山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

15 軍議 3

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「……傭兵などでもよければ、私もいくつか心当たりがあります」
「事ここに至っては、傭兵などを独立部隊として活用するのも良いでしょう。既存の部隊に組み込んでは、命令伝達や連携に支障をきたす恐れがあります」
 全員の視線がノアに集まり、ようやく、議論がわずかに前進した。それに触発されてか、これまで一言も発していなかったサンテソン図書省長官が口を開いた。
「私は門外漢もんがいかんながら……ラインフェルト将軍は三千の兵を率いてヘルストランドに救援に来られました。これは麾下きかの大半と聞いております。東部の守りは大丈夫なのですか?」
 ラインフェルトは、イェネストレームなどカッセル王国に近い東部地域の守備を担当していた。当地に残る守備部隊は千に満たない。
「心配はごもっともなこと。しかし、三つの理由により、東方の守りは問題ありませぬ。一つにはノア王子のもたらしたカッセルとの関係修復、二つにはカッセルが周辺地域を取得することの戦略的価値の低さ、三つには……いま取ることの無意味さです。カッセルがうかつに攻め入ったあとでリードホルムが勝てば、築き上げた両国の関係は水泡に帰し、ふたたび戦争に明け暮れる時代を迎えるでしょう。我が国の東部地域が欲しければ、リードホルムの負けを見届けた後、悠々と制圧すればよい。これら三つの要素が相互に影響しあい、状況を揺るがぬものとしています」
「わ、我が国が負けるなどと不吉な!」
「今はそれどころではございません」
 ラインフェルトの言葉の枝葉にフォッシェル典礼省庁間が金切り声を上げたが、隣のサンテソンが制した。
「なるほど。軍略家と名高いラインフェルト将軍らしい見識、恐れ入った」
「……まあ、万が一カッセル軍が攻め入ってきたとして、ヘレニウスを残してきております。あやつならば残存部隊と臨時徴募ちょうぼした兵だけで、ひと月は持ちこたえるでしょう」
「ほう、ヘレニウスは残してきたか」
此度こたびはマリーツめを連れてきております」
 レイグラーフは懐かしそうにラインフェルトに声をかけた。
 ヘレニウス、マリーツはともに、将来を嘱望しょくぼうされるラインフェルトの高弟だ。東方軍はここ数年ほど実戦がほとんどなかったため経験には乏しいが、訓練や野盗の討伐では着実な成果を上げていた。

 その後も軍議は続き、防衛戦の基本方針が決定された。ノルドグレーン軍の陣容に不明な点はあるが、よほど予想外の展開がない限り、採るべき手段に変更を加えることはなさそうだ。
「地の利を活かしてジュニエスでの野戦にて迎え撃つ、ということで異論はございませんな」
「ソルモーサンのような小さな砦に立てこもっても仕方なかろう」
「あの砦は、正直に申し上げてさほど堅牢とは言えませぬからな。地形の利があったため、そもそも強固である必要がなかったのです。収容できる兵の数も少ない」
 戦いに挑むというのに、室内の雰囲気はどこか消極的で陰鬱いんうつだった。ノルドグレーンの仕掛けてくる圧倒的な戦略に対して後手に回る対策しか出せないのだから、陽気になど振る舞えようもない。
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