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7.おじさんと妄想夢小説
ある寒い朝。起きる気力も予定も無いおじさんは、もぞもぞと布団の中でスマホを弄っていた。一切の外出予定が無い日は、このように怠惰に過ごすこともある。
何かのきっかけがあり、おじさんは理想のセックスを描き出すことにしたらしい。メモ帳アプリを起ち上げ、導入から書こうとしている。指がコツコツと画面を叩き、無為に空白を増やしていく。ぐう、と腹が鳴り、自らの空腹と喉の渇き、尿意に耐えきれなくなったおじさんは、一旦スマホを置いて起きることにした。
緩く腹を満たしながら、どう書いたものかとまず設定を練る。おじさんの好みは年上だが、その年上の範囲というのが大学生の頃から変わっておらず、既に年下になってしまった範囲が二十年程ある。自分好みの男に抱かれる男はどういう人間にしようか、そもそも人間がセックスに至るにはどのような過程を辿るのだろうか、などと自分の人生に無かった要素を滔々と考える。そして不意に降りて来た思い付きに再びスマホを握る。
『好きにされたいから、ついていったんだ』
その一文を打ち込み、冷静になってから、パンくずの付いた手とスマホを拭う。よく考えたら食べながらスマホを弄るのはよくない。おじさんは小説の構想を練りながら食事を終える。
おじさんが家事や排泄を済ませつつ、決めたことを幾つか挙げる。性行為をする両者は大学生。二人でバーか何かに行き、初めての飲酒で酔っ払って判断力を削がれた男が、酔っ払わせて判断力を削いだ男と連れ込み宿に入り性行為をする。前者の男が後者の男についていったのはどうされても構わないと思うほど好いていたから。二人の関係は何だろう、同じサークルの先輩後輩か何かじゃないか。
単純で独創性のない筋立てだ、とおじさん自身考えていたが、本筋はそこではない。目的は理想のセックスを書くことだ。おじさんは机の上を綺麗にし、布団を背に被ってスマホを握った。
おじさんは早速、決まった設定をそれらしく整えて、拙いフリック入力で打ち込み始めた。
『へえ、秋彦くん、お酒飲むの初めてなんだ』
我々は期せずしておじさんの本名を知ることになった。ついでに言えば苗字は渡邊、名前は秋彦である。
「……うわ」
おじさんは無意識のうちに打ち込んでいた秋彦という名前を消した。少し迷った後、画面の中の主人公の名前を『アキ』に変えた。自分の名前の短縮形であるが、可愛らしい響きである。おじさん自身は、未だかつて――親にすら――そのような仇名で呼ばれたことはない。相手の男の名前の必要もあることに気付き、おじさんは秋の対だからハルでいいやと投げやりに考える。最終的にセックスを書くのが目的なのだから、最悪、名前は何でもいいのだ。
『ハルさん』
抱かれる男が抱く男の名前を呼ぶと、おじさんは耳が熱くなった。前後と合わせると自分で読んでいても照れ臭くなる台詞だ。好きであることがかなりにじみ出ている。おじさんは喜びに浸りながら続きを打ち込む。
『アキちゃん、もう戻れないよ。いいの?』
『そう言いながらハルは手の中で潤滑液を揉んだ。ねちゃねちゃといういやらしい粘性の音に、アキは好いた男に抱かれる覚悟を決めた。』
フリック入力のコツを掴んだのか、だんだんと執筆スピードが速くなっていった。目が疲れたので時折遠くを見て、座りっぱなしは身体に悪いからとたまに立ち上がって洗濯物を干したり、目についたところの掃除をしたりする。おじさんの集中力はそんなに長続きしない。ぐるぐると頭の中を巡る発想が頭から飛び出る前に吐き出し、飽きたらちょっと立ち上がるのを繰り返す。
『ハルさんに好きにされたいから、ついていったんです』
初めに書いたセリフを少し変え、二人共裸になり、性行為する直前まで書き進めた頃には、再び食事を取りたいと思うようになるほど時間が経っていた。いつものルーティーン通りに食事を取る――スマホを見ながら、行儀悪く。
照れながら濡場のシーンを書き進める。性行為に持ち込むまでは展開上の都合もあって乱暴だが、ベッドに入ってからは抱かれる側が嫌と言っても止めないくらい前戯をしつこくやってくれる。書くことに集中しているとご飯がすっかり冷めてしまい、おじさんは慌ててスマホを置いて食事を終えた。
『そんなっ、そんなことするんですか? あっ、だめ、舐めたら、汚い……』
抱く男は陰茎を舐めながら尻の穴を穿っている。洗っていないので確かに汚い。コンドームを付ける描写を付けたし、後も矛盾が無いように変更する。おじさんは前戯をしつこくやってくれる男が好みなのか? いや、単に甘やかされたいだけだ。ちょっと意地悪もしてくれると嬉しい。しかも今書いている男は初めて性行為をする。酷い目に遭うよりはいい。
『ハル、さん、あっ! だめ、そこ、あんっ! おれ、だめになっちゃう……』
初めてやる男がこんなにも乱れるものか? おじさんは思い悩み、手が止まった。
『本当に初めて?』
登場人物に同じ疑問を抱かせることにする。自分でもわからないということにする。きっとアキがハルさんを心底愛しているからだ。真実の愛ってやつ。おじさんは真実の愛を妄信していた。意外とロマンチストだった。
果たして自分はどうだろう、とおじさんは自制する。好いた男が出来たとして、その男に触れられて、小説の中のアキと同じように乱れられるだろうか。きっとできるだろう。おじさんはアキとは違い、お尻の穴は開発されきっていて、自分で掻き回しているだけで気持ちいい。
画面の中の性行為はいよいよ挿入の段階に至る。この程度の慣らしで大丈夫なのか、という疑問はあまり考えないことにした。画面の中のアキは潤んだ目で自分を抱く男を見上げ、荒い呼吸で初めて男根を受け入れている。腹の中を揺さぶられて、とても気持ちよさそうだ。
おじさんは自分が尻穴に初めてものを入れた時のことを思い出した。無理をしたからちょっと痛かったけど、次からは上手く入れられた。あの時は自分がこの歳になるまで生きているとは思わなかったし、未だに一人で寂しい腹をいじめているとは考えても居なかった。回想をしながらも、文章を書く手は止めない。
ハルの手がアキの胸に触れる。アキはその手首を掴む。愛撫を拒否するのではない。もっとしてと乞う手だ。
『ふ、あ、あっ、だめ、じゃない、きもちいい、です、すごくいい、でも、きもちよすぎて、はっ、ハルさんに触られてるとこ、全部……うぅっ……』
さっきからずっと顔が熱いおじさんは、冷たい手を頬であたためる。おじさんの中でアキはもう自分ではなく、一個の独立したキャラクターとして存在していた。想い人が居て、その相手がどうであれ一途で、若くて迂闊で盲目で純真で。
――いいな。
おじさんは自分もおちんちんを入れる――自慰をすることにした。そういえば二人の服を脱がせていないことに気付き、一行前に服をずり上げた描写を足しつつ現実のディルドにゴムを被せる。画面の中のアキは尻穴を碌に洗っていないので便が漏れるかもしれないが、そのような描写はロマンチックではないので考慮しないことにした。
自分の尻穴を片手で解しながら、画面の中の行為も過熱していく。ハルさんの愛撫にアキは乱れ、善がる口が寂しいと感じる。
「ふっ、ぅ、ん゙、ぁ゙、はっ、ぅ……♡」
――キスってどんな感じなんだろう。
おじさんは幾度となく欲した思考に、手で唇に触れようとして止める。尻に触れた指は潤滑液でねとねとしていた。もう尻穴は十分に解れていた。ゴムが被ったディルドを床に置き、手を洗って潤滑液を落とし、先端だけ尻穴で咥えて続きを書く。
「っ、ふ……」
画面の中の性行為はかなり背を屈めて腰を振り、念願叶って口付けをする。驚いたハルにアキが怯え、再度の口付けで安心を得る。それから硬い尻に硬い腰がぶつかって、ゴムの中に精液が出される。それだけ。ピロートークは後で書く。おじさんはスマホを置き、ぬちぬちと機械的に腹の中を掻き回した。
「ぁ゙、ふ、ぅ゙、ぁ゙♡ はっ、は、ん゙、ぁ゙♡ ぁ゙、は、ぁ゙、ん゙、ふっ、は、ぁ゙、は、あっ、ん゙、く……っ♡」
小説を書いて興奮していたおかげで、おじさんの絶頂は早めに来た。腹の中がビクンビクンと痙攣し、おじさんは尻穴にディルドを入れたまま、再びスマホを手に取った。
どういう会話をさせようか、と考える。アキは初めての快感でハルに縋りつくことしか出来ず、幸福の只中に飛んでいる。ホテルで寝るのか? それはない。ならハルは自分が腰砕けにしたアキを抱えてこのままどこに行くんだ? わからなくなったおじさんはとりあえず下半身に何か着ることにした。暖房を点けるほどではなかったが、今日は寒かった。
自慰を終えた頃にはすっかり日が沈んでいた。今日一日スマホと向き合って終わってしまった。目薬を差してから空腹を満たすため冷蔵庫を漁る――限りなく空に近かった。買い物は明日の昼休みか、仕事帰りにでもすればいい。
「キス……」
おじさんは食事をしながらスマホを弄り、セックスを終えた二人が眠るまでを書きながら、箸を唇で食んでいた。きっとこれとは似ても似つかないだろう。キスばかりは自慰でも出来ない。おじさんは一日かけて書いた小説を保存し、紙の買い物メモの一番上の欄にマシュマロと書いた。
数日後、暇を見つけて再び一通り誤字脱字を直しながら読み返してみると、この小説がかなり自分好みの出来であることに気付いた。何かを作り上げるって素晴らしいことだなぁと思いながらも、その日の眠りが浅かったことを考えるとあまり目に良い趣味ではないとも思う。書きたいことを書き切ってしまったし、おじさんが次作を書くにはしばらく待たねばなるまい。
おじさんはこの小説を保存し、たまに読み返してはおかずにするようになった。
※夢小説というタイトルなんだから、おじさんがたまたま見た深夜アニメのリザードマンに一目惚れして夜毎悶々としているのを発散するためにエロ小説を書く話にすればよかった。
何かのきっかけがあり、おじさんは理想のセックスを描き出すことにしたらしい。メモ帳アプリを起ち上げ、導入から書こうとしている。指がコツコツと画面を叩き、無為に空白を増やしていく。ぐう、と腹が鳴り、自らの空腹と喉の渇き、尿意に耐えきれなくなったおじさんは、一旦スマホを置いて起きることにした。
緩く腹を満たしながら、どう書いたものかとまず設定を練る。おじさんの好みは年上だが、その年上の範囲というのが大学生の頃から変わっておらず、既に年下になってしまった範囲が二十年程ある。自分好みの男に抱かれる男はどういう人間にしようか、そもそも人間がセックスに至るにはどのような過程を辿るのだろうか、などと自分の人生に無かった要素を滔々と考える。そして不意に降りて来た思い付きに再びスマホを握る。
『好きにされたいから、ついていったんだ』
その一文を打ち込み、冷静になってから、パンくずの付いた手とスマホを拭う。よく考えたら食べながらスマホを弄るのはよくない。おじさんは小説の構想を練りながら食事を終える。
おじさんが家事や排泄を済ませつつ、決めたことを幾つか挙げる。性行為をする両者は大学生。二人でバーか何かに行き、初めての飲酒で酔っ払って判断力を削がれた男が、酔っ払わせて判断力を削いだ男と連れ込み宿に入り性行為をする。前者の男が後者の男についていったのはどうされても構わないと思うほど好いていたから。二人の関係は何だろう、同じサークルの先輩後輩か何かじゃないか。
単純で独創性のない筋立てだ、とおじさん自身考えていたが、本筋はそこではない。目的は理想のセックスを書くことだ。おじさんは机の上を綺麗にし、布団を背に被ってスマホを握った。
おじさんは早速、決まった設定をそれらしく整えて、拙いフリック入力で打ち込み始めた。
『へえ、秋彦くん、お酒飲むの初めてなんだ』
我々は期せずしておじさんの本名を知ることになった。ついでに言えば苗字は渡邊、名前は秋彦である。
「……うわ」
おじさんは無意識のうちに打ち込んでいた秋彦という名前を消した。少し迷った後、画面の中の主人公の名前を『アキ』に変えた。自分の名前の短縮形であるが、可愛らしい響きである。おじさん自身は、未だかつて――親にすら――そのような仇名で呼ばれたことはない。相手の男の名前の必要もあることに気付き、おじさんは秋の対だからハルでいいやと投げやりに考える。最終的にセックスを書くのが目的なのだから、最悪、名前は何でもいいのだ。
『ハルさん』
抱かれる男が抱く男の名前を呼ぶと、おじさんは耳が熱くなった。前後と合わせると自分で読んでいても照れ臭くなる台詞だ。好きであることがかなりにじみ出ている。おじさんは喜びに浸りながら続きを打ち込む。
『アキちゃん、もう戻れないよ。いいの?』
『そう言いながらハルは手の中で潤滑液を揉んだ。ねちゃねちゃといういやらしい粘性の音に、アキは好いた男に抱かれる覚悟を決めた。』
フリック入力のコツを掴んだのか、だんだんと執筆スピードが速くなっていった。目が疲れたので時折遠くを見て、座りっぱなしは身体に悪いからとたまに立ち上がって洗濯物を干したり、目についたところの掃除をしたりする。おじさんの集中力はそんなに長続きしない。ぐるぐると頭の中を巡る発想が頭から飛び出る前に吐き出し、飽きたらちょっと立ち上がるのを繰り返す。
『ハルさんに好きにされたいから、ついていったんです』
初めに書いたセリフを少し変え、二人共裸になり、性行為する直前まで書き進めた頃には、再び食事を取りたいと思うようになるほど時間が経っていた。いつものルーティーン通りに食事を取る――スマホを見ながら、行儀悪く。
照れながら濡場のシーンを書き進める。性行為に持ち込むまでは展開上の都合もあって乱暴だが、ベッドに入ってからは抱かれる側が嫌と言っても止めないくらい前戯をしつこくやってくれる。書くことに集中しているとご飯がすっかり冷めてしまい、おじさんは慌ててスマホを置いて食事を終えた。
『そんなっ、そんなことするんですか? あっ、だめ、舐めたら、汚い……』
抱く男は陰茎を舐めながら尻の穴を穿っている。洗っていないので確かに汚い。コンドームを付ける描写を付けたし、後も矛盾が無いように変更する。おじさんは前戯をしつこくやってくれる男が好みなのか? いや、単に甘やかされたいだけだ。ちょっと意地悪もしてくれると嬉しい。しかも今書いている男は初めて性行為をする。酷い目に遭うよりはいい。
『ハル、さん、あっ! だめ、そこ、あんっ! おれ、だめになっちゃう……』
初めてやる男がこんなにも乱れるものか? おじさんは思い悩み、手が止まった。
『本当に初めて?』
登場人物に同じ疑問を抱かせることにする。自分でもわからないということにする。きっとアキがハルさんを心底愛しているからだ。真実の愛ってやつ。おじさんは真実の愛を妄信していた。意外とロマンチストだった。
果たして自分はどうだろう、とおじさんは自制する。好いた男が出来たとして、その男に触れられて、小説の中のアキと同じように乱れられるだろうか。きっとできるだろう。おじさんはアキとは違い、お尻の穴は開発されきっていて、自分で掻き回しているだけで気持ちいい。
画面の中の性行為はいよいよ挿入の段階に至る。この程度の慣らしで大丈夫なのか、という疑問はあまり考えないことにした。画面の中のアキは潤んだ目で自分を抱く男を見上げ、荒い呼吸で初めて男根を受け入れている。腹の中を揺さぶられて、とても気持ちよさそうだ。
おじさんは自分が尻穴に初めてものを入れた時のことを思い出した。無理をしたからちょっと痛かったけど、次からは上手く入れられた。あの時は自分がこの歳になるまで生きているとは思わなかったし、未だに一人で寂しい腹をいじめているとは考えても居なかった。回想をしながらも、文章を書く手は止めない。
ハルの手がアキの胸に触れる。アキはその手首を掴む。愛撫を拒否するのではない。もっとしてと乞う手だ。
『ふ、あ、あっ、だめ、じゃない、きもちいい、です、すごくいい、でも、きもちよすぎて、はっ、ハルさんに触られてるとこ、全部……うぅっ……』
さっきからずっと顔が熱いおじさんは、冷たい手を頬であたためる。おじさんの中でアキはもう自分ではなく、一個の独立したキャラクターとして存在していた。想い人が居て、その相手がどうであれ一途で、若くて迂闊で盲目で純真で。
――いいな。
おじさんは自分もおちんちんを入れる――自慰をすることにした。そういえば二人の服を脱がせていないことに気付き、一行前に服をずり上げた描写を足しつつ現実のディルドにゴムを被せる。画面の中のアキは尻穴を碌に洗っていないので便が漏れるかもしれないが、そのような描写はロマンチックではないので考慮しないことにした。
自分の尻穴を片手で解しながら、画面の中の行為も過熱していく。ハルさんの愛撫にアキは乱れ、善がる口が寂しいと感じる。
「ふっ、ぅ、ん゙、ぁ゙、はっ、ぅ……♡」
――キスってどんな感じなんだろう。
おじさんは幾度となく欲した思考に、手で唇に触れようとして止める。尻に触れた指は潤滑液でねとねとしていた。もう尻穴は十分に解れていた。ゴムが被ったディルドを床に置き、手を洗って潤滑液を落とし、先端だけ尻穴で咥えて続きを書く。
「っ、ふ……」
画面の中の性行為はかなり背を屈めて腰を振り、念願叶って口付けをする。驚いたハルにアキが怯え、再度の口付けで安心を得る。それから硬い尻に硬い腰がぶつかって、ゴムの中に精液が出される。それだけ。ピロートークは後で書く。おじさんはスマホを置き、ぬちぬちと機械的に腹の中を掻き回した。
「ぁ゙、ふ、ぅ゙、ぁ゙♡ はっ、は、ん゙、ぁ゙♡ ぁ゙、は、ぁ゙、ん゙、ふっ、は、ぁ゙、は、あっ、ん゙、く……っ♡」
小説を書いて興奮していたおかげで、おじさんの絶頂は早めに来た。腹の中がビクンビクンと痙攣し、おじさんは尻穴にディルドを入れたまま、再びスマホを手に取った。
どういう会話をさせようか、と考える。アキは初めての快感でハルに縋りつくことしか出来ず、幸福の只中に飛んでいる。ホテルで寝るのか? それはない。ならハルは自分が腰砕けにしたアキを抱えてこのままどこに行くんだ? わからなくなったおじさんはとりあえず下半身に何か着ることにした。暖房を点けるほどではなかったが、今日は寒かった。
自慰を終えた頃にはすっかり日が沈んでいた。今日一日スマホと向き合って終わってしまった。目薬を差してから空腹を満たすため冷蔵庫を漁る――限りなく空に近かった。買い物は明日の昼休みか、仕事帰りにでもすればいい。
「キス……」
おじさんは食事をしながらスマホを弄り、セックスを終えた二人が眠るまでを書きながら、箸を唇で食んでいた。きっとこれとは似ても似つかないだろう。キスばかりは自慰でも出来ない。おじさんは一日かけて書いた小説を保存し、紙の買い物メモの一番上の欄にマシュマロと書いた。
数日後、暇を見つけて再び一通り誤字脱字を直しながら読み返してみると、この小説がかなり自分好みの出来であることに気付いた。何かを作り上げるって素晴らしいことだなぁと思いながらも、その日の眠りが浅かったことを考えるとあまり目に良い趣味ではないとも思う。書きたいことを書き切ってしまったし、おじさんが次作を書くにはしばらく待たねばなるまい。
おじさんはこの小説を保存し、たまに読み返してはおかずにするようになった。
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