを変えられる。
「俺に隠したって無駄だろ。お前のこと、生まれた時から見てるのに」
顎を持ち上げ顔を近づけてくる司の腕を払うと、僕は顔を背けた。
「そんなことするんだったら帰る」
その言葉に、あっさりと降参したかのように司は両手を上げ、「何もしねーよ」とテーブルに向かい椅子を引く。
「ほら、座れ。香緒」
僕はそれに素直に従いテーブルに着いた。
しばらくして運ばれて来たのはランチのコース料理。もちろん見栄え良く盛り付けられ、いかにもSNS映えしそうな料理の数々だが、さほど食欲は沸かなかった。
「酒飲みてぇけど、さすがに車だから無理だな。お前はどうする?」
「僕も車で帰るからいらない。帰りはちゃんと送ってよね」
「わかってるよ」
素っ気なく答える僕を気に留める様子もなく、司は無言で食事を続けたが、しばらくすると口を開いた。
「ちゃんと食べるようになったんだな」
「僕も一応プロだしね。身体も鍛えてる」
「昔は折れそうな程細かったもんな。今の方が抱き心地は良さそうだ」
頬杖をついてニコニコこちらを見ている司を無視して僕は食事を続けた。
「ほんと、つれねぇなぁ」
司は諦めたように残りの食事を口に運んでいる。
「そう言えばお前、フランスには帰ってんのか?」
「最近は帰れてないけど、心配しなくても連絡はしてる。司こそ母さん達には会ってないの?」
僕の母は希海の母と幼なじみで、もちろん司も幼い頃から知っている仲だ。
僕がフランスにいる頃も何度かうちに訪れた事がある。今は海外に拠点を置いている司が、フランスへ全く立ち寄る事がないとは思えなかった。
「そうだなー……。しばらく顔出してないわ。だいたいアイツの顔なんて見たくねぇしな」
「相変わらず父さんのこと苦手なんだ」
「苦手じゃない、嫌いだ。お前がアイツに1ミリも似てなくて本当に良かったわ」
大嫌いな野菜でも食べた子供のようなしかめっ面で司は答える。司が父さんの事を苦手なのは態度で分かっていたが、これ程とは思っていなかった。
まあ、元々人の好き嫌いははっきりしていたから、単にウマが合わないだけなのかも知れないけれど。
でもそれだけじゃない、僕の知らない確執のようなものがあるのだろうかと僕はなんとなく思った。
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